今では当たり前になっているテレビゲームのスクロール機能。それが初めてシューティングゲームというジャンルに実装されたのはウィリアムス社の『ディフェンダー』からで、その発売日は1980年の12月のことである。同作では左右両方向への任意スクロールが搭載され、左右がループする横長のフィールドを自由に移動することができた。ゲームの目的は敵の全滅にあり、操作は1レバーに5ボタンと複雑で、左右への移動はボタンによるジェット噴射によって行う。画面内の敵を全滅させる、いわゆるボンバーの採用など、非常に革新的なゲームであった同作だが、操作の煩雑さという欠点から特に日本国内での出回りは悪く、その存在はあまり知られなかった。

 その『ディフェンダー』に代わって国内におけるスクロールシューティングの礎となったのが、今回紹介するコナミの『スクランブル』で、この作品によって従来の固定画面シューティングは時代遅れとなり、シューティングゲームというジャンルを一変させたのだ。その人気は国内のみにとどまらず海外からも注文が殺到し、この大ヒットによってコナミはレジャックの下請けメーカーから開発・販売を手がける一大メーカーへと躍進し、その後も自社ブランドからヒット作を連発。1984年には念願の株式上場を果たしている。また、海外では多くのメーカーが本作をライセンス生産し、これを機にコナミは海外進出を成し遂げている。

 本作の発売は1981年3月と『ディフェンダー』からわずか3か月遅れであり、一見すると全く無関係の開発と思われる。しかし、実際にはAMOAエキスポに出展されていた同作をコナミ創業者の1人である上月氏が熱心に眺めていたとの記録が残っており、恐らく『ディフェンダー』に衝撃を受けた氏が開発を指示したのではないかと思われる。ただ、それで出来上がったのが『ディフェンダー』の劣化コピーであったのなら、そのまま歴史の闇に葬られていたのであろうが、本作は多くの点でそれを上回る作品。ステージごとに大きく変わるフィールドやエネルギー制+残機制というシステムなど本作独自のシステムやゲーム性が確立されている。ハッキリ言ってしまえば『ディフェンダー』との共通点は横方向にスクロールすることのみで、本作は全くオリジナルのゲームだと言ってもいいだろう。

 本作の操作系は非常にシンプルで、8方向レバーで画面内を自由に移動でき、2つのボタンで前方に発射されるショットと前方に投射されるボンバーによる攻撃を行う。基本的には対空・対地の役割を持つが当たり判定に区別はなく、どちらの攻撃でも敵や建造物の破壊が可能だ。ミスとなるのは敵や地形への衝突と燃料切れ。本作では敵が弾を撃ってくることはないため、敵の体当たりが主な脅威になっている。また、『ディフェンダー』では地形には当たり判定がなかったが、本作では地形への衝突は即座にミスとなる。この仕様によってシューティングゲームにとって地形が大切な要素になっていくのである。最後の燃料切れに関してであるが、これは地上にある燃料タンクを破壊することで燃料の補給が可能。1周目では普通にプレイしていれば(最終ステージ以外では)燃料切れは起こりにくいが、2周目以降は大きな足かせとなり、難易度上昇の一因になっている。

 1面は難易度も低くチュートリアル的な役割を果たし、2面では洞窟地帯に突入し空中に敵UFOが出現。3面は破壊不能な隕石が前方から大量に押し寄せ難易度が大幅に上がる。4面と5面は狭い地形を縫うように進まなければならず、6面では最終目的である敵指令基地を破壊すれば1周クリアとなる。これらのステージが切れ目なく進んでいくのが特徴で、従来の固定画面シューティングと比べてゲーム性が飛躍的に向上している。操作方法は単純にしてステージの構成を変化させることでゲーム性を作っていくという手法は、後のスクロールシューティングで基本となっていった。また、地形を上手く使っていくというステージ構成は横スクロールシューティングゲーム(横シュー)との相性が良く、本作は日本初の横シューながら、後の作品の手本となるような完成度を持っていたのだ。

 本作によってコナミが大きな飛躍を遂げたのは先にも述べたが、大手メーカーとして発展を遂げた後にも大きな副産物が生み出されている。それが本作の続編として開発された『グラディウス』であり、同作はコナミを代表する看板作品というだけでなく、シューティングゲームの歴史に残る名作として多くのファンから愛されている。その変幻自在なステージごとの変化は本作譲りであり、斬新なパワーアップシステムとともにプレイヤーを虜にした。もしも本作が発売されていなければ後のシューティングゲームの歴史は大きく変わっていたかもしれないのだ。

(須藤浩章=隔週日曜日に掲載)

DATA
発売日…1981年
メーカー…コナミ
ハード…アーケード
ジャンル…シューティング

(C)KONAMI 1981

【記事提供:リアルライブ】
情報提供元: リアルライブ