リモート時代、社内イベントは何を生むのか 「場」と食を組み合わせる新たな試み
リモートワークやオンライン会議が定着する一方、社員同士が直接顔を合わせる機会をどうつくるかは、多くの企業にとって一つの課題となっている。
ただし、社員を同じ場所に集めれば、それだけでコミュニケーションが活性化するとは限らない。懇親会や社内イベントについても、「参加すること」自体が目的化すれば、一過性の催しで終わってしまう。こうしたなか、空間の提供だけでなく、飲食や体験型のコンテンツを組み合わせた場づくりに取り組む企業もある。
レンタルスペース運営や飲食事業などを手掛けるmiuchi株式会社代表取締役の菊池美言氏に、対面の場をどのように設計しているのか聞いた。
リモート時代に「集まる理由」をどうつくるか
リモート時代に「集まる理由」をどうつくるか
働き方が多様化するなか、オフィスやイベントスペースに求められる役割も変わりつつある。miuchiでは、レンタルスペースの運営や遊休スペースの利活用に関するコンサルティングを行い、撮影や企業イベントなどにも対応しているという。
菊池氏は、単に場所を貸すだけではなく、「その場所で何をするのか」まで含めて設計することを重視していると話す。企業イベントの場合、会場を確保して社員を集めても、普段と同じメンバーで会話するだけでは、新たな交流につながりにくいこともある。そのため、参加者が自然に会話したり、一緒に何かを体験したりする仕掛けを組み込むことが重要だという。
もっとも、こうした場づくりの効果は簡単には測れない。
イベント当日に会話が増えたとしても、それが翌日以降の仕事や組織文化にまで影響するかは別の問題だ。対面イベントには「開催したこと」ではなく、その後の関係性にどうつながるかという視点も求められる。
「出張寿司」は社内コミュニケーションを変えるのか
「出張寿司」は社内コミュニケーションを変えるのか
同社が空間事業と並行して展開しているのが飲食関連のサービスだ。
菊池氏は「みこ寿司」の創業に携わった経験を持ち、現在は出張寿司やオーダーメイドのケータリングなどにも取り組んでいるという。新卒採用イベントや社内懇親会などで、寿司をその場で提供する形式を取り入れるほか、参加者自身が寿司を握ったり、巻物を作ったりする企画も行っている。
単に食事を提供するだけではなく、調理や共同作業そのものをイベントの一部にする考え方だ。
菊池氏によれば、参加型の形式にすることで、部署や立場を超えて会話が生まれる場面もあるという。一方で、一度のイベントで生まれた交流が、その後も続くとは限らない。
体験型イベントを組織づくりの一環として活用するのであれば、開催後のコミュニケーションや日常の職場環境まで含めて考える必要がある。社内イベントは、組織課題を直接解決するものというより、普段とは異なる接点をつくる一つの手段として捉える方が現実的だろう。
学生が「寿司の現場」に立つ意味
学生が「寿司の現場」に立つ意味
同社の取り組みは、大学との連携にも広がっている。
菊池氏は、大妻女子大学のOMA(大妻マネジメントアカデミー)のプログラムで、学生に寿司の握り方などを教えているという。
さらに、選抜された学生が同社の出張寿司の現場に参加したり、寿司握り体験イベントの運営を担ったりする機会も設けている。
同社によれば、2025年には選抜学生がベトナムを訪れ、現地の日本料理店で寿司の提供や文化交流を行った。今年も実施を予定しているという。学生にとっては、教室内の学習とは異なり、実際の顧客を前にサービスを提供する経験になる。
一方、企業の現場で学生を受け入れる場合には、教育目的とサービス品質の両方を考える必要がある。
どこまでを学生に任せ、どの部分をプロが担うのか。安全管理や接客品質をどのように維持するのかなど、継続的に運営するためには一定の仕組みが必要になる。教育とビジネスを組み合わせる取り組みは、実践的な経験を提供する可能性がある一方、受け入れ側の企業にも相応の負担が生じる。
「場づくり」は組織を変えられるのか
「場づくり」は組織を変えられるのか
企業におけるコミュニケーションの課題は、リモートワークだけが原因ではない。
部署間の関係や組織文化、評価制度、日常の業務量など、さまざまな要因が絡み合っている。
そのため、社内イベントや体験型コンテンツだけで、組織そのものを変えられるわけではない。一方、普段とは異なる環境で社員同士が話したり、共同作業をしたりすることが、新しい関係をつくるきっかけになる場合はある。miuchiが手掛ける空間と飲食を組み合わせた取り組みも、そうした「きっかけ」を設計する一例といえる。
重要なのは、イベントを豪華にすることではなく、なぜ人を集めるのか、その場でどのような関係をつくりたいのかを明確にすることだ。リモートワークが定着し、対面の機会そのものが以前より選択的になったからこそ、「集まること」の意味も改めて問われている。
空間、食、体験をどのように組み合わせれば、一過性ではない関係づくりにつながるのか。企業の社内コミュニケーション施策において、今後も試行錯誤が続きそうだ。
【取材協力】
miuchi株式会社
代表取締役 菊池美言
https://miuchi.homes/