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人里離れた深夜のガソリンスタンドという一風変わったシチュエーションでのサバイバルを描くスリラー『ハンテッド 狩られる夜』が現在公開中だ。
不倫相手と一夜を過ごし、深夜に家路を急いでいたアリスは、ガソリンスタンドに立ち寄るが、店員の姿が見当たらない。妙に思いながら車に戻ろうとするが、その瞬間どこからか銃弾が飛んでくる。この場所は正体不明のスナイパーの狩り場だったのだ。腕を負傷し、商品棚のわずかな死角に身を隠したアリスは、スナイパーに見つかれば即死という恐るべき一夜を過ごすことになる。
監督は『P2』やリメイク版『マニアック』を手掛けたフランク・カルフン。カルフンと旧知の仲でもある、『ヒルズ・ハブ・アイズ』『クロール -凶暴領域-』のアレクサンドル・アジャがプロデューサーを務めた。ファンの多いアジャだけに、本作にどの程度関わっているのか気になっている観客も少なくないはず。インタビューに応じてくれたアジャによれば、本作では資金集めから実際の制作まで全般にわたって携わっており、カルフン監督と協働していたという。
メイキング写真:フランク・カルフン監督とアレクサンドル・アジャ
「プロデューサーを務めるとき、名前だけ貸すようなことはしたくなくて。深く関わらないのであればやらないようにしているんです。監督のフランクとは2007年に『P2』を作り、2012年に『マニアック』を手掛けていて、“また一緒にやりたいね”と言っていたんだけど、なかなか良い企画がなかった。そんななかで、数年前に彼が“スペインの低予算インディーズ映画をベースにしたこの作品を作ってみたい”と言い出したんです」
ベースとなったのは、2015年製作の『シャドウ・スナイパー』。誰も助けに来ないガソリンスタンドでスナイパーに狙われ続け、店内にあるものを駆使しながらなんとか生き延びようとするというシンプルなスリラーだ。『ハンテッド 狩られる夜』ではこの設定を活かしつつ、オリジナル版にはなかった“主人公とスナイパーの会話”によって、ストーリーに新たな側面を加えている。
「フランクがこの脚本のどこを気に入っていたかというと、ロケーションが一つでリアルタイムで物語が進行するところ。そして、深夜のガソリンスタンドでスナイパーに命を狙われて、朝まで生き延びるために主人公がこのスナイパーと会話をしていかなきゃいけないという面白い設定ですね。その会話を通して、現在のアメリカにおいて極端に分断が進んでいる部分に触れるような、そこを掘り下げるようなストーリーが魅力だったんです。
脚本はすでにあったのですが、そこからフランクとかなりやり取りをしながら、色んな状況や物語を開発していくということをしていきました。一番大事だったのはバランスを見つけること。ただの会話劇になってしまってはいけないので、怖さやサスペンスをしっかりと感じられるようにしなければならなかった。撮影中だけでなく編集中もずっとそのバランスを考えながら二人で作っていったんです。
撮影期間が17日間しかなく、低予算で毎晩砂漠で撮影という非常にハードなものだったし、しかもその中でやろうとしていることは結構野心的でもあったから、なかなか大変でしたね。サバイバル映画を作っていると、スタッフもまたある種のサバイバルをしているような、みんなが生き抜いて作品が終わるみたいなところがあって。今回もそんな感じがしていましたよ」
加害側が主導権を握る限定的なシチュエーションで、ターゲットになった女性がわずかな選択肢から生存の道を探っていく本作は、『P2』との共通点も少なくない。
「『P2』と今作は同じ映画の2つの側面のような、それぐらいつながりのある2作だと思っています。特にフランクはそう考えていたと思う。こういうジャンルを手掛ける映像作家というものは、社会に対する1つの観点を持っているものだと思うんです。作品が作られた時期が違ったとしても、やはりそのあたりの部分が共通して作品から感じ取れるものなんじゃないかな」
主人公のアリスを演じたのは、水中を舞台にしたホラー映画『ザ・ディープ・ハウス』の主演が記憶に新しいカミーユ・ロウ。タフなサバイバルと内面の葛藤という両極の要素を説得力を持って演じ、アリスというキャラクターに血を通わせた。
「『ザ・ディープ・ハウス』を観れば彼女が今作に必要な演技力を持っているのは分かりますよね。面白かったのは、彼女自身もまさにこのキャラクターが感じている葛藤を持っていたことですね。彼女はフランスとアメリカの両方の血が入っていて、アメリカの現在の社会を見ている中で、ここに住み続けたいのか、フランスに戻ったほうがいいのか色々と悩まれている時だった。彼女のそういう部分がうまく役にハマっていたと思います」
メイキング写真:フランク・カルフン監督と主演のカミーユ・ロウ
極限状態に置かれたキャラクターをたびたび描いてきたアジャ。そういった作品を作ることの面白さを聞いてみると、「面白いかどうかで言うと、面白くはないんです」と意外な返答だ。
「面白いと言うよりも、自分もキャラクターと同じ場に身を置いて考えるから、とても怖いんですよ。キャラクターと同じ恐怖を感じているから、それで時々いいものができて、成功することがあるんです。
ただ同じようなホラー系を手掛ける映画監督の仲間たちで全く違うアプローチをする監督もいるんですよね。自分の感じる“怖い”感覚ではなくて“どうやったら怖がらせられるか”というところを注視する。全然違う作り方なのでどっちがいいということではないんだけれど。僕はいつも、モンスター側ではなく、主人公やサバイバーの立場に立って作っています。ただ『ピラニア3D』と『マニアック』だけは全編がそうではないと言えるかもしれません。
こういう怖い映画を作る醍醐味というのはもちろん感じていますよ。観客は安全な場所で物語の状況を体験するわけだけど、 自分が映画の作り手としての仕事をきちんと果たすことができていれば、観客にある種の問いかけを持って帰ってもらえるんです。そういうところが魅力ですね。自分も同じ状況に置かれたら、主人公と同じように振る舞えるのか?とかね」
今作では負傷した主人公が、血の気が引くような“手当”を自分に施す場面があるが、鑑賞しながらまさしく「自分はこれができるか?」と自問したと伝えると、「僕は絶対にやらないです(笑)」と笑った。
今回の作品もインディーズ映画のリメイクだが、ホラージャンルは特にリメイク作が多く、アジャも『ヒルズ・ハブ・アイズ』や『ピラニア3D』『マニアック』と多数手掛けてきている。そのことについて聞いてみると、リメイク作を手掛けるときの信念を教えてくれた。
「僕のところにリメイクのオファーがたくさん来るのは想像に難くないと思うんだけど(笑)。僕は脚本を読むときに、それがオリジナルなのか、原作があるのか、以前映画化されているものなのか、というのはあまり気にしないんです。僕が気にするのは、その脚本の“ストーリー”だから。
ただ、すでに映画化されているのであれば、そこには歴史があるので無視するわけにはいきません。引き受けるかどうかを判断するときに、自分がそれをより良いものにできるのかという部分を考えます。自分が関わることで新機軸をもたらすことができるのかどうか。すごくいい映画がすでに存在していて、それ以上いじる必要がないと思えばそこでおしまいなわけで。自分が同じストーリーを違った解釈でリメイクして、“その作品が存在することを自分が正当化できるのか”という部分で、受けるかどうかを決めていくんです」
『ハンテッド 狩られる夜』公開中