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侯孝賢(ホウ・シャオシェン)プロデュース、 台湾ニューシネマの系譜を受け継ぐ俊英・シャオ・ヤーチュエン監督による 台湾・日本合作映画『オールド・フォックス 11歳の選択』が6月14日(金) より公開となります。
バブル期の到来を迎えた台湾。11歳のリャオジエ(バイ・ルンイン)は、父(リウ・グァンティン)と二人で台北郊外に暮らしている。自分たちの店と家を手に入れることを夢見る父子だったが、不動産価格が高騰。リャオジエは現実の厳しさと、世の不条理を知ることになる。そんなリャオジエに声をかけてきたのは、“腹黒いキツネ”と呼ばれる地主のシャ(アキオ・チェン)だった。他人にやさしい父と違い、他人なんか見捨てろと言い捨てるシャ。果たしてリャオジエは、どちらの道を歩んでいくのか…。
本作で、経済的には恵まれているが空虚な日々を生きる人妻・ヤンジュンメイを演じ、初の台湾映画出演を果たしているのが門脇麦さん。シャオ・ヤーチュエン監督と門脇さんに本作撮影時の思い出や魅力についてお話しを伺いました。
――本作楽しく拝見させていただきました。あらすじを見ると「やさしい父」を選択するべきだと思ってしまうのですが、作品を観ると一筋縄ではいかない葛藤があり、リャオジエの葛藤が切なかったです。監督が長年あたためていたテーマだそうですね。
シャオ監督:僕の子供が10歳ぐらいの時に、だんだんと答えるのが難しい質問をしてくるようになってきたことがきっかけの一つです。「公平」だったりとか「社会的な正義」に関する質問になってくると、答えながら自分にもあまり自信が無いんですよね。そして真剣に考えているうちに本作の様なテーマについて想いを巡らせることが多くなりました。
――門脇さんはこのストーリーを読んだ時はどの様な感想を抱きましたか?
門脇:主人公のリャオジエはシャと出会って優しさはなくてもお金が稼げる道について考えて、その経験があるからこそお父さんの優しさに気付くんだと思うんです。一度シャの考え方に染まった時間は無駄じゃなくて、それがあったから戻ってこられたのかもしれないし、戻ってきたからこそ自分の選択への想いは強くなりますよね。私は昔から父に「人生の結末は決まっているので、それまではとりあえず一生懸命なんでもトライしてみろ」と言われていて、この物語を読んで父の言葉を思い出しました。ゴールは同じでもそれまでに何をするか、何を学ぶかが大切だと思うので、素敵なお話だなと感じました。
シャオ監督:今、麦さんが答えてくださった言葉に完全に同意します。
――監督はNetflix映画『浅草キッド』を観て、門脇さんにオファーしたそうですね。
シャオ監督:台湾では映画館では上映されていなかったのですが、Netflixで拝見しました。私の周りでは観ている方が多いです。麦さんの眼差しがとても魅力的だなと思いました。今回こうして僕の映画に出てくださって、ありがたいですし、麦さんの眼差しがとても素晴らしかったです。
――門脇さんは台湾映画の世界観がお好きだそうですね。
門脇:最初は、『牯嶺街少年殺人事件』が劇場でリバイバル上映されて、それを観たことがきっかけでした。本作もそうですが、台湾の映画は「その人がその人であるようにしか見えない」魅力があると思います。多分それって俳優の演技だけじゃなくて、 監督の人間の描き方に芯があるからなのだと思います。台湾の今までの歴史、今まであったことが無理なくキャラクターに反映されていて、登場人物たちが実際に生きている人間にしか見えない。私がこれまで観た台湾映画はそこが共通していて、自分が暮らしている国に対する俳優の理解度が高いんだと感じました。
シャオ監督:麦さんがそういってくださって、僕も台湾で映画を作っているということを誇りにしようと思います。その環境を大切にしないといけませんね。最近是枝監督の作品を拝見しましたが、僕から見ると日本の映画も人間の感情をしっかり描いていて、現実からすごく遠いものを撮っている感じがしないところが素晴らしいと思います。これは個人的な好みですが、僕が韓国映画より日本映画の方が好きなのは、日本の映画の方が日本の文化や「実際にこう暮らしているんだな」という部分が見えるからです。韓国映画の様にエンターテイメントとして完成されている作品の良さもあるのですけどね。
――素敵なコメントをありがとうございます。門脇さんは実際に台湾で撮影してみていかがでしたか?
門脇:皆さんが本当にあたたかく歓迎してくださって、休憩でいただくご飯も本当においしかったです。ルーローハン、ジーローハン、牛肉の麺…監督のお友達が豪華なお鍋を差し入れしてくださったり、幸せな撮影でした。
シャオ監督:麦さんがいらっしゃる撮影では、みんな特に張り切っていたと思います(笑)。僕は撮影で必死だったので、ほとんど食べられなかったのですが、麦さんが喜んでくださって本当に良かったです。お忙しい中、台湾に撮影に来てくれて、時間もありませんでしたし、おすすめのレストランなどに連れて行けなかったので、その分ごはんは少しでも豪華なものを。
門脇:みなさんの気持ちが本当に嬉しかったです。監督は時間が足りなかったっておっしゃるけど、日本の撮影の方がタイトだと思うので。私は本当に楽しい時間を過ごさせていただいていました。
――撮影はどの様に進めて行きましたか?
門脇:現場ではそんなに細かく話し合いなどをしていなくて、とにかく私は中国語を習得することに必死でした。スケジュール的に準備の時間があまりとれなかったので、丸暗記になってしまったことが口惜しいのですが、今後もっと中国語の勉強をしたいです。
シャオ監督:麦さんは大らかで、ストレートで、非常に真摯に作品に向き合ってくださって。そのことがとても印象に残っています。
門脇:今までも簡単には想像できない設定の役を演じてきましたが、今回台湾の人を演じるということで、あえて“ガワ”という言い方をすると、ガワは技術でどうにかなると思うんです。ピアニストの役だったら、引いて撮影してもらう、とか他の方が弾いている手元だけを映すとか。
演じるうえで結局何が一番大切かというと、ガワを一生懸命に作った上で、その役の1番の核となる部分をキャッチして自分とリンクさせるということだと思っています。昔の人の気持ちを理解は出来なかったとしても人間としての感情は一緒だろう、とか。中国語をしっかり喋れる人の方がもっと上手に台湾人を演じられると思いますが、人間の感情をリンクさせれば不可能じゃないんだということを今回学びました。
シャオ監督:麦さんが演じてくださったヤンジュンメイという人物は、中国語が上手いか上手く無いかということはあまり関係がなくて、表情や眼差しが大切だったんですね。観客にいかに没頭してもらえるかというのは、俳優さんがいかにその人物を理解しているのかということだとも思います。
――まさに本作での魅力をそんな所に感じました。リャオジエは11歳にして大きな選択をしますが、お2 人が11歳の時はどの様な子供でしたか?
シャオ監督:単純な子供だったと思いますし、台湾社会自体も非常にシンプルな社会だったと思います。僕は貧しい家庭に育ちましたが、両親は一生懸命真面目に働いて、自分の子供に教育の環境を与えようとしていた。僕と同じ様な家庭が多かったと思います。
門脇:色々なことを考えていた子供だったと思います。バレエをやっていたのですが、毎日先生から言われた注意点をノートにメモして、これを克服するためにはどのようなトレーニングが1番良いかと考えて練習をしていて。 あと、人生って何だろうとか、何のために生まれてきたんだろうっていうことにすごく興味があって。でもそういう気持ちを言語化出来ない年齢でもあったので、「人生」についての色々なワードをかき集めることに一生懸命で。本を読み漁ったりとか、漠然とした想いをノートに書き起こしていたり、とにかく言語化することに必死だったと思います。
――環境は違いますけれど、リャオジエと同じくらいたくさんのことを考えていらっしゃったのですね。今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
撮影:たむらとも
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