(C)2007福田ますみ/新潮社(C)2025「でっちあげ」製作委員会

教師による小学児童へのいじめとして全国的に注目されたのが03年に起きた福岡市の「教師によるいじめ」事件だ。児童の両親によって起こされた民事訴訟で被告の教諭は全面的に否認。事態は予想外の展開となった。

「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」(27日公開)は、この事件をもとにモンスター化した保護者や報道のあり方を問いかける。メガホンを取ったのが三池崇史監督だから、渦中の人たちの心情がバイオレンスの振幅で伝わってくる。

苦学の末に教員となった薮下(綾野剛)が、保護者の律子(柴咲コウ)に1人息子拓翔への体罰で告発される。その内容は「いじめ」ともとれる過酷なものだった。事なかれ主義の校長と教頭は律子の主張を受け入れ、謝罪に終始する。教員を続けたい一心で、薮下も「事実」を認めざるをえなかった。

その内容が週刊誌記者、鳴海(亀梨和也)の知るところとなり、メディアの標的となった薮下は、バッシングですべてを失っていく。律子が起こした訴訟は大弁護団に支えられ、絶望の淵に落とされた薮下は、冒頭の認否で「すべて事実無根のでっちあげ」と全面否認。裁判は思いもよらぬ方向に転がっていく。

綾野がまるで1人二役のように「薮下像」を演じ分けている。律子の証言の中では冷酷なサディストであり、自身の意識の中では良心的な教師であり続ける。もやっとしそうな心象風景を三池監督はメリハリをつけて描き、その線引きが分かりやすい。

対照的に終始能面のような柴咲は怖い。夫役の迫田孝也と並ぶ法廷シーンではまるで2人そろってろう人形のように見える。徹底している。

初動で非を認めてあやまってしまった薮下はもちろん、校長(光石研)教頭(大倉孝二)教育長(峯村リエ)と、事を荒立てたくない、いかにも日本人的対応に関わるメンバーには演技巧者がそろう。わが身を省みて耳が痛い。

原作は事件の経緯を丹念に追った福田ますみ氏のルポ「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」。真相に迫る確かな視点を生かしながら、三池監督はしたたかにエンタメ作品化している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 いじめ事件の真相を三池崇史監督がヒリヒリと描き出す 「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」