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都会で暮らす若者たちのままならない今の日常を、決して大げさに美化したりすることなくむしろリアルに、時に突き放すように描いた作品が公開中だ。
もう決して若者とは呼べない自分なんかが、こんなにもこの映画を愛おしく思えてしまうのは、都会でまだ暮らしてるからなのか、少し前まではこんな日常が他人事ではなかったからなのか。
少なくともこの映画(監督)は、立場もキャラクターも異なる4人の登場人物たちを愛しているに違いない。
そうでなければ、彼ら彼女らが孤独に悲しんだり、衝動的にあるいは時間をかけて他人を求めたりする過程をこれほど美しくて優しいモノクロームの映像の中に捉えることなんてできなかったはずだ。
監督は『預言者』『君と歩く世界』『ディーパンの闘い』などで高い評価を受けてきたフランスの名匠ジャック・オーディアール。
「齢70才に差しかかろうとする高齢の監督が、みずみずしくてビターな今の若者たちの恋愛模様を撮ることができるなんて!」と驚いていたら、その秘密の一部は脚本にもあったようだ。
オディアール監督の他に監督作『燃ゆる女の肖像』が世界で絶賛されたセリーヌ・シアマと、フランスで期待の新進若手映画作家レア・ミシウスの2人が脚本に共同で参加している。
こうして若い女性の視点を得た物語にオディアール監督の持ち前の美しい映像表現が加わり、映画は現代のSNS社会における刹那的な恋愛関係の中にもじわじわと普遍的な感動を見出していく。
目の覚めるような恋や情熱に翻弄される大恋愛を描いてないところがとてもいい。
自己中だったり、少し気取っていたり、対人関係が苦手だったり、それぞれ何らかの癖のある登場人物たちは、映画の世界のお姫様や王子様ではなく、むしろ映画を観ている自分にどこか似ているような気がしてこないだろうか。
未熟な大人たちが織りなす人間関係は、手順やアプローチこそ昔の時代と異なってはいても、人が孤独を感じ、人を求めてしまうこと自体はいつの時代も変わらない。
全編を通したモノクロの映像はそんな人間の性を普遍的なものとして肯定しているようにも思えてくる。
(他方で、物語の現代性を強調すべくカラー映像が一部使用されているシーンにも注目してほしい)
歴史と文化の香り漂うパリの中でも、物語の舞台となったのは再開発による高層ビルが並びアジア系移民も多い13区。
このまさに現代を象徴する地区が舞台になっていることも映画に統一感のある方向性を与えている。
そこで描かれるのは決してパリの華やかな雰囲気の中で美化された夢のような恋愛模様ではなく、あくまで現実主義の枠内で展開する等身大の人間模様なのだ。
アプリもあるため出会いにもセックスにもそこそこ困らないが、本気の恋愛となるとどうもうまくいかない。
職場環境には不満があるし、給料にも満足していない。
人間関係にも悩んでいて心がやさぐれてきた。
この映画は、そんな決してベストではない今の日常をそのまま抱きしめて肯定してくれる。
そして、余裕も確信もないまま日常生活の迷路をふらふら歩いているような登場人物たちのことを、見ず知らずの他人とは思えないくらいに愛おしく感じてしまうのだ。
©PAGE 114 –France 2 Cinéma
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 –France 2 Cinéma