少子化でも360人が通う「地域の習い事」 そろばんとダンスを両立する理由
少子化が進む一方、子どもの習い事は多様化している。学習系だけでなく、スポーツやダンスなど、学校外でどのような経験をさせるかを考える家庭も少なくない。
こうしたなか、愛知県北名古屋市で、そろばんとダンスという異なる分野の教育事業を展開するのが株式会社クリーオだ。同社は2026年4月、新たに「Central校・Rino dance studio」を開校した。同社によれば、現在は3歳から高校生まで約360人が在籍しているという。
50年続くそろばん教室を基盤としながら、なぜダンス事業へ領域を広げたのか。代表取締役の埜田美智子氏に、地域で習い事事業を継続するうえでの考え方を聞いた。
少子化でも「習い事」のニーズは一様ではない
クリーオが運営する「Rinoキッズスクール」では、チアダンスを中心に複数のダンスプログラムを展開している。
2026年4月には、北名古屋市内に「Central校・Rino dance studio」を新たに開設した。同社によれば、3歳から高校生まで約360人が在籍しており、年齢や経験に応じたレッスンを行っているという。
子どもの人口そのものが減少するなかで、習い事事業を取り巻く環境が楽になっているわけではない。
学習塾やスポーツ教室だけでなく、オンライン教材や動画を使って自宅で学べる選択肢も増えた。家庭側から見れば、子どもに何を習わせるのかを比較する対象は以前より広がっている。
その中で実際の教室へ通う意味をどのようにつくるのか。
埜田氏は、ダンスの技術だけでなく、生徒同士が一緒に練習したり、発表の場を経験したりすることもスクール運営では重視していると話す。
ただし、生徒数が増えれば、講師の確保やクラス編成、安全管理など運営側の負担も増える。人数を増やすことと、一人ひとりに対応することをどう両立させるかは、習い事事業に共通する課題だ。
50年続く「そろばん」とダンスはなぜ同居するのか
同社の事業の背景にあるのが、地域で約50年続いてきた「西春速算学会西支部」だ。
埜田氏はそろばん教室を営む家庭で育ち、その後、プロ球団のチアリーダーとして活動した経験などを経て、ダンススクールを立ち上げたという。
一見すると、そろばんとチアダンスはまったく異なる習い事に見える。
一方、企業側から見ると、どちらも子どもや保護者と長期間関わる教育サービスという共通点を持つ。
既存の教育事業を続けながら、新しい分野のスクールを立ち上げることは、時代によって変化する習い事の需要に対応する一つの方法でもある。もっとも、事業を増やせば運営は複雑になる。
そろばんとダンスでは、必要となる指導者の能力も設備も異なる。それぞれの教育内容を維持しながら、人材や資金をどのように配分するかを考えなければならない。
「長く続いてきた事業があるから、新事業もうまくいく」と単純に考えることはできない。
既存事業の信用や顧客との関係を生かしながらも、新しい事業については別の運営ノウハウを構築する必要がある。
福祉施設への訪問で生まれる「学校外」の接点
同スクールでは、通常のレッスンだけでなく、福祉施設を訪問する活動なども行っているという。ダンスの発表を通じ、普段接する機会の少ない世代と関わる経験を設けている。地域の習い事教室がこうした活動を行うことには、競技や技術を学ぶだけではない側面がある。
子どもにとっては、教室や学校とは異なる人たちの前で発表する機会になる。一方、福祉施設側にとってどのような意味を持つのかについては、参加者によって受け止め方も異なるだろう。
そのため、こうした活動を「地域貢献」や「教育効果」と単純に評価するのではなく、地域との接点をつくる一つの取り組みとして捉える方が適切だ。
また、訪問活動やイベントにはスタッフの準備時間や移動なども必要になる。通常のスクール運営と並行しながら、どこまで継続できる仕組みをつくれるかも重要になる。
360人規模でも「個別対応」は維持できるか
習い事教室では、規模が小さいうちは代表者や限られた講師が直接多くの生徒を見ることができる。
一方、生徒数や拠点数が増えると、個々の講師に依存した運営には限界が出てくる。
指導方針をどう共有するのか。講師による指導内容の差をどう抑えるのか。保護者とのコミュニケーションを誰が担うのか。360人規模のスクールを継続的に運営するためには、教育内容だけでなく、こうした組織づくりも必要になる。
特にダンスのように指導者の経験や個性がレッスンに反映されやすい分野では、すべてをマニュアル化することも難しい。
個々の講師の良さを残しながら、スクールとして一定の指導方針をどう保つかが問われる。
地域の習い事は「コミュニティ」になれるのか
少子化によって子どもの数は減っても、家庭が求める教育や体験の内容が一様になるわけではない。むしろ学校外の学習やスポーツ、文化活動の選択肢が増えるなかで、地域の習い事教室に求められる役割も変わっている。クリーオの場合、長年続くそろばん教室を基盤にしながら、ダンスや地域での活動へ事業を広げてきた。
こうした教室が、単に技能を習得する場になるのか。それとも、子どもや保護者が地域の人と接点を持つ場所にもなっていくのか。
その答えは、生徒数の多さだけでは判断できない。
教育の質を維持しながら、指導者を育て、事業として安定して運営する。そのうえで地域との関係をどこまで継続できるか。
子どもの数が減少する時代だからこそ、地域の習い事教室にも「何を教えるか」だけではなく、「どのような場をつくるか」が問われるようになりそうだ。
【取材協力】
株式会社クリーオ(Rinoキッズスクール)
代表取締役 埜田美智子
https://rino-kids.com/