「トランスポーター」シリーズや『恐怖の報酬』等を例に出すまでもなく、世の中にあまたあるハラハラドキドキさせてくれる"運び屋映画"。そんな中、こんなにも、のんびりとした"運び屋映画"があったでしょうか?

それが、現在公開中の映画『運び屋』です。

本作は、「87歳の老人がひとりで大量のコカインを運んでいた」という嘘のような本当の話を元にした実話ベース映画なんです。

あらすじ

家庭をないがしろに仕事一筋で生きてきた主人公の老人。そんな主人公が仕事を失い、孫娘の結婚資金に頭を悩ませていた所、悪いオファーが。それは、メキシコ麻薬カルテルによるコカインの運び屋業。

マフィアは安全運転を通り越して、ノロノロ運転の老人なら警察も気づくまいと考えた訳です。その計算は見事に的中。自分のペースな会話術&お節介レベルな社交性により、マフィア連中の人気者に。信用を勝ち取った主人公。仕事の量もコカインの量も段々とグレードアップ。所が、このカルテルを警察がマーク。内通者をフル活用して犯罪の詳細が明るみになっていくのです!!

果たして、主人公は警察に見つかってしまうのか?!絶賛疎遠中の家族との仲は取り戻せるのか?!

ユーモラスとシリアスのバランスの良さ

主人公の運び屋を演じるのは、監督も兼ねるクリント・イーストウッド。愛嬌満載の老人をユーモラスと悲哀で好演しています。しかも、デリヘル嬢を2人同時に相手する女好き。運び屋ミッション中にも、カフェで寄り道したり、道で出会った人と世間話で盛り上がったりして、カルテルの監視役をイラつかせるクダリは爆笑。

それでいて、娘の結婚式を仕事ですっぽかした前科があり、妻と娘からは絶縁状態。孫娘の結婚資金の用意というラストチャンスの為、危ない仕事に手を出してしまう人間味も加味。

逆に本作のシリアス要素を担当するのは、麻薬取締局の捜査官を演じるブラッドリー・クーパー。ちなみに、今年、自身の監督作である『アリー/スター誕生』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされましたが、その『アリー/スター誕生』は元々イーストウッドが監督予定だった企画をクーパーが引き継いだ作品なんです。本作では『アメリカン・スナイパー』に続き、イーストウッドとのコラボになります。

カルテル内の内通者から断片的な情報をキャッチしては主人公の正体に近づいていくヒヤヒヤ展開。物語の世界観へ引っ張ってくれます。

イーストウッドの本作に懸ける思い

本作の主演&監督の名優にして巨匠のクリント・イーストウッド監督。年に1~2本というハイペースで映画を作り続けています。2008年の『チェンジリング』から『インビクタス/負けざる者たち』『J・エドガー』『ジャージー・ボーイズ』『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』、去年、日本公開された『15時17分、パリ行き』など、近年は実話ベース映画でフィフモグラフィを埋め尽くす日々。ところが、自身の監督作に出演するのは、2008年の『グラントリノ』以来10年振り。

ただ、元スゴ腕ガンマンが老後を見つめ直す『許されざる者』やスゴ腕の泥棒が疎遠の家族との仲を修復する『目撃』、落ちぶれた元凄腕新聞記者が人生を懸けて冤罪事件に挑む『トゥルー・クライム』など、過去の自作主演作品との共通点は多いです。

イーストウッドは、「この役を、ほかの誰かに譲りたくなかった。ほかの誰かの演出で演じたくもなかった。だから両方自分でやったのさ」と語ります。また、「人は何かを学ぶのに、遅過ぎることはないんだ。それは、ずいぶん前から私の映画のテーマになっている」とも。

そう考えるとイーストウッドの集大成のような本作に懸ける思いが伝わってきます。その為か、主人公の娘役には本当の自分の娘をキャスティングしたり、今だに車の運転をして何処へでも行ってしまう主人公との共通点も。イーストウッドの人生と照らし合わせると、また違った面白さが見えてくる映画『運び屋』は 絶賛公開中です。

(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ギボ・ログ★★★★☆(星4つ)

Daytona(デイトナ) 2019年3月号 (2019年02月06日発売)
Fujisan.co.jpより
情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 87歳の老人が大量のコカインを運ぶ映画『運び屋』