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同氏は、選択の影響が世間の購買活動にどう影響するかなどを調査し、実社会の企業等の問題解決につなげる「選択と問題解決」研究の第一人者。和訳版も出版されている著書『選択の科学』は世界的なベストセラーになっている。
インド移民の両親のもとに生まれ、病により10代で視力を失った同氏は、時に困難も生じた自身の半生を回想しながら、さまざまな可能性や機会がある中で「選択」が人生の中に生み出す大きな違いについて力説。その上で「皆さんは、どうやって今の自分になったのか。今の自分になるために何を学んできたのか。どういう選択をしてきたのか、自分の答えを考えてみてください」と来場者に問いかけ、「選択とは、あなたを明日なりたい自分へと変化される唯一のツールであり、人生の物語を選択の観点で振り返ることによって、その答えが何か新しい発見をもたらすはず」と語る。
一方、選択には「選び、見つける力」と「新たな可能性を想像する力」という2つの意味があると論じた同氏は、選択肢が増えすぎることには弊害があるともいい、その上で、24種類のジャムと6種類のジャムを並べる売り場を比較した場合、前者の方が試食する人の割合は多いものの、試食後の購入率は後者の方が10倍以上高くなるという自らの調査結果を紹介。「人は選択肢の多さに惹かれるが、多すぎると選ぶことを難しくしてしまう」という法則を説明すると、スーパーマーケットに並ぶ商品だけをとっても過去50年間で5倍に増え、選択が難しくなっている現代において、「選択の価値を最大限に引き出す鍵は、何を選ぶのか選択することに慎重になること」と説いた。
続いて東京都の小池百合子知事、アサヒグループホールディングスの小路明善会長が登壇し、アイエンガー氏と三者によるパネルディスカッションを実施。「それぞれの人生でキャリア形成のポイントになった選択」と「誰もが性別等にとらわれることなく、自分自身のキャリアを主体的に選択できる社会を構築するために、経営者やリーダーに求められること」というテーマで意見が交わされた。
このうち、2つ目のテーマで「日本に女性が活躍できる環境が十分に整っているかといえば、まだまだだと思う」と述べた小池氏は、その中で東京都がジェンダー平等の取り組みを進めてきた実績を紹介し、「女性の持てる力を活かすことが、東京が元気になって世界一の都市になる鍵だと思う」とコメント。併せて、企業にとって消費者の半分である女性の声を活かすことがさらなる利益を求めるためには必要であるとし、「女性の管理職が一種のメンターになって、次の世代の女性管理職に引き継いでいくようなエコシステムを作っていくことが重要」と自らの考えを述べた。
一方、同じテーマに対して小路氏は、「ジェンダーギャップをゼロにするには、環境と制度と意識の3つを改革することが必要だと思う」と持論を語り、環境で改善すべき例として「家庭環境における女性の理工系分野進出に対する偏見」を挙げる。また、制度の改革については「機会提供の平等と結果の平等を区別して考えるべき」と論じ、生まれもっての性差の違いがある中で「男性と女性の結果の平等を保障する制度作りに今後企業は力を入れていくべき」と語るなど、企業を率いる観点からの多角的な意見を聞くことができた。
そして最後のプログラムでは、「自分の選択が叶えられる社会を作るには」というテーマで、ゲストの3名が高校生と意見を交換。東京都立青山高等学校と豊島岡女子学園高等学校から、小池氏に対して「今年が男女雇用機会均等法の成立から40年を経た今も男女格差が続くことに対して私たちには何ができると思いますか?」と問う質問や、将来外交官もしくは警察官になりたいという生徒からアイエンガー氏に「日本の官僚は女性の割合が圧倒的に低いのですが、アイエンガーさんは今までのキャリアの中で女性の数が少なくて怖気づいてしまった経験はありますか?」と尋ねる質問があり、夢を抱く彼らに三者から貴重なアドバイスが送られた。
未来志向の意見が数々飛び出した会場は、観覧の企業経営者らの共感に満ちた空間に。急速な人口減が進む時代性の観点からも女性が社会で輝ける環境整備は喫緊の課題といえる。こうした議論の場から企業や組織のリーダーに広がる女性活躍の輪が、よりよい社会の構築に繋がっていくことを期待したい。