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東映・ 角川春樹事務所のタッグで成功を収めた1981年公開の『魔界転生』。今回はその作品ではなく、イマイチ存在感の薄い、その翌年に公開された魔界転生に続く山田風太郎原作作品第二弾『伊賀忍法帖』を扱う。
同作の主人公・笛吹城太郎を演じるのは真田広之。当時真田は、すでにジャパンアクションクラブ(JAC)の秘蔵っ子として、アクションスターの地位を確立しており、80年公開の初主演映画『忍者武芸帖 百地三太夫』では派手な飛び降りシーンなどを披露していた。この作品でも劇中の派手な殺陣シーンなどで、キレキレの動きを披露している。ちなみに師匠にあたる千葉真一も柳生新左衛門で出演している。
これで、師弟タッグによる、派手なアクションシーンなどがあれば、この作品かなり盛り上がるのだが、残念なことにない。『魔界転生』のような荒唐無稽さはありつつも、盛り上がりきれないのがこの作品の残念な点である。
一応史実になぞった部分もあり、時代設定として織田信長の上洛以前の、混沌としている関西地方を舞台にした戦国時代になっている。その影響で、登場する人物的にはかなり冒険している。まず、果心居士(成田三樹夫)にそそのかされ、主君の妻を手籠めにしようと、直接悪さをする人物が松永弾正(中尾彬)となっている。「弾正」とは武家の官位だが、この時代の創作物で“弾正”といえば、ほぼ松永久秀のことを指す。主筋の三好家とほぼ同格の地位を持ち、足利義輝殺害や、奈良東大寺大仏殿焼き討ちなどに関わる、下克上を体現したような人物のひとりで、後に織田信長を裏切り、助命の条件として差し出しを要求された茶道具、「平蜘蛛茶釜」と共に爆死した人物としても知られる。最近でこそゲームなどの登場により有名になった人物だが、この時期は特に歴史に興味がない人は知らなかっただろう。
果心居士はトリックスター的な扱いなので、直接のボス役は松永弾正が担わなければいけないのだが、目的も存在感も、ただの小物でしかないのが、色々とこの作品のストーリー展開を残念にしている。『魔界転生』では史実の人物名は出てくるが、荒唐無稽な話なのだからと突っ走り、天草四郎時貞を後の創作物でもステレオタイプになってしまうほどの強烈なキャラに仕上げているが、この作品の松永弾正はどうかというと全く印象に残らない。歴史好き以外の視聴者にわかりやすい、三英傑(織田信長・豊臣秀吉・徳川家康)がいない作品でこの存在感のなさは致命的だ。思い切って某ゲームのような極悪爆弾魔くらいにしてしまった方が良かったのではないだろうか?
他の史実に関わる登場人物も三好義興など、地味だ。そこそこ名の知れている服部半蔵もチョイ役でしかない。そのかわりにヒロイン役の渡辺典子は本作がデビューながら1人3役に挑んでいるなど斬新な部分もあるが、これがまたあまり魅力がない。渡辺は城太郎の想い人と、義興の妻・右京太夫、城太郎をつけ狙う暗殺者の3役で出演しているが、ヒロインを3役に分けてしまった影響で、どれも尺の問題で積み重がほぼなく、唐突にストーリーに関わるような形になってしまっている。さらに千葉が演じる新左衛門が美味しいところを持って行きすぎで、城太郎の活躍を結果的に薄くしてしまっているのも難点だ。
結果的に見どころは真田のキレキレアクションが光る、忍者僧との対決に絞られる。忍者僧を演じる俳優陣は、プロレス経験もある大男のストロング小林、アフロがトレードマークの佐藤蛾次郎、時代劇の悪役と言えばこの人と言われる浜田晃、「5万回斬られた男」の異名を持つ、切られ役のスペシャリスト福本清三とかなりキャラが立っている。映像としてもかなりのインパクトを所々で残している。この悪役陣のアクの強さだけでも、この作品が面白くなってしまうほどだ。しかし、忍者僧との対決も欲を言うともっと迫力が欲しい。
大人向けを狙った、シリアスなストーリーに合うように“忍者”であることを意識しすぎている。佐藤のゲロ吐き忍法や、死者復活妖術、ブーメラン忍者刀、特殊アームによる発射式クナイなど、荒唐無稽な武器ばかりなのだから、忍者ではなく、海外でイメージされるような“NINJA”方面に振り切って、特撮的なド派手でありえない演出とかで良かったのではないだろうか。例えば90年公開の『ZIPANG』の戦闘シーンのような…。せっかくのアクションシーンを必要以上に地味にしてしまっている。首が飛ぶゴア表現などが、この作品ではあるが、無駄に激しく血が飛ぶため、ビックリするというよりギャグシーンになってしまっている、狙ったのかもしれないが。だったら殺陣もギャグっぽくするとか…。
文句なしでいいシーンも一応あるので言及しておく。中盤の東大寺大仏殿の焼き討ちシーンはかなりいい。炎上する大仏殿で真田が殺陣するシーンは、斬撃と同時に蹴りなどの体術を披露しており、素直に迫力あるシーンといえるだろう。炎上する大仏殿で、首が落ちてしまう大仏のシーンも印象的だ。この辺には、当時の角川映画の並々ならぬこだわりが感じられる。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)
【記事提供:リアルライブ】