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『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の最新作が待望の公開を迎えた。
今回は前作のようなファンタジーやラブストーリーの要素はほぼ無い、その物語は大きな熱量をはらんでいるものの、方向性はダーク一色だ。
そして簡単にフィクションとは片付けられないようなそのリアリティ・寓話性は、異なる時代を生きる現代人の心をもきっとざわつかせるはずだ。
妖しいカーニバル一座で働くことになった主人公の青年スタンは、持て余すほどの野心を抱えて、独立して興行師の道を突き進むが、次第に人生の歯車を狂わせていく。
カーニバルで身につけた読心術を武器に大胆不敵にショービジネスの世界に躍り出るスタンを演じるのは、ハリウッドの色男ブラッドリー・クーパー。
自身の成功のために一線を超えて道を踏み外していく男の心の闇や業の深さを生々しく表現し、「この男の行き着く先を見届けたい」と思わせてくれるその熱演はさすがだ。
スタンは庶民が楽しむカーニバルの世界から飛び出て上流階級を相手とする一流ショーの世界で成り上がろうと賭けに出る。
彼と行動を共にして彼の行く末を案じる女性モリー(ルーニー・マーラ)の良心と、彼と互いに接近し共犯的な立場に身を置く心理学博士のリリス(ケイト・ブランシェット)の謎めいた魅力。
この二人の対照的な女性の存在感が、動き出したが最後決して後には引き返せない本作の物語に力強い輪郭を与えている。
野心を持った興行師が主人公という意味では、『グレイテスト・ショーマン』の大ヒットも記憶に新しいが、同作がコインの表だとしたらこちらは完全に裏だろう。
音楽やダンスに合わせてどんどん気分が高揚していく映画とはむしろ真逆で、本作は人間の裏切りや業が人間自体に重しとして乗っかかり、奈落へ向かう螺旋階段を駆け降りていくような作品だ。
もっとも、そこは暗くどんより停滞した雰囲気とは無縁なのがデルトロ監督の手腕の凄さ、人が堕ちていく一挙手一投足にもリズムがあり、見せ場があり、観る者の心を大きく揺さぶる歯切れのいい極上のエンターテイメントに仕上がっている。
ここで、本作を観る観客の気分と、劇中で獣人(ギーク)のショーを凝視するカーニバルの客たちの不安と楽しさの入り混じった感情は見事にリンクするのだ。
庶民の世界と上流社会、どちらにより多くの良心があるのか。
どちらに絶望や地獄はあるのか。
いつの時代でも、名声や富を求める極端な上昇志向は無くならず、それと引き換えに売られた魂を進んで買って出る悪魔は存在する。
信じたいものを信じてしまう人の性(さが)についての説得力ある描写。
一線を超えた人間が後には引き返せずに人の道から逸れていく姿についての純粋な見応え。
ある意味仏教の法話のような印象も残す本作は、人がどう生きていくかについての時代の垣根を越えた普遍的な警鐘そのものであり、同時に自業自得で堕ちていく人の人生すらも見せ物として楽しむことができるというまた別の人の業にも気付かせてくる。
■監督:ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
■キャスト:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー ほか
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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