TikTokやInstagramリール、YouTubeショートの普及で、ショート動画やショートドラマの需要が急速に広がっています。企業の映像活用も進み、映像は「広告」にとどまらず、理念や世界観を伝える「ブランド資産」としての役割も担い始めました。


一方で、映像があふれる今、「数ある中で本当に人の心を動かし、選ばれるブランドムービーとは何か」という問いは、企業にとって大きなテーマになっています。


そこで今回お話を伺ったのは、株式会社ビジュアルボイス代表の別所哲也さん。別所さんは、企業やブランドの理念・魅力を映像で伝える「ブランデッドムービー」の可能性を発信し、優れた作品を審査・表彰する「BRANDED SHORTS」を10年にわたり主宰。11年目を迎えた今年は、その取り組みをさらに発展させ、映像を活用したブランディングやマーケティングの課題解決、新たなビジネスの創出を目指す「Visual EXPO by BRANDED SHORTS」を初開催しました。


9月28日・29日に開催された同イベントでは、作品の上映・表彰に加え、最新の映像技術や活用事例に触れられる展示、セミナー、ビジネスマッチングなどを展開。イベントの開催に込めた背景と狙いについて、じっくりお話を伺いました!


「映像の民主化」が極まった時代、ショート動画の「質の淘汰」が始まっている



――ショート動画・ショートドラマの市場が急拡大しています。映画祭として映像を審査・発信し、また、ビジュアルボイスで映像のプロデュースもされる別所さんは、この流れをどう見ていますか?


別所さん:「映像の民主化」が極まって、誰もがポケットの中に“ハリウッド級のスタジオ”を持つ時代になったなと感じています。スマホと縦型動画のプラットフォームが広がって、映像を観る・作る・届けるのハードルが一気に下がりましたよね。これは単なる流行ではなく、人類のコミュニケーションのスタイルそのものが変わったということだと思っています。


――多くの映像作品を目にされる中で、特に注目している点はありますか?


別所さん:最初の3秒で、いかにスクロールする指を止められるか。そして短い尺の中で、どれだけ感情を揺さぶれるか。アルゴリズムと演出の格闘と言ってもいいんですが、これは見ていて本当にスリリングです。


――「バズる動画」と「心に残る動画」は、やはり別物でしょうか?


別所さん:そうですね。ガジェット通信の読者のみなさんならよくご存じだと思いますが、タイムラインを流れて消えていくバズ動画と、観た人の心に“ログ”として残り続けるストーリーは別物です。今はその質の淘汰が始まっている、面白いフェーズだと思います。


非エンタメ企業が次々と動き出す、ブランデッドムービーの背景



――最近は、エンタメ以外の企業も自分たちでブランデッドムービーを手がけています。この動きの背景には何があるのでしょうか?


別所さん:スペックや価格で戦う競争が限界に近づいて、モノがコモディティ化(製品やサービスの性能・品質・価格に大きな差がなくなり、どれを買っても同じように見えてしまう状態)してきたことが大きいですね。そんな中で、企業のほうに「自分たちのストーリーを発信しよう」という意識が芽生えてきたのだと思います。


――消費者側の変化もありそうですね。


別所さん:今の消費者は、スペック表や押し付けがましい広告をすぐに見抜きますし、スキップもします。だからこそ「なぜ自分たちはこのプロダクトを作っているのか」という文脈を伝えるストーリーが必要になったんです。


――発信する手段が増えたことも影響していますか?


別所さん:大きいと思います。YouTubeやSNS、自社のオウンドメディアがあれば、どの企業も自前で“テレビ局”や“映画の配給会社”を持てるわけです。製品を売るというより、映像を通してブランドのファンやコミュニティを作る時代に入ったと感じます。


――企業にとって、映像が「広告」から「ブランド資産」へと変わることで、どのような変化が生まれるのでしょうか?


別所さん:一言で言えば、「一過性の消費」から「蓄積される資産」への転換ですね。従来の広告はキャンペーン期間中の一時的な施策ですが、ブランド資産としての映像は、5年後、10年後に観ても企業の理念が伝わり、新しいファンや社員の心を動かし続けるものです。単に「買ってください」と伝えるのではなく、ブランドの世界観そのものを構築し、歴史を創っていくクリエイティブへと変わるんです。


映画祭の枠を超えて。Visual EXPOが目指す映像とテクノロジーの未来



――2016年から続く「BRANDED SHORTS」を、今年「Visual EXPO by BRANDED SHORTS」として初開催されました。その理由を教えてください。


別所さん:2016年の立ち上げ当時は、企業が作るショートフィルムを評価することが中心でした。でもこの10年で、映像を取り巻くテクノロジーが激変したんです。11年目の今年は、映画祭という枠を超えて、クリエイター、企業、最新テクノロジーが交差するオープンイノベーションの場を作りたいと思い、「Visual EXPO by BRANDED SHORTS」に拡張しました。


――具体的には、どんなテクノロジーを扱うのでしょうか?


別所さん:生成AIを使った映像制作、XRや空間ビデオ(Spatial Video)、Web3を活用したファンエンゲージメントなどですね。視覚表現の未来を、実験して、展示して、議論する場にしたいと考えています。


――イメージとしては、どんな場所ですか?


別所さん:映像領域の最先端ハッカソン、というイメージでしょうか。技術とクリエイティブがぶつかり合って、新しいものが生まれる場所にしたいです。


「バグやノイズ」にこそ人は動かされる。心に残る映像の条件


――映像が量産される時代に、「本当に人の心を動かす映像」とはどんなものだと考えていますか?


別所さん:Visual EXPOで映像とテクノロジーの未来を追求する一方で、本当に人の心を動かす映像には、効率やデータでは割り切れない、バグやノイズのような人間の生々しさがあるんです。


――その「生々しさ」とは、たとえばどんな要素でしょう?


別所さん:3つあると思っています。1つ目は、データでは弾かれてしまうような、人間の矛盾や泥臭い感情が描かれていること。2つ目は、観終わったあとにスマホを置いて、ちょっと考え込んでしまうような「問い」があること。3つ目は、言葉で説明するのではなく、光や音、間といった映画的なディテールで語りかけてくることです。


――完璧に作り込まれた映像のほうが、良いわけではないんですね。


別所さん:完璧に計算された映像より、どこか人間臭い“歪み”がある映像のほうが、結果的に人々の記憶に長くインストールされるのだと思います。


――生成AIによる映像制作が身近になる中で、人間にしか生み出せない表現とは何だと考えていますか?


別所さん:AIは最高の共同監督であり、超優秀なVFX(視覚効果)チームのような存在です。ただ、AIが最適解を導き出す一方で、合理的ではないこだわりや、撮影現場で起こる予期せぬ出来事をドラマに変える感性は、人間ならではのものです。


「観る」から「入る」へ。映像の次の10年と、ガジェット好きへのメッセージ



――SSFF &ASIAを立ち上げて今年で28年。映像の潮流を見てこられた別所さんが考える、「次の10年」を教えてください。


別所さん:この四半世紀あまりで、フィルムからデジタルへ、映画館からスマホへと、メディアが移り変わるのを見てきました。これからの10年は、「四角いスクリーンからの解放」と「体験の共創」が加速すると思います。


――「四角いスクリーンからの解放」とは?


別所さん:デバイスや空間コンピューティングが発達して、映像は「画面の中で観るもの」から「その空間に入り込む体験」になるのではないでしょうか。「観る」から「入る」への変化ですね。


――「体験の共創」についても伺えますか?


別所さん:視聴者が共作者になる、ということです。観客がストーリーに関わったり、生成AIを使って自分だけの分岐ストーリーを楽しんだりする、インタラクティブで共創型のシネマが当たり前になっていくと思います。


――最後に、ガジェット通信の読者へメッセージをお願いします。


別所さん:どんなにデバイスやインターフェースが変わっても、ストーリーに感動して、誰かと語り合いたくなるという人間の本質は変わらないと思います。Visual EXPOは、まさにテクノロジーと人間のドラマが交差する最前線です。ガジェット好きや映像好きのみなさんと一緒に、この新しい映像の未来を面白がっていきたいですね!


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 【インタビュー】映像は「広告」から「資産」へ! 別所哲也が語る、AI時代に選ばれるブランデッドムービーと「Visual EXPO」の狙い 」