「F1/エフワン」の1場面

ブラッド・ピット(61)がベテランレーサーの老練さを巧みににじませている。同世代のトム・クルーズのはつらつぶりとは対照的だが、こちらの年輪は味わい深い。

「F1/エフワン」(27日公開)は、ジョセフ・コシンスキー監督=アーレン・クルーガー脚本の「トップガン マーヴェリック」コンビが世界最高峰のカーレースを再現。時速300キロ超の地上走行はマッハの空中戦以上にスピードを実感させる。一方で、このスポーツの組織対抗戦的な舞台裏にもスポットを当てている。

一見破天荒なベテラン、ソニー(ピット)が時としてチームリーダーの才をのぞかせるところがミソだ。

かつて、あのセナに迫る新星と注目されながら、事故をきっかけにF1から退いたソニーは1人キャンピングカーを運転しながら、各地のレースを転戦している。そんな彼に声をかけたのがかつてのチームメート、ルーベン(ハビエル・バルデム)だった。

ルーベンは今やF1チーム「エイペックス」の代表になっているが、シーズン半ばにしてチームは最下位に低迷。起爆剤としてソニーに参加を求めたのだ。

ソニーが実践するグレーな戦術や常識破りの振る舞いに新人ドライバーのジョシュア(ダムソン・イドリス)やスタッフは反発したが、しだいにその人間力にひかれていく。ドライバー目線の車体改良アイデアに、技術スタッフの職人魂もくすぐられ、成績は上向いていくが…。

実際にマシン6台を購入し、ピット自身がハンドルを握って臨んだレースシーンには、コックピットの振動が映し出され、「命懸け」が伝わってくる。流体力学、タイヤ交換のタイミング…そんなややこしいF1の裏側をコシンスキー監督は端的にわかりやすく描いている。

バルデムがF1代表の貫禄とその足元の危うさをリアルに演じ、技術チームリーダー、ケイト役には「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドン。新人レーサー役のイドリスも含め、どちらかと言えば受けの演技が印象的なピットに巧みなツッコミを入れている。

レース展開にスカッとした後の後日談的幕切れも気持ちいい。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 ブラッド・ピットの人間力が垣間見える 最高峰レースの表裏を描く「F1/エフワン」