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「子供の頃からホラーが大好きでした。僕の住んでいた信心深い地域ではホラーやモンスターといった類のものは“見てはいけないもの”という扱われ方をしていて、家では禁止されている状態だったんです。でも、子供って取り上げられたり隠されたりすると余計に興味を持ってしまうものですよね。特に僕のような反抗心のある子供なら、なおのこと」
ホラー映画ファンから熱狂的に支持され、日本でもいよいよ10月4日に公開されるファウンド・フッテージ・ホラー『悪魔と夜ふかし』に主演したデヴィッド・ダストマルチャンがオンラインインタビューに応じ、自身の幼少期を振り返りながらそう語ってくれた。
『ダークナイト』でデビューし、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』で一際ユニークな“ポルカドットマン”を演じたほか、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作など多数の作品に出演するデヴィッド。『ドラキュラ/デメテル号最期の公開』『ブギーマン』といったホラー作品にも出演しているが、とりわけ“ホラージャンルの俳優”といった印象ではないかもしれない。
しかし、ロウソクを灯した黒い壁紙のゴシックな部屋で、黒髪をなでつけ、黒いネイルと黒いサテンのシャツでドレスアップして取材用カメラの前に座っている彼は、どう見てもホラーの貴公子だった。幼少期に盗み観ていたホラー番組の司会者が初恋の相手だという彼には、しっかりとホラーの血が流れている。
「子供の頃にこっそり観ていたのが、クレマティア・モーテム(Crematia Mortem)が司会の「Friday Nightmare」というテレビ番組でした。彼女はとても美しかった。肌が緑色で、ヴァンパイアのような髪をして、棺から登場するんです。その番組では昔のホラー映画をたくさん紹介していました。クリストファー・リーの『吸血鬼ドラキュラ』や、ボリス・カーロフが怪物を演じる『フランケンシュタイン』、ベラ・ルゴシの『黒猫』――そういった素晴らしい古い映画を知りました。ハロウィンのホラー映画やエドガー・アラン・ポー、フリードキンの『エクソシスト』も大好きになりました。以降は現代の海外映画にも惹かれていきました。三池崇史の『オーディション』は今までに作られたホラー映画の中でも格別なお気に入りのひとつです」
白斑症をからかわれていじめられ、鬱病も患ったというデヴィッド少年にとって、ホラー作品は単純に恐怖やスリルを楽しむだけのものではなかったようだ。
「禁止されていることに対する反抗心もあったけれど、それ以外の部分で、僕自身にもともとモンスターやダークなものに惹かれる性質があったと思います。自分が人と違うんじゃないか、もしかしたら自分には間違っている部分やモンスター的な部分があるんじゃないか、と思っているところがありました。なので、ある種の親近感や共感みたいなものを覚えていたんです」
彼が今回の作品で演じるのは、深夜のトーク番組の司会者ジャック・デルロイ。70年代を舞台にする本作は、ジャックが司会を務める「ナイト・オウルズ」で起こった放送事故のフッテージという体裁だ。映画冒頭のドキュメンタリーパートでは、「ナイト・オウルズ」が一時人気を博すが、ライバル番組を超えることはできずに人気が低迷していったこと、そしてジャックに不審な動きがあったことなどが語られる。ハロウィン当日にあたる視聴率調査週間の放送日に、ジャックはオカルトショーの生放送を企画。悪魔憑きの少女と研究者をゲストに招き、テレビ史上初の“悪魔の生出演”で視聴率を稼ぐことを目論む……。
恐ろしいものが見たいホラー好きにとっては、最悪の事態を想像してワクワクしてしまうようなあらすじである。しかしデヴィッドは、キリスト教の信仰に厚い家で育ち、幼い頃には“悪魔”に対する恐怖を本当に感じていたことを公言している。本作への出演にはどんな想いがあるのだろうか。
「“ルシファー”、“蠅の王”、“オールド・スクラッチ”――色んな呼び方があるけれど、私は悪魔に対する大きな恐怖の中で生きてきた少年でした。悪魔の存在や自分の魂が永久に断罪されるといったことが本当に怖かったんです。そして長い年月をかけて自分の信念を変え始めました。歴史的に見ても“悪魔”とされるものがそもそも人間の一部である、ということを理解していきました。たとえば人間の自己中心的な部分を“悪魔的なもの”と捉えることもできます。それがゆくゆく破滅につながっていく人もいるわけですしね。悪魔というものを賛美する人もいれば怖がる人もいるけれど、とにかく“人による”わけなんです。“神”や“愛”といった言葉がそうであるように、“悪魔”という言葉は人それぞれに異なる意味を持っているんです。自分がどんな経験をしたかによるのかもしれません」
「私にとってすごく面白いのは、この作品が、悪魔について私が考えていることの完璧な比喩になっていることです。ジャック・デルロイという人物は色んなトラウマや罪悪感、恥といったものを抱えていて、心が引き裂かれそうになっている上にアルコールに依存している。人生の問題を解決しようとはしていないんです。どんどん負のスパイラルに陥っていて、心から自分を嫌悪している。この世界で、宇宙で、自分はひとりぼっちなんだと思ってしまっているんです。その闇の部分が、悪魔を呼び出すことで顕在化してしまったというふうに理解しています。
そう考えると、ジャックの恐れる気持ちというのには僕も共感できるんです。それは、僕が小さい頃から悪魔という概念と格闘してきたからこそなんだと思います。怖いと同時にとても深遠なものでもあります。そして本当に魅力的なのです」
鬱や依存症を乗り越え、現在の立ち位置へたどり着いた苦労人でもあるデヴィッド。ホラーを楽しむ側から“作る側”に回ったことに対する想いを聞いてみると、「今こういう人生を送っているというのは信じられないこと」と謙虚に語ってくれた。
「人々をぞっとさせたり、怖がらせたり、楽しませ、笑わせ、泣かせたりできる物語を作ることに関われるなんて、本当に恵まれているし幸運だと思っています。とくに今はジャンル映画の分野で遊び心を持って制作に携われるというのがとても嬉しいです。今回の映画もそうだし、『カウント・クロウリー(Count Crowley)』というコミックスも手掛けさせてもらっているし――これも今回の映画と一緒で、トークショーの司会者の話なんだけれど。一方で『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ザ・スーサイド・スクワッド』、『アントマン』のような映画にも出させてもらって。カンザスの少年だった自分がこんなことをしているなんて、本当に信じられないことなんです。カンザスは、日本では知らない人もいるかな……アメリカの真ん中にある農村州で、「オズの魔法使い」のドロシーがいるところです。
人生というのは美しく素晴らしい冒険ですが、僕にとってはまだとても厳しいものでもあるんです。今まで頑張ってやってこれたけど、毎日が困難と挑戦に満ちていると感じています。これらの疑問や混乱を抱えていることは、自分にとっては贈り物でもあるんです。ホラーやジャンルの物語を通して、ユニークな形でそれを探求することができ、それが自分にとってとても助けになっているんです。それらは明確な人生の答えをもたらすものではないんだけれど、そういう物語に触れることによってエンパワメントされているし、自分の居場所にもなっているんですよね」
『悪魔と夜ふかし』
10月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開