(C)2024「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」製作委員会

新聞社に入社した44年前は、まだ植字工が活字ステッキを拾って組み版を作る活版印刷の時代だった。それでも、「トロッコ」という言葉は聞いたことがない。すでに死語になっていたのではないかと思う。

記者を「汽車」にかけて、それに劣るものとして新人記者をトロッコと呼んだ昔の慣習に由来する「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」(8月9日公開)は、現代にそんな昭和レトロを持ち込んだ不思議な空気が面白い。

文学少女の結衣は憧れの作家「緑町このは」が在籍する櫻葉学園高に入学する。が、コンクール連覇で注目される希望の文芸部への入部はかなわず、曲折の末非公認の新聞部に身を置くことに。

新聞部長のかさね(高石あかり)に同行し、その猛進ぶりに気押されながらも記者のいろはを学んでいく。憧れの「緑町このは」の正体は実は不明で、その真相を探るうちに名門校の暗部がしだいに明らかになって…。

主演の結衣にふんする櫻坂46の藤吉夏鈴は、NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女 シーズン2」(24年)が記憶に新しい。ドラマでは、疎外されてもマイペースに生きる隣人女性役に何とも言えない存在感があった。今作でもトロッ子と呼ばれながら、真相に突き進む秘めた意志の強さを「目力」で感じさせる。

新聞部長のかさねには「ベイビーわるきゅーれ」(21年)の高石あかり、文芸部長に「おとななじみ」(23年)の久間田琳加、新聞部副部長にNHK「ケの日のケケケ」(24年)の中井友望と同年代の有望株が顔をそろえ、生き生きとしたやりとりが、今風女子高生のリアルを感じさせる。

新聞部の取材はドローンまで飛ばす一方で、足で稼ぐ対面取材を徹底している。今ならSNSで瞬時に拡散されそうな学園内のスキャンダルも「紙」での報道にこだわる。時間と手間暇の分だけの確度は上がり、そこには「節度」もある。取材、印刷、配布の各段階での「攻防」も見せ場となっている。

新聞部が根城にしている街の印刷工場の雰囲気が、所長役の石倉三郎のたたずまいとともに何とも懐かしい。活版印刷の工場には確かにこんな人がいた。

宮川彰太郎氏が日大芸術学部在籍中に授業の課題で書いた原案を元に脚本・大野大輔、監督・小林啓一両氏のコンビで仕上げた作品には、夏休みファミリー映画らしい「教訓」もにじんでいる。その辺をくんだ高嶋政宏の悪役ぶりが分かりやすいアクセントとなっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

情報提供元: 日刊スポーツ_芸能
記事名:「 いにしえの業界用語のレトロ感「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」の不思議な味わい