“若手映像クリエイターの登竜門”であるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭20周年と、川口市制施行90周年を記念して埼玉県と川口市が共同製作した長編映画、『瞼の転校生』が現在公開中です。

本作は、大衆演劇の世界で生き、公演に合わせて1か月ごとに転校を繰り返す中学生が、川口市を舞台に限られた時間の中で出会う人々と心を通わせながら、少しずつ成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。

本作で映画初主演を果たした、大衆演劇一座に生まれた裕貴役の松藤史恩さん、藤田直哉監督に話を聞きました。

●まず監督にうかがいます。大衆演劇がモチーフになっている本作ですが、どのような経緯で映画として扱うことになったのでしょうか?

藤田:新しい映画を企画する際、今まで僕は大人のキャラクターをメインに作ってきたことに気づいたんですね。なので改めて10代・子供をメインにした映画を撮りたいなという想いがまずありました。そこでいろいろと題材を探してる時のこと、僕は個人的にスーパー銭湯がとても好きで、いろいろなスーパー銭湯を回っていました。大衆演劇っていう存在が、自分の中に必然的に入ってきていたんです。スーパー銭湯には劇場が併設されていて、そこにさまざまな劇団が来て公演したりしているんですね。

それまではまだ観たことがなく、存在だけを知っていたのですが、そのタイミングで近い親族がかつて大衆演劇を役者やっていたみたいな話を聞いて。そういうことが重なったので、観に行ってみようという気持ちになり、実際観に行きました。

●感想はいかがでした?

藤田:若い役者さんがステージに上がっていて、もうほんとに若い。10代半ばとかなんですよ。こういう世界で生きている、こんなにも若い子もいるんだっていう光景を観て、この子たちをメインに据えた映画を作れないかなと思ったことがきっかけです。

●つまり、この映画で描かれている主人公のように、転校があるため実際に1か月しか学校にいられない生徒もリアルにいたということなんですね。

藤田:そうです。企画を決めて取材をいろいろな劇団さんにしていった時に、ちょうど10代の子を取材させてもらって実際の生活などを聞くと、本当に1か月ごとに転校していて。友達関係はどうしているのかとか、すごくリアルないろいろなことを聞けて。それをかなり今回の映画の内容に採り入れています。

●松藤さんは最初に今回の作品に出ると決まった時、最初に思い浮かんだことって何でしたか?

松藤:僕は歌舞伎で女方を元々やっていたので、最初は大衆演劇と少し似ているなと思いました。基本的には違うものだと思いますが、根っこの部分は同じと言いますか、普通に舞踊ショーは歌舞伎で言う日本舞踊であり、着物を着て白塗りをしてメイクをしたり、舞台の三色の幕も同じでした。なので、あの世界観には入りやすかったです。

●演じられたキャラクターは、どのみち転校するから友達を作っても仕方がないみたいな、ちょっと悲しい導入がありましたが、演じてみての感想はいかがでしたか?

松藤:裕貴は旅回りの大衆演劇一座に所属する中学生で、自分の意志が硬いです。友達を作らないと決め、大衆演劇の道を絶対に進むという強い意志があり、それでも1か月の間で深い友情が芽生えるということは、彼にとっては珍しい 体験なのかなと演じてみて思いました。僕だったらやっぱり友達といたい気持ちが強いので、裕貴は苦労しているだろうなと理解して演技をしいました。

●だからみんなで絆が深まっていってしまうと、後が悲しいだろうと思いました。

藤田:実際、若い役者さんもみんなそのことを言っていて、仲良くなったのにもう別れなくちゃいけないことは必然なので、そういうことを繰り返していくと、結果的に友達を作らないほうが傷つかなくて済むみたいなことは、みなさん考えるみたいです。それを毎月繰り返しているという、すごい毎日を過ごしているなって思います。

●撮影はいかがでしたか? それこそクランクアップの日など同じ気持ちになったのではないでしょうか。

松藤:本当に楽しい時間でした。実は監督にも伝えたのですが、本当に最高に一番楽しかった現場だったんです。クランクアップの日、もっと撮影が続いたらよかったのになって思ったり、またまだ撮影したいなと思ったし、葉山さらさんも号泣していました。共演のふたりとも演技が上手すぎて、最初はどうしよう、ついていけるかなって思うくらいでしたが、クランクアップの日まで本当に楽しく過ごせました。

●その本作、どういう方たちに観てほしいでしょうか?

藤田:僕はそれこそ映画に出て来る3人のような10代の子たちに観てもらいたいですね。内容も難しいものではないですし、かといってフィクショナルすぎないので、若い人に観てもらって3人の等身大のキャラクターをどう感じるか、自分がこれからどうしていきたいかみたいなことを考えるきっかけになってもらえたらなと思っています。

松藤:僕も10代の方に観てほしいです。特にこれから就職する人たちにも観てほしくて。僕が演じた裕貴は大衆演劇という道を進んでいく人ですが、これから就職する人たちにはいろいろな道があって、どこにもどこにでも行けますよね。この映画を観て、自分には選択肢がいっぱいあるなということを感じてほしいです。

■ストーリー

旅回りの大衆演劇一座に所属する中学生の裕貴は、公演に合わせてひと月ごとに転校を繰り返していた。

期間限定の学校通いのため、出会いに期待もせず、友達を作ろうともしない。学校に登校しても今まで通り誰とも話さず早退を繰り返す日々だったが、担任から不登校のクラスメイトへの届け物を頼まれ、そこで不登校なのに成績優秀な建と出会う。

後日、ひょんなことから地下アイドル「パティファイブ」のライブに行くことになった裕貴。そこで偶然にも建と再会する。建は「パティファイブ」の浅香を推すアイドルオタクだった。

建が裕貴に興味を持ち始めたことで一気に仲良くなる二人。そこに建の元カノである茉耶も加わって、三人で過ごす時間がだんだん増えていく。

裕貴は二人に役者として舞台に立つ自分を観てほしいと思いはじめるが、一ヶ月が、まもなく終わろうとしていた……。

(C) 2023埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 川口市

(執筆者: ときたたかし)

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 映画『瞼の転校生』 主演・松藤史恩&藤田直哉監督インタビュー 「自分がこれからどうしていきたいか考えるきっかけになってもらえたら」