40代はゆるやかに仕事を続けたいと語った松坂桃李。いえいえ、きっと引っ張りだこで忙しく過ごされてると思いますよ(撮影・滝沢徹郎)

俳優松坂桃李(35)が、三谷幸喜監督の5年ぶりの最新作「スオミの話をしよう」(13日公開)で怪しげなYouTuberを熱演している。初出演となる三谷作品は「いつか入ってみたい現場」だった。監督ならではのユニークな演出の数々に新たな発見もあったという。役を探究し続ける真摯(しんし)な姿勢と人柄に迫った。【加藤理沙】

★ユニークかつ分かり易い

数々の作品で体当たりの挑戦を見せてきた松坂にとって三谷組は念願だった。

「三谷作品を見ていた一人として、ご一緒できたらと思う中でのオファーでした。原作ないのにこんな面白いモノが…頭の中どうなっているんだろうと。お話製造機ですよね(笑い)」

長澤まさみ演じる主人公のスオミを愛した5人の男を演じるのは松坂はじめ、西島秀俊、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎の実力派俳優陣。松坂は2番目の夫・十勝左衛門を熱演。自信家な十勝を演じるため「なんとなくマウントを取ること」を意識した。

「あまり友達になりたくないような。さりげなく『俺はお前より上なんだぞ』という雰囲気をしゃべりの圧で主張するようにしました。5人の夫たちに対しても、それぞれスオミとの時間はあったと思いますけど、“僕が一番濃かったですから”という思いに着地するドヤ感を大事にしました」

現場でさく裂するユニークな三谷演出に「今まで出会った監督にいない独特な方だった」と振り返る。

「三谷さんの言葉はユニークかつゴールに一直線にたどり着くわかりやすさがある。例えば家の中を歩き回る彌十郎さんに、歩くニュアンスを『その辺を散歩するように』と伝える。家の中で散歩って何だ? というツッコみもありつつ、想像しやすい言葉のチョイスでした。僕は初日、相手のリアクションを引き出すための演出として『西島さんがしゃべったら、無表情で見て』と言われました」

撮影1カ月前には“長回し”に備えた入念なリハーサルが行われた。

「基本的に会話劇なので、長回しで撮った方が空気感が出る。喜劇の面白さってそういうところにあると思うんです。そのためには練習が大事だと改めて分かりました。やるほどブラッシュアップされ、ベースラインを固める部分もありつつ、新しい演出で付け加わったことが更新される。より鋭くなる感じはリハーサルを重ねたからこそですね」

三谷ワールド全開の同作に「結果として嫌なやつが誰もいない。みんな粒立ってかわいかった」。一方で想定外だったのがダンスだ。物語のラストは舞台のカーテンコールを思わせる超豪華なミュージカルシーンが誕生した。

「オファー時点では細かな設定はなくて、台本を開いたら踊ってたっていう(笑い)。苦手でやりたくない方なので、聞いてないな~というところから入りました。でも、意外と楽しくて部活っぽい感じもあり、団結力も増して練習期間は楽しかったです」

ダンスの出来栄えは「100点満点の25点。苦手がそのまま出ている」と苦笑。今後ダンスのオファーがあっても「いや~やりたくない!」と笑い飛ばした。

★幅広い役“あえて”挑戦

08年に雑誌の専属モデルとして芸能活動を開始。当時は役者を目指したスタートではなかった。

「事務所の方に経験として、戦隊モノのオーディションに行ってみなさいと言われて、初のお芝居のオーディションでレッド役をいただきました。作品を重ねるごとに、お芝居は面白い、この仕事に就きたいと意志が固まっていきました」

テレビ朝日系「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。「戦隊芝居を辞めろと言われた事もありましたが、約2年演じていたので、その型を崩すのは難しかった」と振り返った。

映画が好きになったのは、医大生たちがカンボジアに小学校を建てるまでの奮闘を描いた「僕たちは世界を変えることができない。」への出演がきっかけだ。

「初の映画撮影で海外ロケ。僕にとって初海外だったこともあり、今まで戦隊モノの撮影経験しかなかった僕からするとすごく新鮮でした。ハンディーカメラでドキュメンタリーっぽく追ったり。映画ってこういうのもあるんだと興味を持ち始めました」

その後は挑戦的な作品に出演。幅広い役に“あえて挑戦した”と明かした。

「20代半ば頃からは、30代のためにいろんなジャンルに挑戦しました。お芝居の学びを改めて得たのは樹木希林さんと共演した『ツナグ』、30代のために違うジャンルに挑戦した1歩目は『娼年』。幅広く演じたことで、『孤狼の血』や他の作品に出会うことができた。どれも節目で良い作品ばかりだと感じています」

多彩な役柄に向き合う中で、多くの先輩から現場でのたたずまいを学んだという。

「希林さんや役所広司さん、最近は『ラーゲリより愛を込めて』で共演した二宮和也さん。お芝居で包み込む、カメラが回っていない所で声をかけて、士気を上げる。それぞれの引っ張り方がありましたね」

プライベートでは、20年に女優の戸田恵梨香と結婚し、23年には第1子が誕生。価値観が変わったと笑顔を見せた。

「結婚して父親になったことで、目線が変わるし、価値観も変わりました。守るべきものがちゃんとあるという部分が、そもそもこれまでと違うと感じます」

現在35歳。40代のために「時間をかけて一つの作品に取り組む」が信念だ。

「ゆるやかに仕事を続けられるような仕事の仕方をしたい。やっぱり、脚本が面白いと出来上がりも面白い。面白い本に出会うために、いろんな経験と現場を重ねていきたいですね」

▼三谷幸喜監督

ずっと前から、松坂さんとお仕事をしたいと思っていました。30代の俳優さんってストレートに気持ちをぶつける演技をされる方が多いけれど、松坂さんはそれプラス「こいつ裏があるんじゃないかな」っていう気分にさせる。CMを見ていても「コイツ本当はなんかたくらんでるんじゃないか」みたいな(笑い)。そのたくらみを持っている感じを生かしたいと思って、役を作らせていただきました。

◆松坂桃李(まつざか・とおり)

1988年(昭63)10月17日、神奈川県生まれ。08年、雑誌「FINEBOYS」モデルオーディション優勝で芸能界入り。09年「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。映画「新聞記者」「空白」「あの頃。」、ドラマ「梅ちゃん先生」「VIVANT」など多数出演。25年1月、主演映画「雪の花-ともに在りて-」公開予定。183センチ、血液型A。

◆「スオミの話をしよう」

突然行方をくらませた大富豪の妻スオミと、彼女の失踪を知り、夫が住む豪邸に集合した彼女を愛した5人の男たちの物語。主演長澤まさみ、共演は西島秀俊、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎ほか。

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 松坂桃李 結婚して父親になったことで目線が変わるし、価値観も変わった 守るべきものがある