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―まず、生成AIとは何か教えてください。
「今、世の中に出ているAIという技術の中で、ChatGPTなどが代表的な例です。 人が答えたものに対してAIが自ら考え回答するもので、例えば文章や音声、画像で対応してくれる新しい技術です」
―生成AIはこれまでどのような進化を遂げ、今後どのようになっていくでしょうか?
「生成AIは3つのステージに分かれると言われています。1つ目はANI(Artificial Narrow Intelligence:特化型人工知能)、2つ目がAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)、そして3つ目がASI(Artificial Super Intelligence:人工超知能)。以前までの、スマートフォンやスマートスピーカーに問いかけると答えてくれたり、簡単な検索をしてくれたりするようなものがANIだとすると、より複雑で広範囲な回答ができるようになってきたChatGPTなどはAGIに差し掛かっていると捉えられるでしょう。これはまもなく人類の英知に追いつき追い越すと言われています。そしてその先にはASIと呼ばれる、人類の英知を全てまとめたとしても敵わないような知識を持つとも考えられています」
このように生成AIは進化・発展し続けており、我々はそれに応じて生成AIの捉え方を変えていく必要があるという。
―では、生成AIの進化・発展において障壁となるもの、課題は何ですか?
「生成AIがインパクトを与えることに対する、人の価値観やスタイルの変化への気付きが障壁になってくるのではないでしょうか。過去にも、例えばパソコンやインターネット、クラウドやスマートフォンなど、新しい技術が様々な人の生き方や働き方に影響を与えてきて、その行動が変わりました。その行動が変わったと同時に、企業や社会のあり方もそこに追従するような形になってきたと思います。この生成AIは、ただのツールというよりは、人がどのような価値観を持つのか、そしてどのようなスタイルで生きていくのか自体をさらに多様化させていきます。システム的なツールのひとつ、機械のひとつであるという限られた活動の範囲の中で考えてしまうことが大きな障壁になるのではないかと考察します」
―生成AIの活用は、具体的にどのようなことがありますか?
「企業においては、例えば労働力が減ってきたことに対して、新たなる労働力をAIに求めることができるかもしれません。福祉的な観点でいうと、人口が減り、その減っていったところに対して、人の代わりにコミュニケーションを図るとか、何かしらの知恵を提供できるような形に使えるかもしれません。また、教育的な観点ならば、今までなかったような先生や教材みたいなものが生まれていると考えると、そこに対する知的な刺激というもの自体は、これまで以上に大きくなっていくのではないかと思います」
生成AIの本当の価値は“世の中・社会を良くすること”であり、様々なエリアにおいて生成AIによる活用を考えることができそうだ。
―では、生成AIを用いて社会が良くなるための取り組みとして、藤田氏自身は実際どんな活動をされていますか?
「ひとつは、自分自身で使ってみて、その結果を多くの方々に共有していく活動をしています。知識的なものや経験的なものはもちろん、重要なものとして“場の提供”を積極的に行っています。“場の提供”とは、生成AIをどうすれば使っていけるか、どのような形で協業できるのかという未来を考えるようなアイデアを創造するワークショップなどです。その中で参加した方の気付きやアイデアを沸かせるように活動しています」
現在EYでは、クライアントである企業とのAIを活用したビジネスや新たな商品への取り組みを支援している。今年3月にはソニー銀行の生成AIによるビジネスモデル革新の取り組み支援を発表した。そこでは技術論ではなく、“生成AIをどのような形で使っていくのか”、“使うための土壌となる社員を教育”の 2つの概念の中から「EY Ideation for Innovation」というセッションをEY社内にあるEY wavespaceと呼ばれるインタラクティブなスタジオにて行った。そのプログラムの中で、新しい15のアイデアが生成AIを活用しながら立案された。
「具体的には、例えばデジタルヒューマンを活用してお客様サービスをするとか、社内の相談役というもの自体をAIにさせてみるなどのアイデアが発表されております。そこからソニー銀行さんの方で検証、実証実験を行っていくという形で進んでいます。まさに人のアイデア、そして“場の提供”で、実際にAIに触れて考えてみるというところから生まれてきたものだと考えています」
生成AIを単なるツールとして捉えるのではなく、その無限の可能性を想像し、引き出せるかが人間の腕の見せ所、能力とも言えるだろう。では、生成AIを使いこなすのに必要な人間の能力、スキルとは何なのだろうか。
―生成AIを活用するために必要なものは何ですか?
「生成AIに対して、その問い方や引き出し方をプロンプトといいます。そのプロンプト技術や思考は人によって差が出てきてしまうと言えます。マニュアル的なものもすでに本や雑誌でも基本的には出ていますが、それはある意味マニュアル的な答えを引き出すようなものに通ずるかと思います。“こんな使い方、こんな聞き方”というところにおいては、今まで私たちの言うところのアイデアの差、発見や発明の差に繋がるようなものが、このプロンプト思考においても見られるのではないでしょうか」
指示を出して、そこから新たな英知を引き出すような考え方である“プロンプト思考”。現代に多いタイパ重視の一言で済ませる指示よりも、生成AIにとっては言葉数の多さや言い回しなどがその能力を引き出すことに繋がりそうだ。ともすると、この“プロンプト思考”は現代の日本人にとって苦手とする人も多く、AI社会の発展に伴い教育の変化も必要だろう。
―AIのリテラシーを高める教育の在り方とは?
「今までの日本の教育の方法から変化、新しい方法論自体は検討しても然るべきでしょう。新たな英知を引き出し、そこから価値を出していくようなやり取りが重要となるため、生成AIにどのように問いかけ、どのように協働していくのか、その方法論が大切になってくるのではないかと思っています。例えば、これまでの日本は文系か理系か、例えばテクノロジーだと工学部とか、そのサービスや機能をベースにして専門が決まりましたが、今の時代のテクノロジーは文系や理系問わず、全て避けて通るものができないエリアであり、。リテラシーの度合いによって教育や提供する科目を変える必要があるでしょう。また、継続して進化するAIだからこそ、今までよかったものが10年後には通用しないという可能性もあるため、生涯教育的なものが求められると考えます」
これからAIと共に未来を生きる子どもにとって、その時代の価値観とスタイルに合わせた教育を提供することが重要だと言えそうだ。
―では、現時点で企業におけるAI活用に必要なことは?
「想像力が大事、ということが必ずこの議論では出てきます。ただ、世の中に想像力がある人はやはり限られているというのも事実です。だとすれば、その新しいアイデアに対して共感できる、面白いと感じられることも一つの能力だと思っています。要するに、0から1を作る人がいるのであれば、1から100に広げるためには、やはり共感したり使ってみたりできる人が必要になります。そのような人を人材配置や人事戦略上に置くことによって、その組織の拡大に繋がるのではないかとみています」
生成AI時代に必要なのは、AIを活用してアイデアを創造できる人と、それに共感し応用していける人材である。
―最後に、藤田氏にとって生成AIとは?
「“革新し続ける所作”みたいなものだと思っています。所作とは一つ学んでしまえばある意味ずっと永続的に使える振る舞いですが、この所作は技術が急速に革新していくので、正しいもの自体が時間と共に変わってしまう、もしくは正しいもの自体の正しいという概念が変わってしまう可能性があります。そういった意味では所作であるものの革新し続けているというところが生成AIのユニークなところかなと感じています」
今やスマホを使うのが当たり前となったように、今後、生成AIを使うのが当たり前の世界になっていくという。生成AIは人間の知的活動に対するサポートや拡張をもたらすものであり、それを上手く活用し活動に取り入れられるかどうかが、自身の生活や社会の発展、事業の成功に大きく関わるだろう。人間と生成AIは共生し発展し合える関係性であり、AIの無限な可能性を引き出せるかはその人間次第だ。発展し続ける生成AI社会において、革新の中心となるべきは人間だということを忘れてはならない。