誰も見たことがないコンクラーベの人間模様を描く 「教皇選挙」は結末の読めないミステリー
礼拝堂の煙突から白い煙が上がり、新教皇が決まったことが告げられる。
12年前、現教皇フランシスコが選出された時のコンクラーベのニュース映像は、数日間の密室の討議が日本語の「根比べ」に重なり、記憶に焼きついている。
3月20日公開の「教皇選挙」は、この密室内の様子を「ゴーストライター」などで知られるジャーナリストで作家のロバート・ハリス氏の小説を元に描いている。「過去のコンクラーベに関する入手可能な記録はすべて読んだ」というハリス氏があぶり出した聖域は、想像以上に人間くさい。
世界14億人のカトリック教会の最高指導者、ローマ教皇が心臓発作で急逝する。次の教皇を決定するコンクラーベを執り行うのは主席枢機卿のトマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)だ。教皇候補となる枢機卿108人が世界中からバチカンに集結し、隔離状態で選出が行われる。
自分以外に投票し、誰かが3分の2以上の票を獲得するまでひたすら投票が繰り返されるのだ。
リベラル派と保守派、人種間に漂う対抗心、そして全員男性の枢機卿たちと準備に奔走するシスターたちとの男女格差…人間社会の縮図が分かりやすく浮き上がる。
リベラル派のローレンスは仲間とともに親友のベリーニ(スタンリー・トゥッチ)をひそかに後押しするが、なかなか票は伸びない。最有力の保守派トランブレ(ジョン・リスゴー)は、亡くなる直前の教皇と面会しており、その時のことを懸命に隠そうとしている。
ローレンスはその秘密を暴こうと教皇の信頼が厚かったシスター・アグネス(イザベラ・ロッセリーニ)の協力を得るが…。
劇中のコンクラーベは3日間に及び、謀略が繰り広げられる。有力となった候補には次々とスキャンダルが発覚、本命不在のなかで、意外な人物が浮上する。
メガホンは「西部戦線異状なし」(22年)で注目されたドイツのエドワード・ベルガー。灰色の背景に枢機卿の緋色(ひいろ)の服装が映え、異様な集団密室劇を際立たせる。
保守派の口汚いののしりをクローズアップする一方で、主役のローレンスの秘めた欲望も垣間見せて容赦ない。突き放したような描き方で、コンクラーベのドロドロを浮き彫りにする。
巧者ぞろいのキャストの間で絶え間なくドラマが起き、最後にはしっかりオチが付く。聖域をのぞく好奇心を満たすだけでなく、密度の濃いミステリー作品に仕上がっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)