「化学肥料や農薬を3割減らし、収穫量を2割増やす」

 

化学肥料と農薬に頼ってきた日本の農業に、待ったをかけるプロジェクトが動き出した――。

 

立命館大学は8月28日、都内で「農地の有機物バランスを整え、農作物の量と質を向上させる独自技術」と「同技術をベースにした研究開発・実証実験プロジェクト」の記者発表会を実施。

 

同大生命科学部生物工学科の久保幹教授が登壇し、日本の農業の現状、化学肥料に頼った農作物の危険性、独自技術「土壌肥沃度指標 SOFIX」の概要、実証実験の途中経過などを報告した。

 

久保教授は冒頭、日本の農業が化学肥料に頼る現実について言及。「日本は、1ヘクタールあたりに使用する肥料の量が世界一。即効性がある化学肥料に頼ることで、この50年間で、土のなかの微生物が激減した」と久保教授。

 

「化学農法で農地や体内の微生物が減ったのに対し、植物のなかの硝酸塩や残留農薬が激増した。たとえば有機農法によるレタスに対し、化学農法によるものは硝酸イオンが2倍に。栄養成分も減少する。肥料には、窒素、リン酸、カリウムが入るので、ミネラルやマグネシウムなどは有機農法の半分に減ってしまう。硝酸塩の多い農産物を食べると、ブルーベビー症候群やガン、アルツハイマー病などの発症率が高まるともいわれている」(久保教授)

 

久保教授らは、「19世紀以前は経験にもとづいた有機農業、20世紀は化学に依存した農業」とし、現代の「21世紀は科学にもとづいた物質循環型農業」ととらえ、化学・物理・生物の3要素のうちの生物にいる微生物に着目。土壌微生物量や、窒素循環、リン循環などを“見える化”した、土壌肥沃度指標 SOFIX(Soil Fertile Index)技術を開発した。

 

「SOFIX技術は、土のなかの微生物量や、微生物による窒素循環、リン循環を数値評価し、これまで難しいとされていた生物的分析を行えるようになり、有機肥料をつかった土づくりに、科学的な“処方箋”を出せるようになった」(久保教授)

 

土壌の微生物や成分を診断書で見える化

 

久保教授らは、土のなかの微生物量、アンモニア酸化活性、亜硝酸酸化活性の3要素を測り、土の現状を評価。さらに、水溶性カリウムやバクテリア数などの19項目による土壌診断で土を総合評価し、「あなたが所有する土の現状はこうですよ」というSOFIX診断書を提示する。

 

農業生産者は、「いま持つ土壌に、何が足りないか」がわかり、冒頭に掲げた「化学肥料や農薬を3割減らし、収穫量を2割増やす」という目標に近づけていく。

 

今回の記者発表では、SOFIXによる収入倍増モデルのイメージも示された。これまでの化学肥料に頼っていた農法に対し、SOFIX診断による有機農法に変えることで、収穫25%増、付加価値25%増、労務費・肥料農薬費の合算額35%減が期待できると伝えていた。

 

土のなかの微生物や成分を“見える化”し、「土壌環境をよくし、低コストで、良質なものをたくさん穫る」というスタイルに向き始めた日本の農業。農水省などは現在、静岡県浜松市や山形県村山市、滋賀県草津市・守山市・米原市、千葉県富津市などで実証実験を行い、将来的にはマニュアル化・地域連携マニュアル化をめざして実績を積んでいくという。

 

 

情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 化学肥料に頼る農業に「待った!」立命館大学による「土の微生物や成分の見える化」とは