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ロックダウン下で全編Zoomを使って撮影したホラー映画『ズーム/見えない参加者』が話題となり、ホラークリエイターとして一躍その名を知らしめたロブ・サヴェッジ監督(詳細は当時のインタビュー記事でどうぞ)。今年はなんと彼の新作が立て続けに2本も公開。スティーブン・キング原作の『ブギーマン』(8月公開)、そして7月14日にいよいよ公開される『DASHCAM ダッシュカム』だ。
ライブ配信番組を模した『DASHCAM ダッシュカム』では、ラッパーで迷惑系配信者の主人公アニーがとある女性を送り届ける奇妙な依頼を受け、恐ろしい事態に巻き込まれていく様を描く。衝動的に行動する彼女は事態をどんどん悪化させ、そしてどこまでも非常識にカメラを回し続ける……。アニーの強烈なキャラクターと冴え渡るラップ(かなり下品)、レールが崩壊したジェットコースターに乗せられているかのようなあまりにもスリリングな展開が見モノだ。
アニーが運転しながら即興でラップする番組「バンド・カー」は実在しており、アニー・ハーディ本人が劇中のアニーを演じている。現実とフィクションが交錯するこの映画はいかにして生まれたのか、実際のアニーはどんな人物なのか。そしてなぜこんな異様なテンションの作品になったのか。監督にお話を伺った。
――アニー・ハーディの「バンド・カー」という番組は本当にあるそうですね。なぜこの番組をファウンド・フッテージ・ホラーの舞台に選んだのですか?
ロブ・サヴェッジ監督:遊び心に満ちていて、軽妙なんです。アニーがやっていることの中にあるコメディ要素は、恐ろしくてぐちゃぐちゃで血みどろな展開を迎える映画の対比として素晴らしいと思いました。彼女以外に、あんなに速く面白い曲を即興で作れる人はいないと思います。「バンド・カー」は彼女のキャラクターを紹介する良い方法でした。
ホラー映画に登場する主人公があんなにユーモラスに振る舞うことはあまりないので、この映画がどうなっていくのか、何が待ち受けているのか、なかなか予想できないと思います。“ホラー映画では何が起こるか分からないのが好き”という方も多いでしょう。この設定は面白い不確実性を生み出すものなんです。
――アニーのキャラクターは大げさに描かれていたのでしょうか。それとも実際にあのキャラクターのようにクレイジーでユニークなのですか?
サヴェッジ監督:アニーは確かにユニークな人物ですが、彼女はこのキャラクターのような人物ではありません。劇中のアニーのキャラクターは、アニー本人に会う前に設計されていたものです。彼女の番組は知っていましたし、Zoomで数回会ったこともあります。
今回の映画では、衝動的に行動することで劇中の怪異と同じくらいの害を与える、“混沌として竜巻のようなキャラクター”を作りたかったんです。そこに彼女のユーモアや鋭いウィット、そして衝動性を活かしたかった。実際のアニーもキャラクターのアニーも、状況を“考える”よりも“感じながら”進む人です。彼女が自分の名前が付いたキャラクターを演じるうえで、自分自身を笑いのネタにしていることに本当に感心しています。映画の批評家たちには、アニーの謙虚さを示すものとして、彼女はまず自分を笑いのターゲットにしている点に注目してほしいですね。特に現代人の多くは、そのような特徴を備えていません。
――『ズーム/見えない参加者』では、キャストには自分のパート以外で起こることを知らせず、彼らの生のリアクションを捉えていました。『DASHCAM ダッシュカム』はどのように撮影されましたか? 即興で演じられた部分はありますか?
サヴェッジ監督:『DASHCAM ダッシュカム』は全編が即興で、台本はありません。できるだけ情報を伏せて、アニーから本物の恐怖を引き出すように工夫しました。ただ、『ズーム/見えない参加者』では7人のキャラクターのそれぞれのパソコン画面があったので、一度に7台のカメラが回っていました。でも『DASHCAM』で回っていたのは常に1台のカメラだけだったので、怖いシーンを撮影する際には正確に割り付けを行う必要がありました。そうなるとアニーにサプライズを仕掛けたり、展開を隠しておく余裕はあまりなかったのですが、怖いシーンでは他の登場人物に予期しないようなことをさせて、アニーの自発的なリアクションを引き出すようにしていましたね。ですから、『ズーム/見えない参加者』と同じアプローチが一部維持されている感じです。
――今回の映画では『死霊のはらわた2』や『悪魔のいけにえ2』のようなテイストを狙ったそうですね。あの狂気的なエネルギーを意識的に再現するのは難しそうですが、どのようにしてそれを取り入れたのですか?
サヴェッジ監督:何よりもトーンの問題だと思います。『ズーム/見えない参加者』は心理的かつ超自然的なホラーで血がほとんど登場しない作品だったので、『DASHCAM ダッシュカム』はスプラッタームービーにしようと思いました。『悪魔のいけにえ』の1作目と2作目を比較すると、1作目は暗示が主で、血はほとんど登場しません。一方、2作目はまさにスプラッター祭りで、多くの実用的なエフェクトが見られますが、そのトーンが軽快で面白いため、暴力的なシーンも皮肉な感じがしますよね。『DASHCAM ダッシュカム』でも同じアプローチを取りたかったのです。映画を作るときには、「これが目指すべき感覚だ」という指針があります。意識的には分からなくても、撮影現場ではどの方向に進むべきかがはっきりします。私たちが目指していたのは、まさにそんな映画でした。
――画面上のコメントは普通の映画にはない楽しみどころです。笑わせられるときもあれば、コメントが静かになる場面では不安な気持ちになったりと、とても興味深い効果を発揮していますね。
サヴェッジ監督:そうですね。あるタイミングでは、コメント部分を静かにさせておくのが最善だと感じました。たくさんの音が鳴り響いている中で、突然何千人もの人々と一緒にいるのに、次の瞬間には一人になってしまうという対比が面白さを生むんです。これは『ズーム/見えない参加者』でも触れていたことで、つながっているように感じても、結局は独りぼっちであるということです。
ホラー映画として、アニーが何千人もの目に見られて安全だと感じているところから、突然インターネットが切れて、実際には怖いものと一緒に森の中に独りぼっちでいると気付くという状況が面白いですよね。また、画面上に再びコメントが戻ってくるんだけど、彼らは何が起こったか分からない、という場面はコメディ的でもありますね。
――前作も今作もファウンド・フッテージの発展系と言える作品です。このジャンルにはまだまだ可能性があると思われますか?
サヴェッジ監督:ええ、もちろんです。ファウンド・フッテージは、映画製作者が扉を開くための素晴らしい方法で、安価で効果的な怖いものを作ることができます。新しいアイデアや状況、文化的に起こっている新しいことを探求する最良の方法を見つけることが大切です。現在のほとんどの人々の生活はデジタル空間で展開されている感じがするので、その世界で物語を語る機会は常にあるでしょう。問題は、ファウンド・フッテージが適切な方法であるかどうかを見極めることです。
私自身ファウンド・フッテージの映画を作るとは思っていませんでしたが、パンデミック時にZoomに移行し始めたとき、ファウンド・フッテージに特に適したこの歴史の奇妙な瞬間について、何かをする機会があると感じました。もちろん、悪いファウンド・フッテージの映画もたくさんあるけれど、過去30年間のファウンド・フッテージの映画を見ることで、その時代に世界で何が起こっていたかについて、多くのことを知ることができるんです。
――前回インタビューしたとき、ご自身を“ホラーを呼吸している人間”と表現されていました。それほどまでにホラージャンルを愛するようになったルーツや原体験はなんだったのでしょうか?
サヴェッジ監督:“禁断の果実”だったと思います。子供の頃、私は観ることが許されていなかったんです。両親はまず私にテレビを見せずに育てようとしましたが、うまくいかなかったので、怖い映画や暴力的な映画を観ることを制限しました。それは私が観たかった唯一のものでした。それで、『ヘルレイザー』や『食人族』、『死霊のはらわた』などのビデオテープをこっそり家に持ち込んでいました。これほど暗いテーマに触れ、奇怪だけれども美しい光景を見せてくれる映画が存在することが信じられませんでした。
『ヘルレイザー』を初めて観たときのことをはっきりと覚えています。ゴアや特殊効果の下には、もっと深い意味があることに気付きました。その後数日間、美しくて、不安を煽る、深遠な映像について考え続けてしまいました。そしてホラーは、私が見ることを許されなかった血と内臓を見る一種の倒錯的な方法以上のものであり、他のものでは味わえない、特別なカタルシスのようなものがあることに気付きました。今でもホラー映画は、誰も言葉にしたがらない私たち自身の最も暗い部分について語り、視覚的に人々に訴えかけ、ブッ飛んだ特別な方法で私たちを結びつけてくれていると思います。
――後ろの壁のポスターにサム・ライミのサインがありますね。サム・ライミとのコラボレーションについて教えてもらえますか?
サヴェッジ監督:サムとの仕事は僕のキャリアにとって非常に重要なものでした。彼とは数年間ある作品に取り組んでいて、もうすぐ完成する予定なので、それが次回作になることを期待しています。彼は物語やストーリーテリングについてたくさん教えてくれました。特に『ズーム/見えない参加者』は彼がいなければ存在しなかったと思います。常に観客を最優先に考える方法についてもたくさん教えてくれました。映画を作るときやシーンを組み立てるときは、いつも観客の体験について考えるんです。具体的には、『ズーム/見えない参加者』を作っているとき、すべての決定で「サムならどう言うだろう」「観客を最優先に置く状態とは」「どうすれば観客にできるだけ楽しくて面白い体験をさせることができるか」などを考えていました。彼は本当に寛大です。
『DASHCAM ダッシュカム』
7月14日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー