- 週間ランキング
2023年に放送されたドラマ「ブラッシュアップライフ」で国内外問わず名だたる賞を受賞した今大注目のクリエイター水野格が、完全オリジナル脚本で挑んだ先読み不可能ミステリー・エンターテインメント映画『あの人が消えた』が、9月20日(金)より全国公開となります。
舞台は、「次々と人が消える」と噂されるいわくつきのマンション。配達員の青年・丸子(高橋文哉)は毎日のようにマンションに出入りするなかで、怪しげな住人の“秘密”を偶然知ってしまう。その日を境に、彼は思いも寄らない大事件へと巻き込まれていく――。冒頭から伏線が張り巡らされ、1シーンたりとも無駄がない驚異の面白さと、こちらの予想を鮮やかに裏切られる快感。観賞後、絶対に誰かに話したくなる唯一無二のミステリー・エンタメが誕生します。
本作の主人公・丸子が大ファンのWEB小説作家で、物語のキーマンとなる小宮を北香那さんが演じています。そんな小宮が劇中で小説を投稿しているのが実際に存在する小説投稿サイト「小説家になろう」。現在、アニメ化も果たした大人気作「転生したらスライムだった件」も本サイトから誕生しました。この度、そんな北香那さんと「転スラ」の原作者・伏瀬氏、作品の垣根を超えたお二人の対談インタビューが到着! 作品の魅力や制作の裏側について語ります。
――今日はどうぞよろしくお願いいたします。北さんは「転生したらスライムだった件」の大ファンと伺いました。
北:伏瀬先生といまお話しできていることに現実感がありません。緊張しちゃって、ふわふわしています(笑)。
伏瀬:ありがとうございます(笑)。『あの人が消えた』面白かったです。自分はあまり深読みせずに観るタイプなので、綺麗に騙されました。後から思えば、良い伏線もたくさん張られていましたし、一度だけでなく二度三度と見直してみると、違った愉しみ方が出来るのではないかと思いました。
北:ありがとうございます。嬉しいです。
伏瀬:ただ、高橋文哉さんがカッコいいからなかなか感情移入が難しいところはありました(笑)。普通の人がやったらストーカーとして訴えられてしまうでしょうし、宅配業者のコンプライアンス的にも「ファンです」と名乗るのはアウトかと思いましたが(笑)、それ以外は気になる部分もなく、楽しめました。
北:私自身「転スラ」に相当影響されています。今日も車でここに全く車が走っていない高速道路を通ったのですが、そうした観たことのない光景に出くわすと自分は冒険をしているような気分になるんです。『転スラ』に出会って、自分のマインドが変わってきたように感じています。
北:「転スラ」を書き始めたきっかけは何だったのですか?
伏瀬:学生時代に「ラノベなら簡単に書けるから賞金稼ぎしよう」と非常に舐めた理由で書き始めて、年間3本くらい書いたらどれか1本は当たるだろうと気軽に構えていたんです。そんなときに親に「将来何すんねん」と言われて「家継ぐわ」と答えたら「アホか」と怒られて専門学校に行かされて、その当時書いていたものはお蔵入りになりました。その後に会社に入って、激務の中で書く余裕がなくなり、忘れたころに環境の変化もあって暇が出来まして。じゃあ書こうかと再開した形です。「小説家になろう」であれば1話ごとに投稿できるし、文字数も自由度が高いため、毎日投稿で行こうとスタートしたのが「転スラ」の始まりです。
映画の中でも感想欄が出てきましたが、感想は確かに滅茶苦茶大事で嬉しいものです。感想が来るから次も書こうと思えますから。もちろん諸刃の剣で、面白い作品が途中で止まっていて「なぜだろう」と調べたら感想欄でボロクソに叩かれていて「作者は心が折れてしまったんだ」とやるせない気持ちになる事もあるので、そういう時はもう少し手加減してほしいなとも思います。
北:「転スラ」は登場人物がすごく多いですが、増やそうと思って増やしたのでしょうか。
伏瀬:必要だから増やした形です。例えばある国を舞台にしたときに、王様しかいないのは不自然ですよね。それで周りを固めていくうちに、どんどん増えていきました。
北:先生が好きなキャラはいますか?
伏瀬:「転スラ」であれば主人公は当然として、あとは具体例は出せませんが、設定上絶対に負けさせないキャラクターもいます。『あの人が消えた』の中に「無双するのに共感する」といった話が出てきましたが、確かにそれもあるかと思いますが、僕は主人公が何を見せてくれるのかに共感するものだと思っています。だから失敗したっていいんです。その代わり、ぐちぐち言わないようにする。失敗してもくよくよしないから、読者も「ほれみろ!」と温かく見守ってくれるのかなと。
北:ものすごくわかります。失敗してももどかしく感じたり悲しい気持ちじゃなくて「次、頑張れ!」と思えるところが好きです。
伏瀬:大事なのは主人公の性格なんですよね。そういう意味では、劇中で荒川(田中圭)のゾンビに転生した小説がつまらないと言われていたけれど、「俺だったらたぶん面白く書けそうな気がする」とは思いながら観ていました。ゾンビになって肉が腐っていて、犬に追いかけられて「なんで俺が追いかける側じゃないんだ」とツッコんだりしているうちに嚙まれてしまい、そうしたらその犬がゾンビ化して懐き始めて「可愛いからいいか」といったような――主人公が図太くて、どんな環境でもめげない強いメンタルを持っていればどうとでも面白くできるようには思います。「スパイ転生」の場合は、悪役令嬢の設定を性格がいい子にするとか、ドジっ子にするか根っからの悪役にするかで変わっていきそうな気がします。ラストはきっとご主人様との対決になるんでしょうね。ゾンビ対決はオチが見えないぶん、どこまでも行けるか途中で飽きてやめるかのどっちかのパターンかな。
北:すごくいいお話を聞けました。0から1を作ることは、私には絶対できないです。
伏瀬:確かに大変ですが、自分は見てくれる人を楽しませるか泣かせたいのか、決めてから書き始めるようにしています。もちろん作家さんによると思いますが、基本的には求められているものを出すのが売れる秘訣だと思います。とはいえ、自分が書きたいものを書くタイプの方もいらっしゃいますし、どちらが正解というものでもありません。ただ僕個人は、「自分が書きたいものを書くのは自叙伝でいいかな」という感覚で、娯楽として観てくれる人が喜んでくれるものを作りたいとは思っています。
北:伏瀬先生は執筆活動を始められた初期、お仕事と並行していたそうですね。
伏瀬:ただ、営業職ではありましたが自分は見積書を作るような仕事が中心でした。片手間で出来るものだったので、隙間時間を見つけて書いていました。
北:書き始めると止まらなくなるものですか?
伏瀬:不思議なもので、趣味で書いていた時はそうだったのですが、仕事になったとたんに時間は山ほどあるのになかなか机に向かいたくない心理が働くようになりました(笑)。昔は「時間があればいっぱい書けるのに」と思っていたけど、いざそうなるとできないものですね。
北:そうなんですね。私は子どもの頃にホラー小説を書こうと思い立ったのですが、2ページくらいで挫折してしまいました。集中力ももたないし、自分から生まれてくるものが面白くないような気がしてしまって。
伏瀬:僕は前日の夜に翌日書く内容を考えるのですが、面倒くさくてメモを取らないんです。なので、「このアイデアはすごく面白いぞ!」と思ったものを忘れてしまうことがあります。忘れたら所詮その程度のアイデアだと割り切るようにしています。
北:リムルのキャラクターがとても魅力的ですが、伏瀬先生の理想が込められているのでしょうか。
伏瀬:それはありますね。会社員時代に現場監督を任されたのですが、一つ現場を担当したらどんなトラブルも全部自分のせいにされてしまうんです。そんなときに「お前は悪くない」と言ってくれる上司が欲しかった――という想いが反映されています。他にも、会社員時代に接した人々がモデルになっているキャラクターも多々います。
――北さんは『あの人が消えた』でWEB小説家・コミヤチヒロを演じています。
北:私は、役を演じる時にいつも似ている人を探す癖があります。「この役だったら友だちのあの子にぴったり」というような人を見つけて、喋り方や動きを研究して真似ながら自分のスパイスを加えて役として成立させるやり方をしています。コミヤはずっと室内で書き続けているキャラクターだったので生活感も見えないし、際立った特徴がないので難しい役ではありましたが、学生時代にクラスにいた「目立ってもいないし隠れてもいない女の子」のイメージで演じていました。成績表が5段階だとして、5か4が2つくらいある子です。
――伏瀬先生はコミヤについてどんな感想を持ちましたか?
伏瀬:感想欄に結構な数の感想が投稿されていたので、売れっ子なんだなと思いました。あとは、ペンネームを使っていないのはなんでだろうとか、普段の仕事は何をしているんだろうといろいろ気になりました。また、読者からのコメントで頑張れるところは共通しているなと感じました。手紙を送って下さったり感想を書いて下さることで「見てくれている人がいるんだ」と思えますから。
北:その感覚、わかります。私も出演作が公開されたときなどに、応援して下さっている方々が手紙や感想をいただくと「もっと頑張ろう」と力をもらえます。
伏瀬:「小説家になろう」に投稿しているときは、読者と繋がっている感覚が強くありました。気になるところで止めると「こんなところで止める!?」みたいなコメントがついて、「そうだろうそうだろう」と思いながら数時間後に続きを投稿したり……。ライブ感で書いていたところもあったので、読者の方々も「自分たちが育てた」気分を持っていらっしゃるんじゃないかなと思います。2・3回、感想に影響を受けて変更したことがありました。「どうせこのキャラ負けるんでしょ?」と煽られたので、なにくそと思い勝たせたらその後の展開を考えるのに苦労しましたね(笑)。ですので、あんまり左右されない方がいいかとは思います。正当な評価もあれば、アンチコメントもあるものなので、取捨選択して必要なものは採り入れるしなやかさが必要なのではないかと。
北:優しくて思いやりがあり、励みになるようなものをみんなに投稿してほしいですよね。そうすればみんなで一緒に気持ちが上がりますから。
伏瀬:僕が「小説家になろう」に投稿していた当時、「売っている小説より面白いものが無料でたくさん読める。このままいくと出版業界は厳しいんじゃないか」と思っていたんです。そうしたら、投稿作品を書籍化する動きが生まれて「そのまま出しても売れない」という意見が主流でしたが、蓋を開けてみたらそうではなかった。それはきっと、ファンの方々が「これだけ無料で楽しませてくれたんだから、書籍を買って作者を支えよう」という流れがあったのだと思います。
今回の映画『あの人が消えた』でも、登場人物同士の交流が描かれていました。ふとした行動から思わぬ結果に繋がる事もあるという、他人事ではない内容だったように思えます。この映画を見た後に登場人物と自分を置き換えてみて、自分だったらどうするだろうと考えてみるのも、また違った楽しみ方になるかも知れませんね。
北:伏瀬先生、今日はありがとうございました! 最後に、似ているかどうかわからないのですがリムルのモノマネをやってもいいですか?
伏瀬:どうぞ!
北:「じゃあなんで草を食ってるかって! 暇、DA・KA・RAだよ!」 ありがとうございました!
伏瀬:(笑)こちらこそ、ありがとうございました!
映画『あの人が消えた』
出演:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、染谷将太/田中圭
監督・脚本:水野 格
主題歌: NAQT VANE 「FALLOUT」(avex trax)
配給:TOHO NEXT
公開日:9月20日(金)全国公開
上映時間:104分
公式サイトURL : ano-hito.com
公式X : @ano_hito_movie 公式Instagram : @ano_hito_movie 公式TikTok : @ano_hito_movie
(C)2024「あの人が消えた」製作委員会