2026年7月11日、文京学院大学にて開催されたトークイベント「音楽フェス×経営学:人・空間・時間を編成するビジネスプロデュース」では、大型音楽フェスのプロデューサーと会計学者が登壇し、音楽フェスを一つの文化へと育てるプロデュースの本質が語られた。


<登壇者(左から)>

・石田美佐緒氏(株式会社スペースシャワーネットワーク コーポレートエグゼクティブ、株式会社SKIYAKI取締役)

・髙橋円香准教授(文京学院大学 経営学部)

・吉田尚記氏(アナウンサー)※司会


石田氏が立ち上げに携わった「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER」(ラブシャ、https://2026.sweetloveshower.com/)は、現在、山梨県・山中湖畔で開催されている大型野外音楽フェスである。

ラブシャは最初から現在のような規模ではなかった。東京都心の日比谷野外大音楽堂で行われていたイベントを山中湖畔へ移す構想には、「なぜ不便な山中湖で開催するのか」「本当に観客が来るのか」という反対の声もあった。放送局が自ら大型フェスを主催することに対して、イベント業界からの反発もあったという。

それでも石田氏は山中湖での開催に踏み切り、長い時間をかけて成長させた結果、ラブシャは音楽を見せるだけのイベントではなく、アーティスト、観客、地域、企業、メディアをつなぐ文化へと成長した。


核心テーマ:「プロデューサーは何をつくっているのか」

◆石田美佐緒氏――「新しい音楽と出会うストーリーをつくりたい」

ラブシャの出演者は、その時点で人気のあるアーティストだけで構成されているわけではない。

石田氏は、デビュー当時からスペースシャワーの番組やイベントに出演してきたアーティストが、成長してラブシャのヘッドライナーを飾るという「ストーリー」を大切にしていると語った。

一方で、これから人気が出ると考えられる新人アーティストも起用している。観客にとってラブシャは、好きなアーティストを見るだけでなく、それまで知らなかった音楽やアーティストと出会う場所でもあると考えるからである。

つまり、出演者の選定は人気ランキングの反映ではない。アーティストの過去、現在、未来を一つの時間の中に配置し、観客に新たな出会いを提供する編集行為なのである。


◆人、空間、時間を編成する

音楽フェスのプロデューサーというと、出演アーティストを決める仕事を想像しやすい。しかし、実際の仕事はそれだけではない。

石田氏は、ラブシャを、すべてのステージから富士山を望めるように会場を設計した。会場の端から端までの移動時間も短く、観客は工夫すれば多くの出演者を見ることができる。音楽だけでなく、カヌーや気球など、山中湖の自然を体験できる企画も用意している。

司会の吉田アナウンサーは、出演者という「人」、富士山と山中湖を含む「空間」、出演順や移動時間を含む「時間」、これらを一つの体験として統合することが、音楽フェスのプロデュースと説明した。ラブシャでは、観客がどのように会場を移動し、どこで休み、どの景色とともに音楽を記憶するかまで含めて設計されているのである。


◆地域もフェスの舞台にする

ラブシャは、会場内だけで完結せず、地域に根ざしたフェスとなっている。

ラブシャは山中湖村との共同開催となっており、山中湖村はチケットをふるさと納税の返礼品にしているほか、来場者が山中湖村地域の温泉、美術館、公園などを割引料金で利用できる仕組みも設けている。

アーティストの楽屋に掛ける「のれん」は富士吉田の織物事業者と制作しており、クラフトビールや富士山の水など、地域の資源もフェスに取り入れている。

プロデューサーが編成する「空間」は、ステージと客席だけではない。ラブシャでは、地域全体をフェスの体験へとつなぎ、開催によって生まれる価値を地元へ循環させることも、プロデュースの一部なのである。



◆会計上では“費用”に見える文化をつくるための支出は、数値化しにくい経営上の価値のつながる


音楽フェスを文化として育てる取り組みは、会計上どのように捉えられるのか。

財務会計と経営分析を専門とする髙橋円香准教授は、コンテンツ産業の拡大を背景に、コンテンツから生み出される価値を会計学でどのように捉えるかが注目されていると説明した。コンテンツ産業がこれだけ日本の中でも重大な産業になってきているとなると、コンテンツで生み出されるものの価値をどう捉えていこうという論点もある。
音楽フェスを開催するために支出した金額は、基本的には会計上費用として計上される。一方、音楽フェスによって築かれた非金銭的な価値は、そのまま企業の資産として財務諸表に記載されない。しかし、その支出によって、翌年も参加するファンが生まれ、アーティストや地域との信頼関係が形成される。こうした価値は将来のフェス開催や企業活動を支えるにもかかわらず、通常の会計業務からは見えにくい。

髙橋准教授は、音楽フェスでは財務諸表に表れにくい価値が実際に生まれていることを指摘した上で、地域との連携、スポンサーとのネットワークも中長期的な企業価値の向上に寄与していると述べた。

ラブシャが生み出した文化的価値は、売上や利益だけでは測れない。しかし、数値化しにくいからといって、経営上の価値がないわけではない。むしろ、長く続く音楽フェスでは、毎年の開催を通じて積み上げられた無形の価値が、次の開催を可能にしているのである。


◆文化をつくる仕事には、敬意が必要である

イベントの仕事に必要な人材について、石田氏は、特定の技術よりも、好きなものを持ち、新しいことへ挑戦しようとする気持ちを挙げた。

同時に重要なのが、アーティスト、音楽、スタッフに対する敬意である。大型フェスには、企画、制作、音響、運搬、広報、協賛営業をはじめ、さまざまな仕事がある。吉田アナウンサーは、長年ライブやイベントに関わってきた経験を踏まえ、現在持っているスキルが違っていても、相手への敬意と実現したいという意思があれば、その人の力が生きる場所を見つけられる、と述べた。
音楽フェスは、プロデューサーだけでなく、異なる能力を持つ人々が、共通の目的に向かって協働することで初めて成立する。


結論:音楽フェスは、関係を積み重ねることで文化になる


石田氏は、プロデューサーの仕事について、音楽、アーティスト、観客、地域、スタッフのそれぞれが幸せになることを考え、全体をデザインし、文化をつくることだと語った。また、AIによって多くの作業が効率化される時代になっても、同じ場所に人が集まり、音楽を聴き、人と人の心が動く体験は簡単には代替できない。

プロデューサーがつくっているのは、3日間のステージだけではない。新しい音楽との出会いを生み、アーティストの成長を支え、観客の記憶に残る場所をつくり、地域との関係を次の年へ引き継いでいる。

音楽フェスは、一度の成功によって文化になるのではない。人、空間、時間を編成し続け、財務諸表には表れにくい価値を作り出し続ける。その継続と、関係する様々な人々や事柄との関係の積み重ねによって、音楽フェスは多くの人に共有され、受け継がれる文化へと育っていくのである。


(文:文京学院大学 経営学部教授 濵田俊也)


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 音楽フェスは、どのように文化になるのか―「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER」(ラブシャ)に見るプロデュースの本質