厚生労働省の調査によれば、労働者の8割超が強いストレスを抱える時代となっている。さらにスマートフォンの普及により、現代は常に視覚情報にさらされ、知らず知らずのうちに心が疲弊しやすい環境だ。そうしたなか、視覚を奪わず「ながら時間」と親和性が高い音声メディアや音楽が、心の余白を生み出す手段として再評価されつつある。今回、情報過多社会における音楽の役割と持続的な価値提供のあり方について、ヒーリングミュージック合同会社の福井識章代表に聞いた。



「視覚疲れ」の時代に


現代はスマートフォンやSNSを通じ、短時間で大量の情報に触れることが日常化している。便利になった一方で、常に比較や評価の目にさらされ、無意識のうちに脳が休まらない状態が続く人も少なくないという見方がある。


こうした社会背景のなか、視覚を使わずに心へ働きかける音声コンテンツやヒーリングミュージックの価値が見直されつつある。家事や仕事、移動中などの「ながら時間」に利用でき、生活者の視覚を奪わない点が特徴とされる。もっとも、市場全体を見ると音声コンテンツの数は増加傾向にある半面、再生回数や話題性が重視されるあまり、本来の目的である体験を提供するコンテンツが埋没しやすいという構造的な課題も指摘されている。



BGMから「時間を整える手段」へ


多種多様なエンターテインメントが存在する現在、音楽を単なるBGMとしてではなく、時間を整える手段として活用する動きが出ている。


同社の説明によると、情報量を増やすことよりも、言葉や音楽がゆっくり届く構成を意識しているという。同社制作のオリジナル楽曲『星と、君と』の事例では、聴取者から「離れていたピアノを再開した」といった声が寄せられたほか、店舗BGMとしての活用を通じ、空間の印象や顧客の行動に変化が見られたケースもあると話す。音楽を通じて日常に余白をつくり、行動変容のきっかけを提供する試みと位置づけられる。


一方で、癒しという目に見えない価値は数値化が難しく、その効果を市場側へ客観的に提示し理解を得るまでには時間がかかるという、事業面での不確実性やハードルも残されている。



次世代における「人」の価値とは


技術の進歩により、近年はAIを活用して一定水準の音源を短時間で制作できる環境が整いつつある。これに伴い、音楽業界においても制作プロセスの効率化が進むと見られる。そうした変化のなかで、同社は音楽に求められる価値が「音」そのものから、背景にある「人」へと移行していくと見立てている。ライブ会場での空気感や演奏者とのコミュニケーションなど、AIには再現が困難な体験や作り手の背景に対する共感が、今後は選ばれる理由になるという考えだ。


ただし、技術の発展が急速に進む市場環境において、リスナーとの長期的な関係性を構築し、人間らしいコミュニケーションの価値をいかに持続可能な形で市場に提示し続けられるかは、今後も問われ続ける課題となりそうだ。





【取材協力】
ヒーリングミュージック合同会社
代表 福井識章
https://www.youtube.com/channel/UCRWB1QPo4yaIr_zLmJ5uXog


情報提供元: TREND NEWS CASTER
記事名:「 なぜ「音」が見直されているのか?労働者の8割超がストレスを抱える社会と音楽の役割