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人生100年時代において、いかに幸福に健康寿命を伸ばして長生きするかが問われる中、現実としては2人に1人ががんに罹患するといわれる。予防はもちろんのこと、いかに早期に発見し、治療を開始するかも重要だ。
がん検診などがあるものの、コスト的にもハードルが高い中、注目されているのが、HIROTSUバイオサイエンスが手掛ける、尿の提出だけで受けることができるがん一次スクリーニング検査「N-NOSE(エヌノーズ)」だ。今後、大型アップデートによって、対象特定がん種が15種から23種にまで拡大し、受検者が70万人にまで増えるニュースが飛び込んできた。
ここまで注目を集めるまでには長く、時に苦しい道のりがあったという。同社の担当者にインタビューを行った。
「N-NOSE」は、尿を提出するだけで、嗅覚の優れた線虫「C. elegans」が、尿中に含まれるがん特有の匂いを高精度に検知することを利用したがん検査である。2024年11月現在15種のがん、「胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、肝臓がん、前立腺がん、子宮がん、食道がん、胆嚢がん、胆管がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、口腔・咽頭がん」のリスクを調べることができる。
検査キットは15,800円(税込)~。WEBサイトから購入することができ、尿を提出し、約4~6週間後に、マイページで検査結果を見ることができる。取り扱っている医療機関でも受検することが可能だ。
一般的な全身総合がん検診の平均価格は、23~24万円程度といわれており、時間も移動コストもかかるが、それと比べてN-NOSEはコスパもタイパ(タイムパフォーマンス)も高いといえる。
また、前回記事で紹介したが、N-NOSE高リスク者の「真の」陽性的中率は11.7%。他のがん検査のうち、乳がんは4.8%、子宮頸がんは1.2%、大腸がんは3.1%というから驚きだ。
受検者は2024年11月時点で約70万人にまで増え、すでに数多くの受検者のがんを早期に発見し、役立てられている。
【関連リンク】
線虫によるがん検査「N-NOSE」の「真の」陽性的中率11.7%と発表。新たに全23種のがんに対応、今後はAIでがん種の特定も
https://magazinesummit.jp/lifetrend/53098530240926
そして2024年12月に発売される予定なのが、大型アップデートした新製品だ。
国立のがんセンターとの共同研究によってN-NOSEの有効性を検証した大規模臨床試験の結果を踏まえ、これまでの15種に加え、新たに「小児がん、舌がん、歯肉がん、声門がん、甲状腺がん、皮膚がん、消化管間質腫瘍(GIST)、精巣がん、血液がん(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病を含む)」の9種が加わり、全23種に適応拡大する。
同時に、受検者が受検しやすいよう、キットのアップデートも予定しているという。
さらに、AI技術を活用してがん検査の精度を高めた新製品、がん種の特定精度を一層高めた新製品を来春に発表予定。嗅覚による線虫の動きに関する大量の画像データをAIにより処理することで、精度向上とがん種の特定が可能になる。
受検者が約70万人にまで増え、大型アップデートに至るなどの好調の背景について、同社の創業メンバーで広報担当の日暮氏は次のように語る。
「我々は創業当初に証明されていたがん種に限らず、他のがん種にも対応できると考え、その可能性を証明するために共同臨床研究を地道に進めてきました。その努力が、今回の23種への拡大につながっています。実用化直後に新型コロナウイルス感染症の影響を受け、病院での販売が難しくなり、販路の試行錯誤を余儀なくされる困難もありました。また次世代型がん検査の先頭として、前例がないビジネスモデルの構築などにも挑戦してきました。こうした中でも、毎日少しずつ多くの方に検査を知っていただく努力を重ねた結果、新しい検査としては異例の70万人という受検者数に到達できたのです」
他に、ここまで到達するまでの道のりが決して平坦なものではなかった理由として、一般的に科学系企業はメディアやSNSの標的になりやすいことがある。曲解による誤報、誹謗中傷などの問題が多発している現状がある。同社もその対象となっている企業の一つだ。
「創業当初、線虫を使った検査自体、医師にも理解されにくく、真摯な説明を重ねてようやく共同研究してくれる医療施設が全国に拡大しました。実用化するまでは応援してくれる人が多かったのですが、事業化した途端、『お金儲けがねらいなのでは?』などの批判が増加。実際には赤字でした。
医師も含めて論文を読まずに批判している人が大半で、メディアもそのような医師の意見を無条件に取り入れることも多く、科学の正確な報道がいかに難しいかを痛感しました。
●科学のルールに則って真摯に対応することを貫いている
医師や科学者であっても、専門外の技術を完全に理解するのは難しいものです。しかしながら、もし仮に、科学に対する知識が専門家ほどではなく、論文も読んでいない科学ジャーナリストがいたとするならば、論文を読まずにはなから否定している医師に聞くだけで記事に書くことが、科学情報を正確に社会に伝える正しいやり方とは思えません。
真実に基づいた情報発信には、その道の専門家の意見を尊重し、正確な調査が不可欠と考えます。現状の科学報道のやり方の結果、結局、損をするのは国民であり、大きな危惧を抱いています。当社も何ができるかを常に考えています。
科学的議論のルールを逸脱した記者やSNS投稿者に対して、同じ土俵で戦うのは私たちも同様に科学を貶(おとし)めてしまうものであり、当社はあくまで科学のルールに則って真摯に対応することを貫いています。ただ、理解のある記者やメディアが、ルール違反をする記者に対して一緒に戦ってくれたらという思いもあります」
同社が研究者としての正しい意思を貫き通すのは、この先の研究者のためでもあるという。
「当社の企業理念である『研究者が輝く未来の創造』は、広津社長が大学でトップ研究者として活躍した経験から来ています。そのためには研究者を取り巻く社会環境の改善が必要であり、科学情報を正しく世の中に伝えることが不可欠で、そのための方法を私たちは常に模索し考えてきました。
研究開発とビジネス化を両方兼ね備えたベンチャーは日本にはほとんどなかったことから、多くの人にとっては新しすぎて理解が難しい面があったようです。しかし、いわれなき批判を受けても、私たちは『研究者が輝く未来』を創ることをあきらめるわけにはいきません。この姿勢で進むことが、後に続く研究開発型ベンチャーのための道を切り拓く力になると信じています。新しいものに対する誤解を正し、若い世代がより自由に挑戦できる環境を整えたいと考えています」
●科学の真実は一つ
「報道の基本として『両論併記』がありますが、科学の真実は一つであり、両論併記すべきでないことがほとんどです。データ、数字は嘘をつきませんので、科学者によっていろんな数字に化けたりすることはありません。
しかし記者の中には、『別の考え方がある』と言って自身の推す結論を言ってくれる医師の意見を載せてみたりします。ひどい記者になると、両論併記すらせず、誤っている、自身の推したい結論のほうだけを載せる場合もあります。その結論のために、数字をねつ造していることもあるのです。これでは科学の正しい情報が伝わるわけがありません。科学と世の中の事件やゴシップとの違いを、もう一度よく考えてほしいと思います」
今後も、同社はさらに事業を進化させていく。現在行っている未来のための活動と、今後の展望について代表取締役の広津崇亮氏は次のように語った。
「N-NOSEは世界で初めての安価かつ高精度ながん検査として、先進国だけでなく全世界で使用できるものとして注目を集めています。現在、欧米だけでなく、アジア、中東などでも現地パートナーとの協議が進んでいます。また、ご要望の多い訪日外国人への需要にもお応えします。ペット用N-NOSEも同時に展開し、国際的な普及を進めています。
今後も、当社のミッションである『全く新しい発想のがん検査技術で、がんを早期発見できる未来を創る』に向けて邁進し続けます。将来的には、検査会社からビッグデータ企業への進化を目指し、新たな成長を目指します」