ひとり芝居「カクエイはかく語りきのインタビューに笑顔で腕を組む渡辺哲(撮影・小島史椰)

俳優渡辺哲(75)がひとり芝居「カクエイはかく語りき」(8月23、24日に新潟・柏崎市文化会館、9月9~15日に東京・下北沢ザ・スズナリ)を上演する。今太閤と呼ばれ国民的人気を博しながら、ロッキード事件で刑事被告人となり、1993年(平5)に75歳で亡くなった田中角栄元総理の生きざまを演じる。2018年(平30)の上演作に角栄元総理が亡くなった75歳になって、7年ぶりに挑む心境を聞いてみた。

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田中角栄のように有名でパワーを秘めた実在の人物を演じるのは、俳優にとって大変なことだ。

「見る人、皆さんがそれなりに田中角栄って人のイメージを持っているわけですよ。演じるにあたっては、田中角栄自身、彼の気持ちというのを一番大事にして、それで台本に乗っかってやってるっていうことですよね。基本的にはそこですね。とにかくやってて面白い。発想というか、そうかそうかと思うんだけど、実際それを現実のものとしてやるっていうのはちょっときついなと思う。僕ら、一般人としてはそういうのが分かりますから、そういう点ではそれを平気でやってきた方だからね。憧れはしますし、無理ですけど、その感覚をちょっとでも自分が感じられたらいいなと思います」

田中角栄は総理大臣になるまでは今太閤(たいこう)と持ち上げられ、その後は金権、ロッキード事件とたたかれまくった。

「世間からは、そうですよね。マスコミというものは、やっぱりある程度そういうことをやって行かなければいけないわけです。それはしょうがないことですよね。地位のある方とか権力者というのは、そういうものだと思います」

田中角栄の娘である、田中真紀子元外相(81)には、初上演の時にことわりのあいさつをしている。

「初めてやった時に、元田中派で衆議院議長もやった綿貫民輔さんが、見にいらしてくれました。僕も終わってから、話をさせていただきました。79年に衆議院選挙の後の第2時大平正芳内閣発足時の40日抗争があって、翌年にまさかの不信任案可決でハプニング解散。その衆院選の最中に大平さんが亡くなるんですけども、その時に田中派の総会があるんですよ。田中角栄さんが『政治とは』という、1時間くらいの大演説をやるのね。その話になりまして、僕も舞台の中で、その演説のシーンをやります。僕は3分くらいですけどね。そのことを綿貫さんはおっしゃっていたんだけど『あの時ね、みんな泣いたんですよ』と。田中角栄の言葉を聞いて、みんな泣いたんですよ。大平正義さんが亡くなって仇(かたき)を討つわけではない、政治のためにやって行くんだと。厳しいがやって行かなきゃいけないって話をしたとおっしゃってました」

田中角栄に直接、薫陶を受けた政治家も少なくなってきた。田中派から別れた竹下派の七奉行と言われた政治家の中で残っているのは、立憲民主党の小沢一郎衆議院議員(83)だけだ。

「角栄さんには、真紀子さんの上に男の子がいたそうです。それで4歳の時に亡くなるんですけども、小沢さんは同い年で、生まれ変わりみたいに思ってかわいがったらしいんですよ。最終的には、竹下登さんと創政会を作って袂(たもと)を分かって行くんですけどね。政治ってすごいなと思いますよ。小沢さんもいい政治家、優秀な方だとは思います。お会いしたことはないですけど、やっぱり政治の世界って大きいんだなっていう。結局は権力を取らなきゃいけない、そのためにそういうことをして行くっていうのがあるんじゃないですかね」

(続く)

◆渡辺哲(わたなべ・てつ)1950年(昭25)3月11日、愛知県常滑市生まれ。東京工大中退。75年「劇団シェイクスピア・シアター」旗揚げに参加。85年「乱」で映画デビュー。91年(平3)に映画「アンボンで何が裁かれたか」。双子の息子は俳優本多英一郎(47)とプロレスラーのアントーニオ本多(47)。181センチ。血液型A。

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 渡辺哲がひとり芝居「カクエイはかく語りき」でハプニング解散の角栄大演説「あの時、みんな泣いた」