映画「PERFECT DAYS」UHD、ブルーレイ、DVDボックスと書籍「ヴィム・ヴェンダースパーフェクト・デイズダイアリーズ逆光」初内を記念し、トークイベントを開いた高崎卓馬氏(左)と柳井康治氏(撮影・村上幸将)

23年5月ののカンヌ映画祭で、主演の役所広司(68)が男優賞を受賞した映画「PERFECT DAYS」で、ヴィム・ヴェンダース監督(79)と共同脚本・企画・プロデュースを務めた高崎卓馬氏(54)と柳井康治プロデューサー(47)が14日、都内でトークイベントを開いた。イベントは、発売中の「PERFECT DAYS」UHD、ブルーレイ、DVDボックスと、9日に発売された高崎氏とヴェンダース監督の共著「ヴィム・ヴェンダース パーフェクト・デイズ ダイアリーズ 逆光」(リトルモア)発売を記念して開催。同氏と、日刊スポーツ映画大賞で選考委員を務める映画パーソナリティー伊藤さとりがトークをする予定だったが、サプライズで柳井氏も参加した。

柳井氏は、ファーストリテイリング柳井正会長(75)の次男で同社取締役を務める。一方、高崎氏は電通グループグロースオフィサーで、JR東日本「行くぜ、東北」などを手がけたクリエーティブディレクターだ。同氏は小説家の顔も持ち、ドラマの脚本も多数、手がけてきたが、CMの制作が本業で、映画の脚本は2009年(平21)の岡田将生の主演映画「ホノカアボーイ」(真田敦監督)以来、2作目と、ともに映画業界の人間ではない。

そもそも「PERFECT DAYS」は、柳井氏が個人で企画、出資までして行った、渋谷区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する同区で20年から行われるプロジェクト「THE TOKYO TOILET」がきっかけだ。柳井氏が、高崎氏に「素晴らしいトイレができているんだけども、ここから先、どうなっていくか。みんながトイレの価値を感じて、共感し、大切にしてもらうには、どうしたら良い?」と相談したことで、あくまで仕事ではなく話が進行した。

その中で、トイレ1つ1つに音楽を付けたり、東京をベースにした架空の映画があり、そのサントラとして渋谷系の音楽がまとまっていったら、などとアイデアが出た。そうした流れので、2人がともに作品が大好きだったヴェンダース監督の連絡先を調べ、2021年(令3)12月に企画趣旨をまとめた手紙を送り、コンタクトを取った。

当初、企画は短編映画4編と写真小説集の作成だった。その後、22年5月にヴェンダース監督一行が来日。同11日に舞台の東京・渋谷で行った会見ではシナリオは構築中で、役所がトイレの清掃員を演じること以外、決まっていないとしたが、シナリオハンティング中に同監督が長編映画製作を打ち出したという。

日本における通常の映画製作とは、明らかに異なる手法で製作されたことを踏まえ、伊藤から2人に日本映画の現状を問う質問が飛んだ。柳井氏は「日本映画の現状を知ったかと言われると、どうかなぁ?」と言い一瞬、宙を見上げて「良くも悪くも素人なので、本当の意味で分かっていない」と答えた。その上で「やり方は1つだけじゃないのは確か」と口にして、持論を展開した。

「自分が普段、ユニクロで働いている時も、同じように毎シーズン、毎日(衣料品を)1枚、1枚、作って売っていて、同じ成績になることがない。このやり方、というこだわりはないし、持っていても仕方ない…当てはまらないので。人とお仕事する時は、どうしようもない。(映画製作の時は)高崎さんが思うようにしか、やられないだろうし『映画って、こうだよ』って言われても…ああ、そうか、と言うだけで、従えない。だって知らないから」

「ルールとしては知っても、リクープ(製作費を回収し、もうけを出す)という単語の意味も分からない。なるほどね、と思っても、逆に言うと、知ったかぶっていくと、逆に失礼だと思った。知らないものは知らない、嫌なことは嫌だと先に言っておかないと、ダメだなと最初に思った」

「日本の映画(業界)の方が、日本映画の問題点、課題と、いろいろなところで問題意識を持ってお話しされていても、僕が普段、働いている業界じゃないので大変だなぁと。違う業界の人間なので、分かりませんと…そういう感覚でやっていた」

柳井氏の話を受ける形で、高崎氏は、日本映画の一般的な作り方、常識とは違う作り方をした結果「(日本映画の常識から)外れていたことで、功を奏したのがヴェンダースもそうで毎回、作り方が違う。」と、ヴェンダース監督の製作手法にも、うまくはまったと明かした。その上で、ヴェンダース監督の言葉を紹介した。

「企画書は、商業映画を作る時、海に出るために仕方なく書くけど、どう動くかは船が出てから決めるので縛られない。たまたま晴れて陸地が見えたけど、立った時の自分の感覚で反対側に行くのを決める」

その上で、高崎氏はヴェンダース監督を次のように評した。

「映画作りのメソッドは、海外の作り方とも逸脱していると思う。映画って何だろうと向き合い、これから見る映画は何だろうと考えて作り、何か違うなら変える人。だからオリジナリティーがあるし、今の時代に早すぎるもの、批評が追いつかないものを作りうる人」

その上で「だからこそ、何も知らずに0から考えるスタンスで行けたから、ちょうど相対峙(たいじ)することができた。それが大きかった」と、ヴェンダース監督とのタッグ成功の秘訣(ひけつ)を明かした。

柳井氏には、次、作るならどんな映画を? と質問が出た。同氏は「映画を作りたい、では良くないと思う。ユニクロの仕事があって、トイレのプロジェクトがあって、映画との出会いがった。自分の中にあるもので、これは映像、映画みたいなものでお伝えすると、より良いものが…というものがないと。手段と目的が入れ替わるのは良くない」と答えた。

「PERFECT DAYS」は受賞こそ逃したが、米アカデミー賞国際長編映画賞(旧外国語映画賞)にノミネートされた。カンヌ映画祭での役所の受賞も踏まえ、柳井氏は「結果はすごく華々しく…カンヌ、アカデミーとか、いろいろなところに連れて行っていただいたりで、そもそも目的を忘れがちですけど。次、何か映像作品に関わることがあっても、これを作るのは、こういう理由があって、というのじゃないと、良くないと思う」と重ねて口にした。【村上幸将】

◆「ヴィム・ヴェンダース パーフェクト・デイズ ダイアリーズ 逆光」 世界的な巨匠ヴェンダースとともに共同脚本を務めた高崎が準備、撮影、編集、公開の一部始終を記録したメイキングブックで、本の中には、同氏が企画趣旨をまとめた企画とともに柳井氏の手紙とともにヴェンダース監督に送った手紙と、同監督からの返信が掲載。さらに英語と日本語の脚本、場面写真まで掲載された。さらに、役所が演じた東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山という人物が何者かを、多数の質問等々で構築した「平山とは何者か」と題したヴェンダース監督のメモまで掲載。映画の本編では描かれていない、平山の過去にも触れた。

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 役所広司カンヌ受賞「PERFECT DAYS」柳井康治、高崎卓馬氏が常識超えた製作裏側明かす