鉄より強く、圧倒的に軽い。繊維技術から生まれた「CABKOMA(R)工法」が建築技術性能証明を取得
日本は世界有数の地震大国。それはわかっているが、それにしてもこのところ頻繁に国内で大きな地震が発生している。ニュース映像に映し出される、無残に倒壊した建物の姿。その惨状に、明日は我が身と不安を感じている人は多いだろう。
とりわけ深刻なのが、1981年の新耐震基準施行前に建設された鉄骨造の工場や倉庫。ここでの耐震性能の不足が今、大きな課題として浮上している。地震が頻発する現在、利用者の安全確保やBCP(事業継続計画)の観点から、建物の耐震補強はまさに急務。
しかし、現場には越えなければならない厚い壁がある。昨今の建築価格の高騰。そして何より「工場の操業を止められない」という製造現場の切実な事情。従来の重い鋼製ブレースを用いた施工では、大掛かりな足場や重機が必要となり、工事は困難を極め、長期化してしまう。これらが原因で、耐震化が一向に進まない実態が問題視されているのだ。
そんな中、ひとつの画期的な解決策が提示された。石川県に本社を置く繊維メーカー・小松マテーレ株式会社が、長年の繊維加工による経験を活かして2014年に開発した「熱可塑性炭素繊維複合材料撚り線(よりせん)」。これを活用することで実現した、鉄骨造屋根面の水平構面を耐震補強する新技術「CABKOMA(R)(カボコーマ)工法」が、一般財団法人日本建築総合試験所(GBRC)より建築技術性能証明を取得したのだ。
2026年9月11日(金)、東京・南青山で、その次世代の耐震ソリューションの全貌を紐解く「CABKOMA(R)工法」建築技術性能証明取得発表会が開催された。その模様をレポートする。
苦難の歴史を乗り越え、自社工場で実証した“確かな自信”
発表会の冒頭、主催者を代表して小松マテーレ株式会社 代表取締役社長の中山大輔氏が登壇した。
「私自身、石川県で生まれ育ち、子どもの頃から『石川県は地震も台風もない安全な場所だ』と言われてきました。しかし、2007年の能登半島地震で、あろうことか地元が大きな揺れに見舞われました。こんな地震が石川にも来るのかと、ハッとさせられたのです」
当時の強い危機感が、同社を耐震補強材の開発へと駆り立てたという。「王道を走る大手に対し、我々は畦道を走りながらニッチなマーケットを開拓したい」。その思いで着目したのが、地元・石川県に脈々と受け継がれる伝統工芸「組紐(くみひも)」の技術だった。
炭素繊維の糸をロープ状の組紐にすることで、耐震補強材になるのではないか。2010年から開発をスタートし、2014年にようやく形になったものの、立ちはだかったのは「実績がない」「公的認証がない」という壁。誰も使ってくれないのなら、まずは自分たちで証明するしかない。
同社は自社ビル(現・ファブリックラボラトリー「fa-bo」)や、稼働中の自社工場の耐震補強にCABKOMAを採用。そして2024年の能登半島地震において、震度5強の揺れに見舞われながらも補強した建物は無傷。その高い耐震性能を、身をもって実証したのである。
「遅々として進まなかったこの耐震補強材を世に広め、悩みを抱える多くの方々にお届けしたい」。中山社長の言葉には、確かな自信と熱意が込められていた。
圧倒的な軽さと強さがもたらす施工革命と、専門家が語る無限のポテンシャル
続いて、技術主任の細川穂奈美氏、そして本工法の開発に多大な協力をした構造家であり日本女子大学教授の江尻憲泰氏から、技術的な詳細が語られた。
細川氏が強調したのは、「工場の操業を止めずに耐震補強ができる」という最大の強み。
CABKOMAストランドロッドは、「軽い」「強い」「錆びない」「熱伸びしにくい」という4つの特長を持つ。比重は鋼材のわずか5分の1。非常に軽いため、大掛かりな重機も不要で、簡易的な足場だけで作業が可能だ。実際の自社工場の施工では、平日24時間稼働のラインを一切止めず、週末の隙間時間を利用して施工を完了させたという。
「総工事費の比較でも、材料費こそ従来工法より割高ですが、施工費が大幅に抑えられるため圧倒的に優位。何より、操業を止めないことで生産継続ができ、実質的な事業損失は0円です」と細川氏。工期も約45%短縮されるなど、事業者にとってのメリットは計り知れない。
これを受け、江尻教授は専門家の視点からCABKOMAの可能性に言及。
「炭素繊維は製造時のCO2排出量が多いと言われますが、非常に軽くて強固。運搬や施工、メンテナンス不要で錆びない点までLCA(ライフサイクルアセスメント)全体で考えれば、環境への優位性は高い」
さらに、万が一破断して落下した場合でも、軽いため大事故に繋がりにくい「安全性(ロバスト性)」や、細く真っ直ぐに張れることによる「デザイン性」の高さを絶賛。「繊維のプロである小松マテーレだからこそ到達できた技術。建築業界の人間では開発できなかっただろう」と惜しみない賛辞を送った。
世界的建築家・隈研吾氏が語る「建築素材の大転換」
発表会の中盤、世界的建築家である隈研吾氏からのビデオメッセージがスクリーンに投影された。隈氏もまた、初期段階からCABKOMAの可能性を見出し、数々のプロジェクトで採用してきた一人である。
「建築は重たいもの、硬いものから、柔らかいものへ。より人間に近い有機的なものへと向かっています。CABKOMAはその新しい流れを先取りする素材です」と隈氏。
「20世紀は重く硬い素材で、一刻も早く大きなものを作る時代でした。しかし今は環境の時代であり、リノベーションの時代。古いものを壊すのではなく、大事に生かす時代において、柔軟で施工しやすく、環境にも優しいCABKOMAの力は絶大です。繊維業界が持つ素材の柔軟さや軽さは、今、建築業界が最も必要としているもの。この素晴らしいコラボレーションは、これからの都市や生活を大きく変えていくでしょう」
見て、触れて実感。先端素材のしなやかさと確かな証明
会場の入り口前に設けられた展示スペースには、CABKOMAの魅力を直に感じられるアイテムが並べられていた。
ひときわ目を引いたのは、実際の施工に使われる「撚り線ブレース」の現物と端部見本。指一本でも持てそうなほどの軽さと、しなやかな手触り。芯に炭素繊維、外装にガラス繊維を用いた「組紐」のサンプルからは、北陸の繊維産地ならではの高度な技術が見て取れる。
また、「重さ比較用サンプル」のコーナーでは、同じ長さ(12m)の金属ワイヤーが12.0kgであるのに対し、炭素繊維撚り線が1.0kg、端部金物を付けた撚り線ブレースでも2.9kgという圧倒的な重量差を、持ち比べて実感することができた。
さらに、CABKOMAを用いて耐震補強や保存修理が行われた「善光寺・経蔵」や「小松マテーレファブリックラボラトリー(fa-bo)」の精巧な模型やパネルも展示。そして、今回取得したGBRCの「建築技術性能証明書」も誇らしげに飾られており、公的なお墨付きを得た技術の確かさを無言のうちに物語っていた。
安全な社会基盤づくりへ。未来を紡ぐ次世代の補強技術
質疑応答では、「2030年度に100万平方メートル(5,000平米の工場200棟相当)への普及を目指す」という力強い販売目標も語られた。専任の「環境強靭素材本部」を立ち上げ、まずは国内の工場や倉庫を中心に展開。将来的には海外市場も見据え、本格的な普及拡大へとアクセルを踏み込むという。
地震の脅威から命と建物を守り、同時に経済活動の心臓部である工場の歩みを止めない。小松マテーレの繊維技術が生み出した「CABKOMA(R)工法」は、単なる新しい建築資材の枠を超え、地震大国・日本の安全な社会基盤づくりと、事業者のBCP対策を根底から支える強力な切り札となるに違いない。