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妊婦さんやその家族にとって、大切なイベントである「戌の日」の安産祈願。この戌の日、どうやって決まるかはご存知ですか。2019年のカレンダーや神社にお参りするときのしきたりを、民俗情報工学研究家の井戸理恵子先生に教えてもらいました。
日本では、戌の日に妊婦およびその家族が神社や寺に行き安産祈願をする習慣があります。これは、動物の犬の出産が安産であることに由来している行事。妊婦の体調が安定してくる妊娠5カ月目の最初の戌の日に安産を祈って祈祷をしてもらいます。またその場で予め準備した腹帯(神社によっては祈願時にいただけるところもあります)を一緒に祈祷してもらい、その後締めるというわけです。
かつて日本では、妊娠時には「神社に行ってはいけない」という考え方がありました。その理由は、出産は生死を分かつ行為であり、不浄なものとされていた「血」とのつながりが強かったため。ですが戌の日だけは、前述の由来から安産祈願をすることが許されていました。
戌の日には、腹帯(戌帯、岩田帯とも呼ぶ)を巻いて安産の祈祷をしてもらいます。腹帯には妊婦の膨らんでくるお腹を支えたり、冷えから守るという効果があります。また、昔は邪気を寄せ付けないようにということで、布の端に赤く「寿」と刺繍をしたり文字を書いたりした、木綿の帯と紅白の絹帯を巻いていたそうです。祈祷をしてもらうのは神社でも寺でも問題ありません。
戌の日には安産祈願をした後、帰宅して祝い膳を囲みます。この膳を食べる際に、かつては産まれてくる子の性別を占う習慣もありました。中央に小豆が入った紅白餅を箸で切ったときに小豆も切れると「女の子」、切れないと「男の子」と占ったといいます。また、東京都八王子市にある「子安神社」などでは、お参り時に底が抜けているひしゃくで水をくむ動作をします。底が抜けているひしゃくは水が滞りなく流れることから、安産であることを祈る行為です。
ではこの戌の日、カレンダーではどうやって決まるのでしょうか。
日本には中国から伝わった「干支」という考え方があり、1年ごとに干支が変わりますね。実はこの干支、一般的に知られている"年"だけではなく"月"や"日"にもあてはまります。今回は戌の"日"ということですが、12年間で干支が一周するように12日間で日にあてはまる干支も一周します。つまり、日ごとに「子丑寅……」と干支が変わり、戌の日も12日に1回やってきます。
【2019年】
ここからは戌の日の行事を行う際に生じやすい疑問点について、その答えを紹介します。
お参り先の神社や寺によっては、戌の日のご祈祷を依頼すると腹帯をいただけるところもあります。これについては事前に問い合わせて確認しておきましょう。もしお参りの希望先で腹帯のお渡しがない場合は、自分たちで事前に用意しておくことが必要です。
なお神社や寺で腹帯を渡されても、その場でいただいた腹帯をつけて祈祷を受けなければいけないということではありません。いずれにしても「戌の日に腹帯を巻く」ということが重要。一般的には祈祷していただき、自宅に戻ってからゆっくり落ち着いて巻く、というのが良いでしょう。
また、実は祈祷を受けるのは戌の日以前の、大安や天恩日など暦上の良き日でも大丈夫。上述のように、戌の日には「腹帯を巻く」ことが最も大切です。
現在は東京の場合は「水天宮」や「子安神社」など、安産祈願で人気の神社に行く人が増えていますが、もともとは「産土(うぶすな)の神様」へ行くのが一般的でした。産土とは、自分が産まれた土地の神社のこと。迷った場合は、自分が生まれ育った故郷の神社に行くのもひとつの手です。
お参りの候補日の六曜が「仏滅」であるなど、良くないとされる日取りであった場合はどうすればいいのでしょうか。
もし戌の日と六曜の関係で日取りを迷った場合は、六曜ではなく戌の日を優先して問題ありません。また六曜には1日の中で吉の時間帯や凶の時間帯が存在するので、たとえ赤口でもお昼前後は大丈夫ですし、仏滅の日も夕方は避けて行くようにすれば良いですよ。
安定期に入っても、体調が悪くお参りに行くのが難しい妊婦さんもいるでしょう。その場合は代理の人にお参りに行ってもらってもOK。祈祷の際に妊婦本人の生年月日が必要となることが多いので、夫や親など妊婦と近しい関係の人が把握したうえで、代わりに祈祷してもらいます。
明確なルールがあるわけではありませんが、正式な場での行事なのでフォーマルな服装を心がけましょう。女性はワンピース、男性はスーツなどがベストです。
安産祈願の参拝とともにご祈祷をしてもらう際は、初穂料のお納めをします。神社(寺)によって料金を決めているところもあるので、事前に確認しておきましょう。もし決まっていない場合、一般的には3,000円~1万円程度。初穂料は自分の気持ちとしてお渡しするものなので、自分が安産祈願として納得できる額をお渡しするのが良いですね。
大切なわが子のため、また自分自身や家族の身体の健康のために、しっかりお参りして安産を願いましょう。
監修: 井戸理恵子
井戸理恵子(いどりえこ)
ゆきすきのくに代表、民俗情報工学研究家。1964年北海道北見市生まれ。國學院大學卒業後、株式会社リクルートフロムエーを経て現職。現在、多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執る傍ら、日本全国をまわって、先人の受け継いできた各地に残る伝統儀礼、風習、歌謡、信仰、地域特有の祭り、習慣、伝統技術などについて民俗学的な視点から、その意味と本質を読み解き、現代に活かすことを目的とする活動を精力的に続けている。「OrganicCafeゆきすきのくに」も運営。坐禅や行事の歴史を知る会など、日本の文化にまつわるイベントも不定期開催。