(C)2024「スオミの話をしよう」製作委員会

97年の「ラヂオの時間」以来、2~5年間隔で公開される三谷幸喜さんの監督作品は、毎回シチュエーションを変えながら、どれにも噴き出したくなるような笑いがあった。

ただ、15年の「ギャラクシー街道」だけは、シュールの度合いが強すぎてついていけなかった。興行成績も前作の3分の1程度と、三谷作品として振るわなかった。

その次の作品となった19年の「記憶にございません」の公開前に、率直にそのことを聞いたことがある。苦笑した三谷さんはこんな風に言った。

「(笑いの)幅といいますか。どこまで行けるかと毎回試しているところはありますね。一線を越えると、人によってはハマらないところが出てくるのだと思います。でも、その先を試してみたいという気持ちが抑えきれなくて」

同年代の中井貴一を主演にすえ、揺り戻しのようにど真ん中の笑いを貫いた「記憶にございません」は「ギャラクシー」の3倍半を越える興行収入をあげる大ヒットとなった。

9月13日公開の「スオミの話をしよう」には、この2作の中間くらいの、ほどよい「翔(と)び具合」と言ったらいいだろうか。

舞台は著名な詩人の豪邸。行方不明になったスオミ(長澤まさみ)の現夫(坂東彌十郎)の自宅である。実は彼は5番目の夫であり、自分こそはスオミの最愛の伴侶であったと自認する前夫たちが次々にやってくる。4番目は警察官(西島秀俊)、3番目はその上司(小林隆)、2番目はユーチューバー(松坂桃李)と見た目もタイプはバラバラだ。そして1番目は元教師(遠藤憲一)で、今は何と5番目宅の使用人として働いている。

遠藤はその登場の仕方からズルいくらいにおかしいし、三谷演出を心底楽しむ個性派ぞそいの面々が、まったく違う「スオミ像」を喜々として語るすれ違いが笑いを呼ぶ。それぞれがかなり「嫌な男」に設定されているが、西島を始め持ち味の好感度がほどよく生かされ、そろって魅力的なキャラに見えてくる。

スオミの側近(宮澤エマ)と4番目の部下(瀬戸康史)、そして5番目の世話係(戸塚純貴)がタイミング良く「部外者」として絡み、場面転換のいいアクセントになっている。

三谷さんが黒澤映画「天国と地獄」をヒントに「もし事件関係者全員が1人の女性を愛していたら…」と非凡なアイデアを膨らませたのがこの作品だそうで、「天国-」の社長宅のような豪邸を舞台に、演劇的な色合い濃く進行する。

誘拐犯の連絡を受ける古風な電話は「天国-」からだろうし、柿ピーを盛った大きな巻き貝の容器といい、シュールな小道具が効いている。

主演の長澤の見せ場は、5人の夫を前にした告白シーンだが、それぞれに見せていた別の「顔」をまるで自然に演じ分ける。とってつけた感じにならないところは、時間をかけて共に役を作り上げる三谷演出ならではだろう。

それぞれの全力投球がうかがえる最後のミュージカルシーンのあと味もいい。【相原斎】

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 三谷幸喜監督9本目の映画「スオミの話をしよう」はあと味すっきりの上質コメディー