『月』(23)で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した磯村勇斗と、本作が個人での映画初主演となる「Aぇ! group」の末澤誠也がW主演を務め、物語の鍵を握る”メンター”役を綾野剛が演じる映画『mentor』(読:メンター)が公開中です。


脚本・監督を務めるのは、唯一無二の感性でオリジナル作品を生み出し続け、『ミッシング』(24)、『空白』(21) など観る者の心に鋭く切り込む、吉田恵輔監督。不穏さと可笑しさ、違和感と共感――そのすべてが入り混じる本作はある意味“ホラー”。吉田監督ご本人に作品作りのこだわりや、恐怖表現についてお話を伺いました。


※吉田恵輔監督の「吉」は、実際には「土」に「口」です。

※インタビューの最後には物語の結末に関わるお話もしています。まだ映画をご覧になっていない方はお気をつけください。



──本作楽しく拝見させていただきました。緊張の連続だったのですが、この怖さと可笑しさのバランスというのは、監督はどこまで計算されているのでしょうか?


俺はホラー作品でいうところの「ヒトコワ」専門だと思うのだけれど、自分としても気味の悪さやアンバランスさという所に“怖さ”を感じるというか、興味があってそういう話を書くことが多いですね。本当に頭のおかしい人ではなくて、「一皮剥けば俺らもそうかもよ」という人を描いているというか、どこにでもいる人の延長上にある気持ち悪さみたいなものを、いつも考えているなと思います。


──本作は特に、龍之介・拓海・埜本どの立場にもなりうるというか。


そうそう、生まれつきとかじゃない、環境が大きいというかね。「あなたもこの環境でいたら、こうならないとは言い切れなくないですか?」という。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスまでにはならなかったとしても、誰かに復讐したい気持ちとか、残虐性が生まれる瞬間って誰にでもあるよなと。


──監督は3人の中で特に共感、というか「分かるな」と感じたキャラクターはいますか?


龍之介の、こういう辛い事件が起こった時の捉え方とか、考え方が俺っぽいかなと思います。反省とか罪の意識が無いわけではないけれど、少し冷めているというか。「無かったことにしよう」と蓋をするのって、弱さでもあると思うので。俺にもその弱さがあるなと思います。拓海みたいに引きこもれるってある種強いなと思うんだよね。その問題に正面から向き合っているということなので。埜本も自分の傷から逃げているので。誰かの“メンター”になることにすがって、辛い過去から逃げようとしている。その要素も俺の中にあると思います。



──拓海の“若い”のでは無くて“幼い”描写も非常にリアリティがありました。末澤さんのお芝居も凄かったです。


自然に描けたので俺の中にもこの幼さがあるんだと思います。いつまで経っても大人になれない自分と、仕事場では大人ぶった感じを出来る俺もいるし、みたいな。すえ(末澤さん)と綾野さんの体格差もあって、大人になりきれていない部分がよく出たなと思う。Aぇ! groupのライブは2回ほど行かせてもらったのだけど、すえのファンはあんまりこういう系の映画を観ない子も多いと思うから、どういう感想を持ってくれるか楽しみではありますね。


──埜本が拓海にたくさんの“言葉”をくれますが、監督は本作制作にあたり自己啓発本を読んだり研究したのですか?


自己啓発本とかいろんな本を紹介するYouTubeチャンネルってありますよね。20分ぐらいの動画を聴きながら、美少女パズルゲームやるという日課を1年間くらい続けていたので、自然と色んな言葉は耳に入ってきましたね。ただ単に「いろんな考えの人いるな〜」と思って、聴くのが好きだったんだけど、色々聴いているうちに「なんか胡散くせえな、こいつ」って思う人も多くて。「いい感じのことを言って気持ち良くなっている連中な気がする」と気付いた時があって。本自体は良いものがたくさんあると思うんだけど、その著者がそれを実践しているのかって本当は分からないじゃない?「人の怒りは何秒待てばおさまる」とか言っている人が、実際は秒でキレてくるかもしれないし。そういううさんくさ“メンター”を描くのも面白そうだなと思ったことも、(本作制作の)一つのきっかけになっていると思います。


──拓海はその言葉にのめり込んで、途中からは埜本の後をストーカーの様に追いかけていきますね。埜本に「自分の見たいもの」を投影している様な印象でした。


信じる力とのは人それぞれだけれど、拓海は何かにしがみつきたい状態だったから、異様に感化されてしまって。

ありがたいことなのだけど、俺のことを好いてくれる人たちに対しても、不思議に思うこともあります。今回も綾野(剛)さんとか、以前ご一緒した石原さとみさんも、俺のことを「すごい監督」だと思い込みすぎていて。イメージが一人歩きしている時はあった(笑)。「監督は全てを計算している」みたいに言ってくれるけど、いや、俺結構いい加減にやることも多いよって。ノリと瞬間の思いつきでやることも多いから。


──観客もそういう部分がありそうですよね。「吉田監督だからこうに違いない!」みたいな。


あるある。映画を観てくれて、レビューを書いてくれるなんて本当にありがたいのだけど、面白い解釈しているなあとか。俺は風景が好きなので、最後に「切ない音楽がかかって、風景を映す」というカットをよく作るのだけど、あるシーンでキリスト教の看板と防火水槽が同時に映った時に「キリストの“き”と防火水槽の“ぼう”で、“きぼう”を暗喩しているんだ」と言われたことがあって、無い無い無い、俺がそんな謎解きゲームみたいなことするわけないじゃん!と思って(笑)。

『空白』でも、「カニ漁師が出てくるけれど、カニは横にしか進めない=前に進めない人を表現している」とか言われて、いや、全然違って、その日はカニ漁師さんしかいなかったからだよ。とかね。勝手に言われているけれど、偶然です。みたいなことが多くて。


──監督の作品は深読みしたくなる魅力があるからだと思うのですが、面白いですね(笑)。


しっかり観てくれていることは嬉しいんですけどね。俺が「そんなこと意識して演出していないですよ」と信じてくれないというか、「いや、自分は意識してなくて、無意識で選んでるんですよ」とか言い出してきたら、ちょっとホラー的かなとは思います。


──本作は「嫌なことが起こりそう」な瞬間が何度もありましたが、「ここで止める」という秒数的な計算もしていないのですか?


結構感覚ですね。俺は普通に撮っているつもりなんだけど、結果的にみんなが「何か起こりそう」と感じてくれる。この映画の中でフィールドアーチェリーをやるシーンがあるんだけど、あれも昔やって面白かったから、いつか映画でそのシーンを撮りたいなと思っていて。でも、確かにこの状況で3人が武器になりうる弓を持って歩いているって嫌な感じするよね。撮っている時は何も思わなくても、編集していると「意外と禍々しいな」と思って。

よくハンディを使って映像を撮るので、その映像の揺れがドキュメンタリータッチであり、不穏な感じに見えるのかもしれない。


──ちなみに、監督が最近良いなと思ったホラー作品の描写はありますか?


『オブセッション 災愛』がめっちゃ面白かった!『世にも奇妙な物語』とか『笑ゥせぇるすまん』の様なベタな展開ではあると思うのだけれど、これだけ表現のバリエーションがあるんだ、ネタ豊富だな!と感動して。とにかくセンスを感じました。


ここから物語の結末に関わるインタビューとなります。まだ映画をご覧になっていない方はお気をつけください



──様々な出来事を経て、拓海が教祖的なメンターになるというオチは本当に驚きました。


脚本を書いていて、後半に行くにつれて、自分自身もある種の観客の様に「最後はどうなっていくんだろう」と思っている部分もあって。「お前、こうなったのか」って。物語書く時ってロジカルに書いていくパターンもあれば、ライブのように自分がそこに参加しながら、書きながら見ているような感覚のこともあって。いわゆる“降りてくる”みたいなね。拓海がこんなんになっちゃった、と自分でもクスクスしながら書いていました。


──ゾッともしますし、笑える部分もあるし、すごいですよね。そして埜本はやっと楽になれたのかなと私は安心しました。


拓海みたいになっちゃう人っているんだろうね。埜本は「自分が気持ち良くなっていた」と認めた後は楽になったんだろうなと思います。今まで蓋してきた辛さが返ってくることは間違いないですけど。でも、人間っていうのはそういうね、良いことと悪いこと両方背負っていないと、人間味が無いというか、信頼も出来ないしね。「他者を思いやる」ということは、痛みを知っていないと、それを受け入れてないと、難しいなと思います。


──素敵な映画とお話をどうもありがとうございました。



映画『mentor』大ヒット上映中!

(C)mentor1016


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 “ある意味ホラー”な人間描写が話題 映画『mentor』吉田恵輔監督インタビュー「一皮剥けば俺らもそうかもよ」 」