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実在するカターという男がイランで生まれ、亡命、両親の離婚、貧困を味わいながら、犯罪もいとわずに自身の力で成り上がり、ドイツで知らぬものはいないほどのスーパースターになるまでを描き出した映画『RHEINGOLD ラインゴールド』が3月29日より公開となります。
実在するドイツのラッパー&音楽プロデューサー・カターの半生をベースに、疾走感のある爽快な映画を完成させたのは『女は二度決断する』『ソウル・キッチン』などで知られるドイツのファティ・アキン監督。製作の裏側やこだわりについてお話を伺いました!
【ストーリー】ジワ・ハジャビはクルド系音楽家のもとに生まれ、パリに亡命し音楽教育を受け、ドイツのボンに移り住むが、両親は離婚、貧困を味わう。ある日、街の不良たちにブチのめされ、やり返したい一心でボクシングを覚え、カター(Xatar:危険なヤツ)となったジワは、ドラッグの売人や用心棒などで金を稼ぐようになり、さらには、金塊強盗までしてしまう。世界的指名手配犯となり、逃亡中のシリアで拘束され、送還されたドイツの刑務所内でレコーディングした曲でデビュー、本物の”ギャングスタ・ラッパー”となり、音楽プロデューサーとして成功する……。破天荒な実話に基づく奇想天外なサクセスストーリー。
(c) Linda Rosa Saal
――監督はカターさんの自伝を読んで、その半生を「とても面白い」と感じたそうですね。自分が読んで面白かった伝記を映画化するというのはすごく大変なのではないかと、いち観客としては感じるのですがいかがでしょうか?
大変だったよ。今回実在する人物を描いて、実話をベースにしているしね。一番簡単なのは自分で脚本を書くこと、そして本をそのままに少し脚色すること、一番楽なのは本人がもう亡くなっていることなんだけど(笑)、でも今も生きている方の人生を映画化出来るということは一つの“贈り物”でもあるんだよね。リアルライフよりも新しくて革新的なストーリーなんて無いと思うから。
実際のカターさんは一緒に仕事をすることは難しいタイプではないんだ。「監督の聞きたいことがあったら何でも聞いてね」とサポートしてくれて、とても協力的だった。でも彼の周りにいるギャングさんたちが大変だったよ。「あいつ全然俺に似てないぞ」とか「なんであの俳優を配役したんだ」とかね(笑)。彼らをなだめすかさなくてはいけなかったのが大変だったんだ。
――実在する人物を映画化することはあっても、ギャングさんに詰められるというのはなかなか無いご経験ですね(笑)。ある意味彼らが一番映画を楽しみにしてたのでは無いでしょうか。
誰もが自分の人生の主人公なのだけど、映画の場合は誰にスポットを当てるかということを選択しないといけないから難しいよね。作品の中で「ググるなよ」とカターに釘を刺されるがいるのだけれど、そのモデルになった人は配役に全く納得していなくて、ドイツ版のDVDのメイキングに実際の彼を知らしめるためにインタビュー映像を追加しなければいけないほどだったんだよね(笑)。
――「事実は小説より奇なり」という言葉の通り、本当にすごいエピソードの数々を爽快なストーリーにしてくださいました。「ヒューマンドラマ」にも「犯罪記録」にもすることは出来たかと思うのですが、この様なテイストにしたのはなぜですか?
映画としてどんな形が可能かなと思った時に、洗濯機が浮かんだんですよね。一つのジャンルから一つのジャンル、さらに違うジャンルへと飛んで、戻って、ぐるぐるぐるぐると回っていく。難民の描写から青年の青春物語、大人になって犯罪描写があり、さらに音楽映画になっていく。そうやってホップしていくところが面白くて豊かさを感じたし、フランク・ザッパの音楽の様にトーンが変わっていくのが良いかなって。そうすることでフレッシュな映画になるのでは無いかとも思った。映画館に来てくれた観客たちは最初に期待した映画とは違ったものを経験して帰っていくと思うのだけど、それが良いなって。それが自分へのチャレンジだと思ったし、観客の皆さんには豊かなものを持ち帰ってもらいたいんだ。
――犯罪はもちろんダメなことなのですが、一筋縄では行かないのもまた人間だと感じさせてくれる作品でした。監督はカターさんにどんな人間的な魅力を感じましたか?
常に“ヴィジョン”を持っていることですね。ヴィジョンがあるからああやって収監されても音楽をやることができた。ダメなことだけれども金塊泥棒だってヴィジョンがあったから成功したわけだよね。それから若い時に「街で一番強くなる」と思って体を鍛え始めるわけですが、ヴィジョンを持つ
ことも難しいのにそれを行動に移すことの出来る人って少ないと思うんですね。かなりの少数派だと思うのだけど、彼の様に自分を作り変えることの出来る人っているんですよね。犯罪行為は誉めることはできないけれど、その後自分の人生を変えるためにものすごく頑張った。そこが素晴らしいですよね。
――私は監督の作品がとても好きなのですが、監督というお仕事もヴィジョンが大切になりますよね。そういった意味でもカターさんに共感されたのでしょうか?
そうですね。映画というのはヴィジョンを持っていなければ作れないものです。ストーリーやテーマについてはもちろん、製作費をどうしようか、配給会社をどこにしようか、権利をどうするか、なども含めてのヴィジョンなんですよね。あと映画作りに対してヴィジョンを持つことは楽しいことではあるけれど、その反面フラストレーションが溜まることがある。自分のこだわりに苦しめられたりね。
あと、個人的な事だけど、昔は一日に二箱吸うくらいのチェーンスモーカーだったんです。周りに止められても自分は無理だろうとずっと思っていたのですが、ある日突然「スポーティでクリーンでタバコを吸わない自分」のヴィジョンがハッキリと見えたから禁煙が出来たんだ。毎度それが出来るわけじゃ無いし、その突然を待っているだけでは何も出来ないのだけれど、人生にはそういう瞬間ってあるんだよね。
――描かれているのは破天荒な人生ですけれども、ヴィジョンを持つことというのは私たちにもとても学べるメッセージでもありますね。今日は素敵なお話をありがとうございました!
『RHEINGOLD ラインゴールド』
監監督・脚本:ファティ・アキン
出演:エミリオ・ザクラヤ、カルド・ラザーディ、モナ・ピルザダ、アルマン・カシャニ、フセイン・トップ、ソゴル・ファガーニ
撮影:ライナー・クラウスマン 編集:アンドリュー・バード 美術:ティム・パネン
音楽:ジワ・ハジャビ aka Xatar オリジナル管弦楽曲:エグバル・ハジャビ
音楽監修:ピア・ホフマン 監修:マエストロ セリフ監修:Xatar
140分/1.85:1/2K/Dolby Atmos/2022/ドイツ語、クルド語、トルコ語、オランダ語、英語、アラビア語/
ドイツ・オランダ・モロッコ・メキシコ 日本語字幕:吉川美奈子
配給:ビターズ・エンド www.bitters.co.jp/rheingold 公式X:@FatihAkin_movie
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