細田守監督のアニメーション映画『竜とそばかすの姫』。その世界を現実の空間で体験できる、アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫 – PROJECT LAYRA – 」が、東京・高輪の「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」で上演中だ。


ガジェット通信では先日、本公演を手がけたクリエイティブディレクターの広屋佑規さん、映像監督の篠田利隆さん、CG監督の緒方達郎さん、舞台演出の山崎彬さんの4人にインタビューを実施。映画の仮想世界<U>を現実の劇場に再現するための工夫や、さまざまな映像・音響技術を駆使した演出について話を聞いた。


そして今回、10月12日(月・祝)18時30分からの公演を実際に鑑賞してきた。

インタビューの際にも、これまでにない映像や音響演出について興味深い話を聞いていたが、実際に体験すると、その完成度は想像以上。特に来場者のスマートフォンを利用した演出は、映画の中に入り込んだような感覚を味わわせてくれるものだった。


さらに、映画の設定を巧みに生かした驚きの映像演出や、新たな歌姫LAYRA(レイラ)のライブなど、見どころも盛りだくさん。映画の世界観を受け継ぎながら、まったく新しいエンターテインメントに仕上がっていた。

今回は、そんなアニマーシブライブの魅力を、公演での体験を交えながら紹介していきたい。


※写真はオフィシャルより提供 当日のものとは異なります


客席の周囲にも<U>の観客たちが! 会場全体を使った没入型演出


※以下、物語や演出に関する一部ネタバレを含みます。


今回の物語の舞台となるのは、アニメーション映画『竜とそばかすの姫』から5年後の仮想世界<U>。


かつて歌姫ベルをプロデュースしたヒロちゃんは、新たな歌姫レイラを発掘。彼女を世界的なスターにするため、<U>史上最大規模の音楽フェス「Utopia」を開催する。


本公演では、観客自身も<U>の住人である<As>として、この音楽フェスに参加することになる。



会場となる「MoN Takanawa: The Museum of Narratives [さ横1.1]Box1000」には正面に巨大なLEDディスプレイがあり、さらに左右にも大型ディスプレイを設置。インタビューでは、正面の映像だけでなく、会場全体を使って<U>の世界を表現することの重要性が語られていた。


実際に印象的だったのは、左右のディスプレイに、会場にいる観客とは別の<U>の観客たちが映し出されていたことだ。


正面ではアーティストによるライブが繰り広げられる一方、周囲のディスプレイには、それを楽しむさまざまな<As>たちの姿がある。



現実の客席だけでなく、映像の向こうにも同じライブを楽しんでいる人々がいる。そんな光景によって、目の前のステージが広大な<U>の世界の一部であることを実感できるのだ。


劇場という限られた空間でありながら、その先にもっと大きな世界が広がっているように感じられるのが面白い。


映画で描かれていた、数多くのアバターが集まる仮想世界。そのスケール感が、MoN Takanawaのシアター空間ならではの表現で再現されていた。


今回の公演で特に感心させられたのが、スマートフォンを使った音響演出だ。


本公演では来場者のスマートフォンを演出の一部として利用する。事前に専用のイベントページを開き、スマートフォンからも音が出る状態にしてライブに参加するのだ。


通常の映画や舞台なら、公演中にスマートフォンから音が出るのは厳禁。しかし今回は、そのスマートフォンが重要な役割を果たす。



※素材提供:ソニーグループ(株)


ライブが始まると、ステージや会場のスピーカーから流れる音だけでなく、スマートフォンからも声が聞こえてくる。


それは、会場にいる観客の声ではない。<U>の世界で同じライブを見ている<As>たちの声なのだ。自分のスマートフォンはもちろん、周囲の来場者が持つスマートフォンからも、歓声や驚きの声などが聞こえてくる。つまり、自分のすぐ近くにも<As>たちがいるように感じられるのである。この演出が本当にすごい!


インタビューの際、広屋さんは観客のスマートフォンをそれぞれひとつのスピーカーとして利用し、観客が増えるほど客席の中に音の発生源が増えていく仕組みを説明してくれた。


その時点でも面白いアイデアだと思っていたが、実際に体験すると、その効果がよくわかる。


ステージ上の出来事に対して、<As>たちが驚いたり、声援を送ったりする。その声が客席のあちこちから聞こえてくることで、自分も同じ場所でライブを楽しんでいる感覚になるのだ。



しかも、特別に何かを意識しなくても、自然にその世界へ入り込むことができる。


左右のディスプレイに映る<U>の観客たちの姿と、スマートフォンから聞こえてくる声。この視覚と聴覚の両方を使った仕掛けによって、<U>の世界が会場全体に広がっているように感じられる。インタビューで山崎さんは、観客が無理に没入しようとしなくても、自然に作品の世界へ入っていけるようにしていると語っていた。


まさに、その言葉どおりの体験だった。


AZKiやぽんぽこ&ピーナッツくんも登場! 映画から続くヒロちゃんの活躍もうれしい


物語は、<U>の新たな歌姫レイラのライブを中心に展開していく。


そのレイラをプロデュースするのが、映画でもおなじみのヒロちゃんだ。声を担当するのは、映画に引き続き幾田りらさん。映画では主人公・鈴の親友としてベルを支えていたヒロちゃんだが、5年後の世界では有名プロデューサーとして活躍している。


相変わらずの明るさと勢いで音楽フェスを盛り上げる姿は、まさに映画で見たヒロちゃんそのもの。彼女が登場することで、今回の物語が映画の延長線上にあることを自然に感じられる。映画のファンにとっても、うれしい演出だろう。



さらに「Utopia」に参加するスペシャルゲストアーティストとして、ホロライブ所属のVTuber・AZKiさんも登場。


現実のバーチャルアーティストが、今度は映画の中に登場する仮想世界<U>でライブを披露するという、ユニークな試みだ。


AZKiさんによるパフォーマンスは、巨大なディスプレイを使った映像演出と相まって、音楽フェスらしい華やかなステージを作り出していた。



そして、レポーターとして登場するのが、VTuberユニットのぽんぽこ&ピーナッツくん。


二人の軽妙な掛け合いは、シリアスな物語とはまた違った楽しさを感じさせてくれる。特に、普段の二人らしいやり取りが<U>の世界にも自然になじんでいるところが面白い。


こうしたゲストたちの存在によって、<U>が多くのアーティストや住人たちによって成り立っている世界であることが伝わってくる。



5人のキャストが演じるLAYRA(レイラ)! miwaの歌声と演技が物語を盛り上げる


そして、いよいよ本公演の主役となる新たな歌姫LAYRA(レイラ)のライブが始まる。


レイラは、かつてベルの歌に心を動かされ、自らも<U>の世界で歌い始めたアーティスト。ヒロちゃんのプロデュースによって人気を集め、今では<U>を代表する歌姫へと成長している。本公演の特徴のひとつが、LAYRA/コトミ役を5人のキャストが公演ごとに演じていることだ。


出演するのは、miwaさん、昆夏美さん、鈴木このみさん、みきまりあさん、ASCAさん。



筆者が鑑賞した10月12日18時30分からの公演では、miwaさんがLAYRA/コトミ役を担当した。レイラのライブでは、その歌声はもちろんのこと、巨大なディスプレイに映し出される映像との組み合わせも見どころとなっている。


さらに、物語が進むにつれて、レイラというアバターと、現実世界で生きるコトミという人物の関係が重要になっていく。


前回のインタビューで山崎さんは、キャストそれぞれがレイラというキャラクターに自分自身を重ねながら演じていると語っていた。


実際にmiwaさんのステージを見ると、歌唱だけでなく、レイラの思いを伝える演技が大切な要素になっていることがわかる。


同じ物語であっても、歌唱スタイルも表現方法も異なる5人のキャストが演じることで、それぞれ違ったレイラの姿を見ることができそうだ。


機会があれば、ほかのキャストによる公演も体験してみたくなる。


AIレイラが分身&融合!  映像ならではのダイナミックなライブ演出


今回の公演で、映像表現の面から特に驚かされたのが、レイラのライブシーンだ。


物語のカギを握るのは、小さな自律型AIの<As>「パック」。声は黒沢ともよさんが担当している。かわいらしい姿のパックだが、実は高い処理能力を持ち、学習した対象を自ら生成するという特殊な能力を備えている。このパックが生み出すAIのレイラが、ライブ中に驚きのパフォーマンスを見せてくれる。


それが、レイラの分身や融合といった、仮想世界ならではの演出だ。


ステージ上のレイラが何人にも増えたり、巨大な姿になったりと、現実のライブではなかなか実現できないような光景が繰り広げられる。


CGだからこそ可能な自由な演出と、リアルな劇場空間を組み合わせることで、まさに<U>で行われているライブを目の当たりにしているような感覚になる。



インタビューでは、緒方さんや篠田さんが、通常の映像作品とは異なる、劇場空間ならではのCG表現や映像演出について語っていた。その工夫が存分に生かされているシーンのひとつだろう。


そして、この映像技術を駆使した華やかなライブ演出が、やがて物語の大きな転換点にもつながっていく。


<U>の観客たちが実写の人間に! 映画の「アンベイル」を劇場で体感


※ここからは物語中盤の演出に関するネタバレを含みます。


順調に進んでいた音楽フェス「Utopia」だが、パックの暴走によって思いもよらない事態が発生する。その中で、レイラの本来の姿が明らかになる「アンベイル」が起きてしまうのだ。


アンベイルとは、<U>の世界でアバターをまとっている人物の素顔が明らかになること。アニメーション映画『竜とそばかすの姫』でも、物語の重要な要素として描かれていた。



今回の公演でも大きな見せ場となっているのだが、特に驚かされたのが、その演出方法だった。それまで会場の左右のディスプレイには、<U>の住人たちである<As>が映し出されていた。ところが、パックの暴走によってアンベイルが起きると、なんと周囲のディスプレイに映し出されていた<As>たちまでもが、実写の人間の映像へと切り替わるのだ!


それまでCGで表現されていた<U>の観客たちが、一斉に人間の姿を現す。


この演出には、本当に驚かされた。


最初は、客席を囲むディスプレイが<U>の世界の広がりを表現するために使われていると感じていた。しかし、そこに映っている<As>たちが一斉にアンベイルされることで、それまでとはまったく違った印象を受けることになる。


仮想世界の住人たちも、その向こう側には現実の人間がいる。映画で描かれていた<U>の設定が、劇場の映像演出によって一気に現実味を帯びる瞬間だ。


しかも、観客自身も<U>に参加する<As>の一人という設定になっているため、単にスクリーン上で起きている出来事とは感じられない。


周囲の住人たちが次々に素顔を現していく中、自分もまた、その世界に居合わせているのだ。


前回のインタビューで山崎さんは、アバターから生身の人間へと変化する瞬間について、あえて映像と人間の違いを際立たせる演出を意識したと話していた。


その意図を、今回の公演では非常に印象的な形で体験することができた。


バーチャルとリアルが融合するという本公演のテーマを、映像の変化によってわかりやすく、そしてダイナミックに伝えてくれる演出だった。



なお、このアンベイルによって明らかになるレイラの姿や、その後の展開も、今回の物語の大きな見どころとなっている。


果たしてレイラは、この状況をどのように乗り越えていくのか。そして、ヒロちゃんやパックは、どのような選択をするのか。


ここから先は、ぜひ会場で確かめてほしい。


インタビューで聞いていたことが、すべて一つにつながる体験


今回の公演を見て、あらためて感じたのは、さまざまな技術や演出が、きちんと物語を楽しむために生かされているということだ。


巨大LEDディスプレイによる映像表現、スマートフォンも併用した音響演出、リアルとバーチャルを行き来するパフォーマンス。そして、それらをつなぐ『竜とそばかすの姫』の世界観。



ひとつひとつの仕掛けも十分に興味深いのだが、それらが組み合わさることで、単なる映像作品やライブでは味わえない体験が生まれている。


特にスマートフォンから聞こえてくる<U>の観客たちの声は、今回の公演を象徴する演出だった。


正面のステージで繰り広げられるライブを楽しみながら、周囲の観客たちと一緒に歓声を上げる。物語が大きく動いた時には、その驚きや戸惑いさえも共有する。


気がつけば、<U>の中で同じ出来事を目撃している一人になっているのだ。


前回のインタビューで広屋さんは、観客も含めてひとつのステージを作り上げたいと語っていた。また山崎さんは、観客の歓声が作品を完成させる最後のSEになるという話もしていた。実際に体験してみると、そうした言葉の意味がよくわかる。



客席の人たちが声を出したり、手を上げたりしてライブを盛り上げる。そうした反応も含めて、この公演は完成するのだろう。


そして、作品を通して描かれるのは、映画でも重要なテーマとなっていた「歌」の力だ。


仮想世界でどのような姿になっていたとしても、歌に込めた思いは人々に届く。


『竜とそばかすの姫』が描いてきたテーマを受け継ぎながら、今度はそれを劇場というリアルな空間で体験できることが、本公演の大きな魅力だと感じた。


アニメーション映画の世界を、ただ舞台上に再現するだけではない。映画の中ではスクリーン越しに見ていた<U>の世界へ、自分自身が入り込んでいく。


事前のインタビューでクリエイターの皆さんが語っていたことを、実際の公演を通して体験できたのは、非常に興味深かった。


『竜とそばかすの姫』のファンはもちろん、バーチャルライブや新しい映像表現に興味がある人にも、ぜひ体験してみてほしい公演だ。


スマートフォンを手に<U>の世界へ入り、そこでどんな物語を目撃することになるのか。


その続きは、ぜひ会場で確かめてほしい。


■公演情報

アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫 – PROJECT LAYRA – 」

【INTRODUCTION】

細田守監督のアニメーション映画『竜とそばかすの姫』を原作とした、没入型音楽ライブショー。

舞台は映画から5年後の仮想世界<U>。かつて歌姫ベルをプロデュースしたヒロちゃんが、新たな歌姫LAYRA(レイラ)を見いだし、<U>史上最大の音楽フェス「Utopia」を開催する。

最先端の映像・音響・空間演出を駆使し、映画の世界を現実のMoN Takanawaのシアター空間に再現。観客自身も物語の一員となる、アニメーションとライブが融合した新たなエンターテインメント。


【STAFF】

原作:アニメーション映画『竜とそばかすの姫』(監督:細田守)

クリエイティブディレクター:広屋佑規(NO MORE Inc.)

脚本:小御門優一郎

映像監督:篠田利隆(異次元TOKYO)

CG監督:緒方達郎(Composition Inc.)

舞台演出:山崎彬

音楽監督:TeddyLoid

キャラクターデザイン:Mika Pikazo/しまぐち ニケ


【CAST】

LAYRA(レイラ)/コトミ役:miwa/昆 夏美/鈴木このみ/みきまりあ/ASCA

ヒロちゃん<As>役:幾田りら

パック役:黒沢ともよ

ゲストアーティスト:AZKi

レポーター:ぽんぽこ&ピーナッツくん


【公演情報】

公演期間:2026年10月10日(土)~11月15日(日)

会場:MoN Takanawa: The Museum of Narratives「Box1000」(東京都港区三田3丁目16-1)

上演時間:約90分(開場中演出約30分+本編約60分)

チケット料金:5,500円~11,000円(税込)/オリジナルグッズ付チケット:8,800円~14,300円(税込)

※未就学児入場不可。公演日程、出演者、チケットの詳細は公式サイトをご確認ください。

公式サイト:https://animmersive.jp/ryusoba/




©2021 スタジオ地図

©アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫」製作委員会


■執筆者

(執筆者:斎藤ゆうすけ/90年代のアニメとゲームを愛するライター。放送作家&シナリオライターとしても活動。ゲームやアニメ、小説や漫画原作などシナリオの企画・制作も多数担当。専門学校でメディア論やシナリオ講座の講義も。https://x.com/saito_you)


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 スマホから<U>の観客たちの声が! AZKiやぽんぽこ&ピーナツくんも登場するアニマーシブライブ「竜とそばかすの姫 –PROJECT LAYRA –」体験レポート 」