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松山ケンイチ×長澤まさみ、初共演の二人が入魂の演技で激突する、社会派エンターテインメント、映画『ロストケア』が 3月24日より全国公開中です。
日本では、65歳以上の高齢者が人口の3割近くを占め、介護を巡る事件は後を絶たない。この問題 に鋭く切り込んだ葉真中顕の第 16 回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」、 そして、バトンは渡された」の前田哲監督が映画化。
介護士でありながら、42人を殺めた殺人犯・斯波宗典に松山ケンイチ。 その彼を裁こうとする検事・大友秀美に長澤まさみ。社会に絶望し自らの信念に従って犯行を重ねる斯波と、法の名のもとに 斯波を追い詰める大友の、互いの正義をかけた緊迫のバトルが繰り広げられる。他に鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、藤田弓子、柄本明といった実力派俳優が出演。現代社会に、家族のあり方と人の尊厳の意味を問いかける、衝撃の感動作です。前田監督にインタビュー、本作へのこだわりや俳優陣の演技について、お話を伺いました。
――本作とても素晴らしかったです、ありがとうございます。まずは、プレスシート(映画の資料)に書かれていた「映画は生き物だと思った」というコメントについて詳しくお聞きしたいです。
映画は常に変化するってことですよね。監督が全部コントロールしていると思われがちなんですけど、何一つ思い通りにいかないし、天気が変われば予定も変わりますよね。スタッフの状況にもよるし、キャストさんの方から「こういうのはどうか」と意見をもらうこともあって、良いアイデアが出ればどんどん変えていくわけです。本作は特に時間が無くて、3週間で撮り切らないといけなかったので、現場を進行するテンポは大事にした。
生身の人間が、物語の中の人間を演じるわけですから、そこに変化があるのは当然ですよね。ダイナミズムにすごく力強いものにしてくれました。2人の対決が強烈だったので。他のキャストさん、特に柄本さんのシーンは圧巻です。
――監督は原作を読んだ時、最初にどの様な感想を抱かれましたか?
葉真中さんの国と行政に対する“怒り”ですよね。怒りであり、このままではいけないという熱い〝思い〟。メッセージがズドン!ときましたね。小説ならでは手法で描かれている部分があって、色々な視点から事件が描かれている。映画でそれをやってしまうと、最初から主軸となる部分が分かってしまうので、そうではない部分で(映画を)組み立てたいと思いました。付け加えさせてもらったセリフもありますけど、葉真中さんが言いたいことには共感出来たし、それをエンターテイメントとして世に届けたい。色々なバランスをみて、メインを2人、斯波と大友の対決にしぼりました。
人とは何か、生きるとは何かというテーマを凝縮して、市井の人々がこれからどの様に幸せに生きていくのかという事が描かれていて衝撃を受けたし、映画にして届けたいと思いました。その時に、たまたま松山さんから電話があって、「ロストケア」の話をしたらすぐに読んでくれて。「一緒にお仕事したいね」という話を前々からしていたのもあり、松山さんが「ぜひ斯波をやりたい」と。それが2013年の話です。
――10年前にはそういった話が出ていたのですね。
そうなんです。難しいテーマを描いていますが、エンターテイメントとして多くの人に伝えるためには、スターが出てくれないと厳しい。そういう意味で、松山さん、そして長澤さんが出演を決めてくれたことが大きかったです。松山さんが決まっていたことで、長澤さんも「ぜひ、手合わせしたい」と。それがあの演技バトルに出ていたと思うんですね。魂のぶつかり合いのシーンを全身全霊で演じてくれました。
――おっしゃるとおり、震えるお芝居の連続でした。
僕は本読みとかほとんどしないので、お互いの手の内を明かさないまま、撮影に入ったというか。顔合わせはしたんです、「こういうシーンがあります」と棒読みに近い形で様子だけ見て、あとは本番!と。普通はそこに至るまで、一緒に本読みやリハーサルをするものなんですけどね。2人はプロ中のプロでお互いを信頼しているので、あそこまで自分をさらけ出せたんでしょうね。それが初対面でいきなり出来るということが、この2人のポテンシャルの高さなのだと思います。
――あえて、事前の練習などをせずに対峙するシーンに挑んだということですね。
役柄が役柄なので、撮影中もシーン以外では触れ合わない様にしていましたから、お2人の終わった瞬間の開放感ってすごかったと思います。今、すっごく仲良しなんですよ。完成披露でも、「まーちゃん」「けんちゃん」とか言っていましたね。
――斯波というキャラクターは一概に「こういう人間だ」と言えない人物で、とても難しい役柄ですよね。
斯波はサイコパスではなく、特別な人間ではない、同じ人間なのだけれど僕らと同じ人間なのだと。すごく難しい役柄だし、難しい表情が必要だったのですが、松山さんは見事に演じ切ってくれました。
――法廷や裁判シーンが多く出てきますが、検事や弁護士などの職業の方にお話を聞いたり、何かリサーチをしましたか?
元検事さんにリサーチして、「実際に事件の話をしている時に涙がこぼれてしまう事はありますか?」などの感情の変化についてもお聞きしました。人間なので実際にあるそうです。弁護士さんと元検事さんが、映画も観てくれたのですが、「長澤さんは明日からでも法廷に立って、検事が出来ます!」とおっしゃっていました。それくらい本業の方から見ても完璧だったそうで、驚いていました。
――脇を固める俳優さんも素敵でした。
どの方もすぐにイメージが浮かんでお願いさせていただきました。坂井真紀さんと戸田菜穂さんは難しい役柄で繊細な演技が求められますから、信頼できるお二人にお願いして、さすがの芝居を披露してくれました。(鈴鹿)央士くんは撮影の2年前にお会いしていて、その時はまだ20歳で役柄に対して若すぎたのですが、彼がとにかく素晴らしかったので。オーディションの時のことは今でもリアルに覚えているのですが、彼が自分のおじいちゃんのお話をした時に感情が昂って自然に涙がこぼれたんですね。とても自然に話されていて、すごく印象的で。彼の持っている優しさはこの役にピッタリだし。撮影の直前で「僕は親の将来を考えたことも無かったです」と言ったセリフを足したいと話したら、央士くんも同じことを考えていて「こういう事を言いたかったんです」と言ってくれて。なので、彼自身の言葉でもあるんです。
――皆さんの素晴らしい演技力が際立つ、撮影と照明も美術も素晴らしかったです。
カメラマンは板倉陽子さんという方で、美術は後藤レイコさんという方で。今は男女での違いは無いのだけれど、僕が映画業界に入った時と違って、今は半分くらいのスタッフが女性の時もあります。撮影は、光と影の部分にこだわり、二人の芝居を生かすカメラワークとカット割りに工夫して、検察官室のセットは壁の鏡のアイデアが素晴らしかった。
最後のシーンは、シンプルに二人の芝居だけを撮りたかったので、黒背景にしています。日活の広いスタジオの中、机とアクリル板と椅子のみ。張り詰めた緊張感の中で、見つめ合う二人の表情は、とても神々しいものがありましたね。長澤さんが最後のセリフをどの様に感情を爆発させて告げるかが、最後の松山さんの表情が変わってくると思っていました。二人は期待以上に素晴らしい演技をしてくださいました。
――ロケーションも印象的でした。
最初は諏訪湖の周辺でやろうとしたんですけど、茅野市と伊那市でも撮影しています。伊那市の創造館をメインの舞台、検察官室にしました。広いホールの中に囲いを作って、セットのように使っています。シンメトリーの窓をうまく活かして、コの字型に壁を作って。古い建物なので、物語の舞台となる地方都市のイメージにうまくマッチしれくれました。最後の裁判所の裁判のシーン、法廷も神奈川県の桐蔭学園の模擬法廷なんです。実際の法廷で使われていたものを移築して、授業で使っているものだそうです。
――老や死ということは、自分の家族はもちろん、自分もいずれ降り掛かるものですから、たくさんの方に観ていただきたいと思います。
「考えさせられる映画」というと、難しそうだなと思って劇場に足を運びづらい方がいるかもしれませんが、今日も松山さんと連絡をしていたのですが、人間ドラマ、エンターテインメントとしてまずは観て欲しい。斯波も大友も同じ人間だし、多くの人と同じ感情を持っています。そこから感じたものや、思ったことを、友達や家族と話してみるきっかけになると嬉しいですね。2人をはじめとする、素晴らしい俳優陣の姿が多くの方に届いてくれることを期待しています。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
『ロストケア』
全国公開中
(C)2023「ロストケア」製作委員会