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『シックス・センス』(1999)や『オールド』(2021)ほか、話題作を次々生み出すスリラー映画の名手、M.ナイト・シャマラン監督最新作『ノック 終末の訪問者』が、4月7日(金)より公開中です。
死者の姿が見える少年と小児精神科医が迎える衝撃的な結末、「時間」が異常なスピードで加速し身体が老いていく不可解な現象が起こるビーチを舞台とした脱出劇など、世界中のスリラーファンを魅了しているシャマラン監督。今回のテーマは「究極の選択」。 人里離れた森の奥深くにある山小屋で、穏やかな休日を過ごす幼い女の子とその両親。突如武装した見知らぬ4名が訪れ、想像を絶する“選択”を迫られます。「いつの世も選ばれし家族が決断を迫られた。君たちの 1 人が犠牲となり止めるのだ。世界の終末を」と…。
本作へのこだわりについて、M.ナイト・シャマラン監督ご本人にお話を伺いました!
――本作の主人公3人は少し傷を持っていて、だからこそ強さもありますし、お互いを思い合ったり、絆の結びつきを感じました。人物の描き方がすごく丁寧だと感じたのですが、原作から人物描写を膨らませる時に監督のご経験が投影されている部分はありますか?
僕もそれぞれが傷や傷跡を抱えているというのがとても詩的だと感じていました。そして僕にとって極めて個人的だったのは、彼らの娘が養子である部分です。実は僕らの一番下の娘は養子で、妻や僕が彼女に対して抱いている想いなんかが(映画にも反映されていると思っています)劇中登場した孤児院は、僕らが娘を迎え入れるために4時間かけて訪れた孤児院をモデルにしているんです。ロビーで娘を待ちながら、白人の子どもたちとイエスが描かれた壁画を見ていました。だから、カップルが初めて娘を迎える/抱くシーンは、僕らが初めて娘と対面した時の心情と重なっています。これは僕の家族の物語だと言ってもいいくらいです。そのあたりはかなり自分の経験が投影されていますね。
――レナードが、デイヴ・バウティスタのパブリックイメージと異なるものでした。監督はどの作品を観て、彼にオファーをしようと思いましたか?
時々映画とかを観ていて、なんかちょっと妙に引っ掛かる瞬間というのがあって、周囲も同意するほど明確な時もあれば、僕だけがそう感じる場合もある。でも僕からすると彼らは(その瞬間)ものすごいことをやってのけているんです。『ブギーナイツ』でフィリップ・シーモア・ホフマンを見た時は、「これは絶対偉大なる俳優の一人になる役者だ」と思ったし、小ぶりなラブコメ作品に出演しているブラッドリー・クーパーを見て「これは誰だ?」と彼のことを知りたくなった。デイヴに関しては『ブレードランナー 2049』だった。セリフが殆どないシーンがあったのですが、身体を通してキャラクターの純粋な思考とそのプロセス/過程を表現することができていて、それはなかなか到達できないレベルの演技だと思うし、ものすごいことをしていると思いました。それで、これ誰?と訊いたら、デイヴ・バウティスタだと教えてもらったんです。当時はレスラーであったことなんかも含め、彼について何も知りませんでした。でも、人生のターニングポイントにある人物のように、どこかで悟っていましたね。
――今回の脚本は監督史上最速で書きあがったと聞きましたが、映画ではないメディアを脚色する場合、何かアプローチは異なりますか? また、原作のストーリーをいじることにプレッシャーや心配はありましたか?
(逆に)大きな利点があると思いますね。設定と、時にはたくさんのキャラクターが既にいて、そこから発展させられる。つまり、勢いに乗れるんです。今回は間違いなくそうでしたね。ポール・G・トレンブレイのつくった美しい設定に乗っかって、僕は道を進み続けました。また、タイトルを変えたのもあって、変化を加えることには抵抗はありませんでした。これはあの原作を映画化したのではなく、原作からインスパイアされた映画だし、その点について心配はしてなかったんです。でも原作との違いをチェックしてみるのも面白いかもです。同じ設定だけど、展開もメディアも違う。そこも面白い作業でした。でもポールに「映画ではこうするつもりだ」と話したら、「最初にやろうとしていたのがそれだ」と言っていたので、自分としてはお墨付きをもらったかのような感じでした。
――美術もとても良かったです。
プロダクション・デザインを誉めてくれてありがとうございます。僕の映画の場合、やり方が他とちょっと違うのは、まずは僕がショット/カットを全部デザインしてから、僕のヴィジョンに合わせてセットを建て込むことです。『パラサイト』でも同じやり方をしたと聞いたことがあります。例えばキッチンはこのぐらいの遠さで、とかそういう感じですね。だから、通常と順番が逆なんです。これは『シックス・センス』の頃からやっています。何度も組んでいるプロダクション・デザイナーのノウマーン・マーシャルは、いつも見事にこのやり方ですばらしいものを作ってくれる。
――キリスト教、旧約聖書、犠牲などの聖書的な要素について聞きたいです。監督の考える宗教の役割とは? また、多くのフィクションで宗教を信じる者は悪役のように扱われていますが、この映画の彼らはモンスターはありませんよね。
僕は修道女がいるようなカトリック系の学校に10年通ったけど、親はヒンドゥー教徒。でも僕は宗教は神話やストーリーテリングの一種としてアプローチしている気がします。僕はかなりスピリチュアルな人間かもしれないけど、(特定の宗教に対する)信仰心はないんです。でも人間が想像したり、そうであって欲しいと願う神話には、とても興味がある。それがエイリアンでも、幽霊でも、キャラクターにとってそれらは、自分の願望成就なんですよね。だから、聖書の要素を現実世界で何に置き換えるのかを想像する作業は僕にとってとても楽しいことでした。例えば、訪問者の4人は、この家族にあのようなことを伝えるのには全く適してない、実に不適切な人選です。そういうところにちょっとぎこちないおかしみがあったり。また、興味深いと思っていることのひとつは、映画の前提が「神はいるかもしれないが、我々は彼らの考えを誤解してはいないか?」という部分です。もし、その存在がこの家族をただの普通の家族だと思っていたとしたら? 僕らの方で何か勘違いをしていたら?
――どんどんダークになっていっているこの世界で、この作品を含め、かなりダークな映画を作っている監督ですが、いつでも楽観主義的なところがありますよね? それはどんなところから来て、どんな風に保っているのですか?
それが僕のものの見方なんです。世界が本質的に悪い、ネガティブな場所だと、僕は思っていません。宇宙は慈悲深い場所だ。だから、何かうまくいかないことがあっても、心が傷ついても、大きな文脈からすれば、大丈夫なんじゃないかと、僕はそう思っています。でも、今この瞬間も、世界の終わりに向かってエスカレートしていくようなことが起きていて、それはとても怖いことです。僕らが全員の今の進み方では100年以内にやり方を変えなければ、すべてが終わってしまう。僕はそう信じてもいます。でも、それと同時に変化のスピードが速くなっているのも実感しているんですよね。以前は世代交代に25年かかっていたものが、今では5年で変わる。僕と娘たちの世代とでは考え方も違うけど、(彼らは)5、6年で自分たちの考え方を大きく変えたりもできる。(それを考えると)すべては正しい方向に進んでいると思うんです。だからこそ、この映画にはちょっとした時限爆弾的要素として、「我々は果たして方向転換するのに間に合うような速さでいま変化できているのか?」。という問いかけが入っています。手遅れになる前に、我々は方向転換を果たすことができるのでしょうか?
――先行して出ているリアクションやレビューはとてもよく、人によっては「シャマランが帰ってきた!」などと言っています。『シックス・センス』、『アンブレイカブル』、『サイン』以降、たくさんの映画を手掛けてきた監督ですが、人によっては初期の作品がベストだったという人もいます。これについてはどう思いますか?
そんな風には一切考えませんね。そんな風に「(映像作家の作品に関する)ストーリー」を還元し口にするのは簡単だし、まるで『ヴィジット』や『スプリット』が何か決定的なものではなかったかのように言うのは簡単なことです。「おっと、『ヴィレッジ』のことを忘れていた」みたいなね。そういう「ストーリー」には一切関わらないようにしています。それは便利な「ストーリー」なのかもしれないけど、実際にはその10倍は複雑です。『ノック』へのリアクションがいいのは嬉しいです。でも、毎度毎度「戻ってきた!」って言われ続けていて、いやいや、僕はもはやどこに向かっているんだ?って思ってしまう(笑) ずっとここに座っているのにね(笑) まあ、でもそれも良いことだと思っています。ポジティブだし、愛があると受け止めています。どんな「ストーリー」が与えられるにせよ、僕はただ、次の作品の脚本を書き、映画を作るのみです。僕の30年間に渡る映画づくりについて語られる(外からの)言葉に耳を傾けることはないですね。
――今回のカメオ出演について教えてください!
入れるのが楽な場合と難しい場合があるのですが、今回は舞台がキャビンということできっと不可能だろうなと思っていたんです。いつもはそんな感じだとカメオは諦めるのですが、今回はちょっと面白いことを思いついたので周囲に話したらみんなそれで行こうと応援してくれて、それなら撮るか、と撮影しました。実は今回、最初に撮ったシーンでもあったので、あっという間に撮っちゃいましたね。で、カットになるならそれはそれで、と思っていたのですが、エディターがこれは行けると、最終的には使われることになったわけです。
――既に来年4月公開予定の新作が発表されていますが、どんな作品なのか、少しだけ教えて貰えませんか?
『オールド』と『ノック』と立て続けに脚色ものをつくったので、自分のオリジナル企画がちょっと渋滞中なんです(笑)。僕は大抵、散歩している時や休暇中、あるいは一人バスケでシュートをしている時なんかに、アイディアが浮かんでくるので、原作ものの映画を作っている間も幸か不幸かそのプロセスは止まないんですよね。でも色々なアイディアがあるので、とてもワクワクしています。
次回作は、最初は誰かに監督してもらおうと思っていた、自分としても「こういうタイプのストーリーもありだな」という企画なのですが、何だかずっと脳裏から離れず、ウキウキワクワクしている自分がいたので、ああ、もういいや、自分でやろう、と決めたんです(笑) 「サーヴァント」と『ノック』絡み(の仕事)が終わる今週から、本格的に脚本執筆に入るんですが、あとはどのくらい早く書けるかですね。4月に間に合うかどうか? それが問題です(笑)。
――拝見出来る日を楽しみにしていますね。今日は素敵なお話をありがとうございました!
『ノック 終末の訪問者』
監督:M.ナイト・シャマラン
キャスト:デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、
ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリントほか
脚本:M.ナイト・シャマラン、スティーヴ・デスモンド、マイケル・シャーマン
原案:ポール・トレンブレイ著「 The Cabin at the End of the World」
製作:M.ナイト・シャマラン、マーク・ビエンストック、アシュウィン・ラジャン
製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー、クリストス・V・コンスタンタコプーロス、アシュリー・フォックス
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