アイドルのコンサートやイベント会場に、女性ファンの姿が目立つようになって久しい。今では「女ヲタ」の存在は、まったく珍しいものではなくなった。なぜ、女性ファンがアイドル現場に増えたのか? 女性ファンと男性ファンの楽しみ方は同じなのか? そして、女性ファンはアイドル業界にどのような影響を与えているのか? 増え続ける「女性アイドルヲタ」について考えてみたい。

 かつては、女性アイドルを応援する「アイドルおたく」といえば、わざわざ説明せずとも「男性のアイドルファン」というのが一般的なイメージであり、実際のファン層も男性の数が圧倒的だった。とはいえ、ジャニーズやK-POPなど男性アイドルのファンには女性が多かったことを考えれば、「アイドルおたく」的な楽しみ方は、もともと女性たちにも根付いていたと言っていい。

 異性のアイドルだけではなく、同性にも目が向くようになったのは、「AKB48の国民的ブレイクの影響」や「かつてモーニング娘。やミニモニ。のファンだった子供たちが女子高生世代になったから」とも言われている。なるほど、確かにそれらの影響も少なくないだろう。ただ、最も大きなきっかけになったのは、やはり数年前に起こった「アイドルブーム」だったように思う。

 あえて悪い言い方をすれば、女性というのは流行りモノに弱い。美味しいと噂されるグルメ、人気と勧められるファッション、楽しいと言われている文化には、あくまでも腰が軽く、貪欲で、頭が柔らかい。頭が固く、妙なこだわりを持ちがちな男性たちには、真似のできないしなやかさを持っている。いつの時代も「流行は女性たちが作る」と言われるゆえんだ。

 そんな女性たちがアイドルブームに触れ、アイドルのかわいらしさ、アイドルソングで盛り上がることの楽しさに“気付いた”のだ。

 当初は、遠巻きに見聞きしていただけかもしれない。しかし女性たちにとって、「よく分からないけど、流行っているらしい」「なんだか楽しそう」という流行感は、行動を起こすきっかけとしては充分だった。SNSなどによって情報の拡散・共有が容易になったこともあり、「女ヲタ」が急増したのも不思議のないことだ。


 男性のアイドルファンが楽しんでいるのを見て、「ドルヲタ」という楽しみを発見した女性たち。では、その楽しみ方も男性と同じなのかと言えばそうでもない。歌やダンスなどのパフォーマンスを純粋に楽しむ一方、アイドルに対して「疑似恋愛」的な感情を持ち、それをファン活動の推進力とする者も少なくない男性ファン。「恋愛禁止」が暗黙の了解で、色恋沙汰の発覚が脱退に繋がるのも、疑似恋愛を商品化しているためだ。

 当然のことながら、女性たちにそうした感情を持つファンは多くない。彼女たちのファン活動の推進力は、恋愛感情ではなく、「憧れ」や「共感」だ。女性ファンがアイドルに抱く感情は、セーラームーンやプリキュアへのそれに近いとも言われる。「目標に向かって努力する(戦う)姿とその成長」「グループ内での友情やぶつかり合い」「非現実的な変身」「女の子だけの集団」、これらはすべてセーラームーンやプリキュアにも共通するものだ。「子供の頃の影響」を言うならば、ミニモニ。よりもセーラームーンの方が大きな要素になっているはずだ。

 今、女性たちに人気が高いアイドルグループといえば、乃木坂46、℃-ute、フェアリーズ、毛色はいささか異なるがE-girlsあたりだろうか。一見して、「パフォーマンス力」や「アイドル的なかわいらしさよりも、凛としたカッコかわいい」を売りにしているグループが多いことが分かる。乃木坂46に関してはそうした路線ではないが、白石麻衣、西野七瀬、橋本奈々未、松村沙友理、齋藤飛鳥と、ファッション誌の専属モデルをしているメンバーが多いことから、女性ファンを意識しているのは間違いなく、実際にその効果を上げている。

 モデル活動のように、女性ファンへのアピールやケアを強める動きも近年顕著だ。℃-uteの鈴木愛理が『Ray』の専属モデルとして活躍するハロー!プロジェクトでも、レギュラー番組『The Girls Live』(テレビ東京系)でメンバーによるファッションコーデをメインコンテンツとし、週イチの配信番組『ハロ!ステ』にヘアアレンジのコーナーを設けている。今年1月には別のレギュラー配信番組の枠を、女子会をモチーフとした女性向け番組『Girls Night Out』に丸々衣替えした。

 コンサートやイベント会場では、「女性限定エリア」の設置が一般的になった。男性ファンとの接触や勢いから女性ファンを守る配慮だ。コンサート会場で販売されるグッズ類も、いわゆる「ヲタT」っぽさを排除したシンプルなデザインのTシャツや、普通は女性しか使わないシュシュ(髪留めゴム)など、女性ファンへのアピール強化は明らかだ。

 女性ファンが増えたことで、現場の雰囲気にも変化が生まれている。その変化を最も喜んでいるのは、ステージ上のアイドルたちだろう。「女性のファンがたくさんいて嬉しい」という言葉もたびたび耳にする。

 ファン層の拡大は、市場の拡大を意味する。ひとつの文化としても、幅広いファンを持つことは、大きなメリットをもたらすだろう。近頃、乃木坂46が公式ライバルのAKBグループより勢いよく見えるのも、女性ファンの獲得が要因のひとつになっているはずだ。

 しかしながら、女性ファンへのアピールや獲得が生むのは、メリットだけではない。まず、女性向けの施策の多くは、男性や既存ファンにはウケが悪い。シンプルなデザインのヲタTも、男性ファンが望むものではなく、Tシャツの売上が激減しかねない。そもそも、アイドル運営の基盤となるグッズの売上も、男性ファンと比べると女性ファンは客単価が低い。単純に、市場の拡大=売上の拡大とはいかないのが難しいところだ。

 また、女限エリアなどの優遇措置や、あからさまに女性ファンを優遇するアイドルの対応を見て格差や差別を感じ、「萎え」てしまう男性ファンも少なくない。さらには、女性ファンが多くなったことによって、ライブの盛り上がりが低下したとの声も聞く。そうした面を懸念してか、必要以上に女性ファンを意識しないグループもあるようだ。

 女性ファンと男性ファンのバランスを考えてアプローチしていくのか、あるいは男性ファンは切り捨てて女性ファン特化型にするのか、はたまた女性ファンを無視した“逆張り”路線を取るのか、今後の運営陣の舵取りに注目したい。

【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第22回】

【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ