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企業が自社事業の一部門を切り出し、新たにベンチャー企業として独立させる「カーブアウト」。各企業には将来性がありながらも、現時点では振るわない事業が存在しているケースもあります。それらをカーブアウトさせることで、自社の価値を高められるという利点があります。
さて東京都は10月6日、新事業発掘プロジェクト(GEMStartup TOKYO)の機運醸成イベントを開催しました。第一部では株式会社デンソー新事業推進室担当部長で、カーブアウトによって株式会社OPExPARK (以下、オペパーク)を設立した奥田英樹氏が「転換期を迎えた中でのカーブアウトの重要性」をテーマに基調講演。第二部では、同じくカーブアウトで立ち上げたユビ電株式会社のCEO &Co-founder山口典男氏と、ソニーベンチャーズ株式会社のシニアインベストメントダイレクター鈴木大祐氏が「企業の未来を切り開く”カーブアウト”とは」をテーマにパネルディスカッションを実施。カーブアウトの重要性、成功例、必要な準備など、リアルな声を聞くことができました。
爆発力のある事業が描けるか
デンソーから生まれたオペパークは、最先端IoT技術で手術室のデジタル化を促進させるプラットフォーム。しかし、事業実現に至るまで様々な紆余曲折がありました。2010年から新規事業の探索をスタートさせた奥田氏。デンソーが持つ既存技術を生かした植毛支援や人工関節置換ロボット、歯科インプラント支援ロボット事業などを目指すも、カーブアウトに至りませんでした。医療に着目し、チャレンジを重ねていく中で見出したのが「スマート治療室」です。「デンソーのネットワークを活用して、手術中のあらゆる情報を整理し、術者の意思決定を支援する手術室の提供。手術室をデンソーの得意領域である工場と捉え、全てのデバイスがつながる治療機能の提供です」と奥田氏は話します。ところが今度は、限定的な市場マーケットという課題が生まれました。
そこで、スマート手術室の販売からデータの販売へ方針を転換。奥田氏は「当初のやり方だとマーケット規模は100施設程度。それでは事業として成り立たない。スマート手術室を無償で提供して、そこで蓄積されたデータを出品するプラットフォームとした。それにより全世界の外科医が顧客となる。カーブアウト成功の秘訣は、いかに爆発力のある事業が描けるかが鍵」と語りました。
ちなみにこれまで挑戦した植毛支援やロボット事業は形を変え、技術譲渡などによって事業自体は継続。「デンソーとしては本格参入に至らなかったものの、いくつかの技術は世に残し、治療分野に貢献できた。こういった結果もカーブアウトならでは」と奥田氏は見解を述べました。
第二部のパネルディスカッションでは、ソフトバンクからカーブアウトしてユビ電を設立した山口氏と、数多くの経営再建や新規事業創造業務に携わる鈴木氏が対談。鈴木氏は昨今のカーブアウトについて「不採算やノンコアの切り出しという理由から、成長のためにカーブアウトを実行するケースも増えてきた」と指摘します。サラリーマン時代からチャンスをうかがっていたという山口氏は「所属していた企業と敵対関係なくできるのがカーブアウトの魅力」と話しました。
とはいえ、新規事業のスタートや起業は資金、モノ、人が少ないという実情も。カーブアウト成功の共通点について山口氏は「常に考えること。脳内検討を繰り返し、思いついたらとりあえず実行に移すことが大事」としました。鈴木氏は「大企業らと同じペースで進めることはできない。“選択”と“集中”が重要。一つに特化して『ここだけは負けない』という強みを作ること」と訴えました。
鈴木氏はカーブアウトの仲間集めについて「お金でつながる関係より、理念や思想、パッションで結ばれた関係が理想的。渦の中心になることが大事」と言及。非常に印象的なコメントでした。カーブアウト機運醸成で、日本から多数のユニコーン企業が輩出される日も近いかもしれませんね。