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「Wine Bar Nr.14」オーナーソムリエ・西 勇輔
JSA認定ソムリエ、WSET、ウィスキーエキスパートなど、資格に裏付けられたお酒に関する様々な深い見識を持つ。フードアナリスト協会の認定講師も務め、食情報の専門家として食を通じたコミュニケーションの魅力を最大限に伝えてくれる。
編集部:あの…こんなこと聞くのも大変失礼な話かもしれませんが…。ボジョレー・ヌーヴォーの話題が上がるときって「まずい」みたいな話もよく耳にするんですが…(苦笑)実際のところどうなんですか?
西さん:う~ん…そうですねぇ。ワインが本当に好きな方が「ボジョレー・ヌーヴォーだからまずい」みたいな言い方をすることはないと思うんです。でも、ワインの特徴的に口に合わないという方も一定数いるでしょうね。
編集部:…と言いますと??
西さん:新酒でガメイを使用しているという特性上、非常にシンプルなワインなんですよ。ライトボディでコットンキャンディやいちごキャンディのような甘いフレーバーがあるこのワインは、普段あまり口にする機会がありませんし違和感を覚えてもおかしくありません。
編集部:なるほど、いつも飲み慣れているようなワインとは違うから「まずい」って感想を持っちゃう人もいると。
西さん:それに加えて、キャンペーンの打ち出し方も影響していると思うんですよね。よく、ボジョレー・ヌーヴォーが解禁される時に「今世紀最高の仕上がり」みたいなキャッチフレーズ聞きませんか?
編集部:あ、よく聞きますね!
西さん:あのキャッチコピーって2パターンあって、1つはフランス現地での評価で発表されるもの。そしてもう1つは、それを参考に日本でつけられるもの。この日本のキャッチコピーが、ちょっと煽り気味というか…(笑)
頻繁に「最高の~~~」「100年に1度の~~~」みたいに派手なキャッチフレーズがつくから、自ずと消費者の期待は上がりますよね?そして口にしたワインが、いつも飲んでいるワインとはちょっと違うテイストだった。だからマズイと。つまり、評価軸がボジョレー・ヌーヴォーの性質とはかけ離れちゃったわけですよ。
編集部:なるほど…すごく納得しました。
編集部:これまでの話を聞いていると、ワイン好きな人ほどボジョレー・ヌーヴォーを飲まないんだろうなと思ったんですが、実際はどうなんですか?
西さん:いえいえ、そんなことはありません。私の店でもボジョレー・ヌーヴォーは仕入れていますし、毎年解禁を楽しみにして美味しくいただいています。
ワインラヴァー達が新酒を祝ってみんなで乾杯するのって、素敵ですしね。あと、ボジョレー・ヌーヴォーを飲むことはメリットも多いんですよ。
編集部:メリットですか?
西さん:ボジョレー・ヌーヴォーは、その年のワインの大きな指標になるんです。その年一番最初に解禁されるワインの新酒を味わうことで「ボジョレーがこんな味ということは、他の産地ではこんな感じになるのかな?」みたいに予想してみるんです。
まだ解禁されていない、フランス各地のワインの“今年の味”を想像しながらボジョレー・ヌーヴォーを飲む。この一時がワインラヴァーにとって最高の時間なんですよ。
編集部:2024年のボジョレー・ヌーヴォーはまだ解禁されていないので、味わいについて伺うことはできませんが…西さんとしてはどのような味わいになっていると予想されますか?
西さん:現地の生産者さんと話をしていたんですが、今季はフランスが全土で悪天候が続いたんですよ。春は霜害が多かったり、とにかく雨が多かった。2022~23年が温暖だったため、芽吹き自体は早かったんですけど、その後夏までに雹(ひょう)などの自然災害があったりして、特にシャブリなどは壊滅的な被害だったそうです。
編集部:農業って、天候に左右されますからね…本当に大変ですよね。
西さん:また、日照も不足していた関係で農作物の間で「うどんこ病」「ベト病」が蔓延してしまったそうで、ボジョレーのあるブルゴーニュ地方はそれで悩まされたそうです。収量が例年の40%程度になってしまったところもあると聞きましたね。その条件から予想するに、今年のボジョレー・ヌーヴォーは熟度が低くて、例年よりもあっさりとした味わいのワインになっているのではないでしょうか。ぶどうの糖度も低いので、アルコール度数もやや低めになっていることが予想されます。
編集部:なるほど、それは評価的に良いんですかね?
西さん:それは造り手によりけりですけど、今は料理もワインもどんどんシンプルになっている時代です。Z世代以降のムーブメントとして低アルコールのお酒がトレンドになっていたり、ナチュラルワインが流行したりする中で、今年のボジョレー・ヌーヴォーは図らずして今のニーズに合った味わいになっているかもしれませんね!
編集部:最後に、ボジョレー・ヌーヴォーをより楽しむために飲み方で工夫するポイントを教えていただきたいです!
西さん:そうですね、飲み方のポイントとしては「少し低めの温度」にしてあげることですね。通常の赤ワインって、冷やさずに室温で飲むことも多いですよね。重めボディのだと18~23℃で飲んだりすることもあります。
一方、ボジョレー・ヌーヴォーは12~13℃くらいの低温で飲むのが良いと思います。冷蔵庫で冷やす場合、おおよそ3℃くらいになるので、飲む少し前に出しておくくらいがベストですね。よりフレッシュ感が楽しめますし、香りも味わいもさっぱりとスルスルと飲めると思いますよ!
ボジョレー・ヌーヴォーを美味しく飲むPoint:通常の赤ワインよりも低めの温度設定!12~13℃がおすすめ。
編集部:合わせる料理などでオススメのものはありますか?
西さん:重い料理と合わせるよりも、軽いおつまみが良いと思います。コンビニやスーパーで購入できるものであれば、サラミやハムといったシャルキュトリー系。チーズだったらクリームチーズなども良いですね。ちょっとこだわるなら、マルカルポーネと秋のフルーツを合わせたカプレーゼなんかは最高だと思いますね!
あとは、フレッシュさと甘みに特徴があるワインですから同系統の料理でいうと「すき焼き」「タレの焼鳥」「豚しゃぶ」なんかもいいですね!
ボジョレー・ヌーヴォーのペアリングPoint:サラミ・ハム・チーズなどの軽めのペアリングがおすすめ!その他「すき焼き」「タレの焼鳥」「豚しゃぶ」などの日本食も◎
ライトなボディで冷やして軽やかに飲めるワインとして、初心者にもおすすめだというボジョレー・ヌーヴォー。現役ソムリエの方も「その年のワインの指標となる重要なワイン」「毎年解禁を楽しみにしている」という、このワインには色んな噂がつきまとっていましたが...。その味わいを語れるのは飲んだ人だけ!!
日常的にワインを愛飲している方も、普段飲まない方も全員が楽しめるイベントというのもなんだか素敵ですよね。今回の記事を読んでボジョレー・ヌーヴォーに興味が湧いた方は、ぜひ実際に飲んでその味わいを体験してみてくださいね。