今、厳しい出版業界のなかにあって、市場を伸ばしているのが絵本でございます。短期間で10万部以上売れる絵本のヒット作品が続々と登場している背景には、大人の読者の存在があるのではないでしょうか。

 

実際にここ数年、大人をターゲットにした絵本の出版が増えております。ママやパパ以外の大人が今後、絵本市場を牽引していくのではないかと…。

 

絵本の雑誌「月刊MOE」でも先月、「大人からの絵本 おすすめの300冊」という特集を組んでいましたし、都内の某オシャレ書店でも「大人からの絵本フェア」を開催しておりました。絵本業界に流行語大賞があれば、「大人からの絵本」が今年の有力候補に間違いございません。

 

そんななか、書店のフェア会場で、ひときわ目立っていた、まさに「大人からの絵本」にふさわしい一冊をご紹介!

 

「百年の家」(作:J・パトリック・ルイス 絵:ロベルト・インノチェンティ訳:長田 弘)でございます。

 

なぜ、目立つのか、それは圧倒的な画のクオリティーの高さでございます。もちろん、表紙だけではありません、めくっても凄いんです…

 

絵を担当したインノチェンティ様は、国際アンデルセン賞画家賞、ボローニャ・ラガッツィ賞をはじめ、世界の名立たる賞を受賞されております。そのロベルト・インノチェンティの傑作と言われているのがこの作品でございます。

 

内容は、ある1軒の家の100年間(1900年~1999年)の歴史物語。家が自らの歴史を語るようにお話は進んでいきます。そこには、たくさんの人間も登場し、一緒に時を刻んでいきます。そのなかで、人は結婚したり、子供が生まれたり、亡くなったり、戦争に行ったり、嵐にあったり、…そんな人々を家はただ黙ってじっと見守り続けます。緻密に描かれた画と、深いテーマは読みごたえ十分でございます。読み終わった後、映画を1本観たような、そんな気分が味わえる、まさに大人の絵本でございます。

 

さらに、大人からの絵本の“たしなみ”をご提案。

 

それは、読み比べでございます。絵本好きの方ならご存じかもしれませんが、家が主人公の絵本といえば、「ちいさいおうち」が有名でございます。こちらと是非、読み比べて頂きたいのでございます。

 

「ちいさいおうち」(作・絵:バージニア・リー・バートン 訳:石井 桃子)

 

歴史のある名作中の名作、世界中で読み継がれている絵本でございます。

 

1942年に出版され、全米絵本の最優秀賞コルデコット賞を受賞、1952年にはディズニーによって短編アニメ映画も製作されております。日本での出版は1954年。こちらも、一軒の家が主人公で、長い時間の中での変化の様子を描いています。

 

しかし、テーマやアプローチがまったく違うようで違わないような、…まさに、読み比べて頂きたい絵本でございます。

 

こちらの作品も、画というか、デザインが秀逸でございます。時間の経過の表現の仕方などアイデアが随所に盛り込まれております。さらに、こちらの絵本は、何度も何度も重版を重ねており、テキスト(文章)が縦書きから横書きに変化したり、それに伴って、挿絵の左右逆になっていたり、版によって色の出方が違っていたり、そんなところも楽しめる絵本になっております。

 

ちなみに今、東京都江東区にあるギャラリーエークワッドという場所で、89日まで、この絵本の展覧会が開催されております。興味のある方は、是非、こちらも…。

 

2冊ともに、読者層が圧倒的に大人な絵本でございます。テーマも深いです。是非、この機会に大人絵本デビューされてみてはいかがでしょうか。

(文:N田N昌)

 

情報提供元: マガジンサミット
記事名:「 「大人からの絵本」がブームの兆し!?