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数々の名コラムを世に送り出してきた高山真の自伝的小説「エゴイスト」。主人公の浩輔役に鈴木亮平、浩輔の恋人となる龍太役には宮沢氷魚、さらに浩輔の父親役に柄本明、龍太の母親役に阿川佐和子を迎えて映画化。昨年の東京国際映画祭ではコンペティション部門に選出され上映回ではほぼ満席回が続き、「アジア全域版アカデミー賞」と言われるアジア・フィルム・アワードでは公開前でありながら、そうそうたるヒット他作品とともに主演男優賞・助演男優賞・衣装デザイン賞の3部門でのノミネートが発表され、国内だけてなく海外からも話題を集めた本作が上映中です。
本作の監督を務めた松永大司監督に作品へのこだわりについてお話を伺いました。
――映画、拝見させていただきました。本当に素晴らしかったです。試写室中に啜り泣きが聞こえていて。人によっても泣きどころが違うのかなと思います。私は2人がお酒を飲んでいるシーンが泣けてしまって。
あれは、本当に良いシーンだと思います。僕もとても好きなシーンです。
――出演者の方にかなり寄っているカットが多いと思います。実際にカメラで寄っているのでしょうか? それともレンズなどを切り替えていますか?
実際に物理的に寄っています。すごく近いところで。時々、顔から10cmくらいの距離でとることもありました。
――ドキュメンタリーっぽく撮影したいという意図もあったのでしょうか。
そうですね。僕がドキュメンタリーを撮ったり、劇映画を撮ったり、フィールドを行ったりきたりする中で、自分でよくカメラを回すんですけど。被写体とカメラの距離って信頼関係だなと感じます。レンズで寄る時もあるんですけど、なるべく基本的にはフィジカルで距離を作っていこうと思っているので、今回もそうしました。
――映像がすごく綺麗でした。映像的なこだわりはありますか?
浩輔の住んでいる家の窓がすごく大きいので。自然光を上手く使えたら良いなと、撮影の池田と照明の舘野さんと話をしていました。「柔らかい雰囲気を出したいね」とか「昼と夜の差を作ろう」という話をしていました。
――大きな窓、素敵でした。間取りも面白くて素敵なマンションですよね。
そうなんです。実は『ドライブ・マイ・カー』(2021)で西島秀俊さん演じる家福が住んでいる部屋と全く一緒なんです。偶然なんですけどね。
――言われてみれば確かにそうですね! 家具によっても雰囲気変わりますね。
部屋に飾っている大きな絵は、僕の知り合いのアーティストの高山夏希さんの作品になります。浩輔のキャラクターとして現代アートを飾りたいなと考えたときに、本物の現代アーティストで、若手で、力がある人が良いなと思って、彼女のアトリエに探しに行きました。そこで見つけた作品をとても気に入って、すぐにプロデューサーやカメラマンに「この絵を使いたいです」と話をすると皆も気に入ってくれたので、この絵を飾れる家を探したんです。壁が広いところを。絵が相当大きいので。
――浩輔は、持ち物一つ一つにこだわりがあるキャラクターですよね。映画の中の小道具も細部までこだわりを感じます。
美術はシンプルに引き算する方向にして。洋服はブランド物…ヴィトンとかGUCCIを使わせてもらっています。亮平は何でも着こなしてくれました。
――音楽もとても素敵で、美術やロケーションや小道具へのこだわりに俳優さんたちの素晴らしい演技があって。陳腐な言い方になってしまいますが、本当に登場人物たちが実在しているような感覚になる作品でした。
嬉しいです。近くに感じてもらえると良いなと思っているので。
――最初にお話があってから時間が経っての制作だそうですね。
2019年にプロデューサーの明石さんから映画化しませんかと言われて、そこからシナリオ直したりキャスティングしたりっていうのが2021年なので。撮るまでに時間がかかって。いますね。
――最初に監督が「こういう映画を作りたい」と思ってから数年が経ちましたが、変化はありましたか?
全然ブレていなかったです。もちろん気持ちの変化はあったと思いますけど、あまりブレなく作れました。
――本作を作る上で色々とリサーチもされたと思います。印象に残っていることはありますか?
LGBTQのシーン全般をリサーチしたというよりは、原作を書かれた高山さんの人となりを生前付き合いがあった方に聞いたりしていたので。高山さんという方を知る旅を、リサーチしていたので。個人的なことを知る感じでしたね。発見というか。亮平自身も自分で取材をしていて。本人が吸収したものと僕が吸収したものをクランクイン前にお互いにすり合わせをして撮影に入りました。
――とてもたくさんのこだわりがつまっている作品ですが、今回の映画の撮影で一番大変だったことはなんですか?
色々な大変さがありましたが、クランクインするまでが一番苦労したと思います。色んなものを決めて準備をしていくという所です。この映画のスタイルというか、ほぼワンシーンワンカットで、手持ちカメラで撮影をするということを、必然性を持ってポジティブに決断するまでの経緯というか。この作品の予算や環境の中で行っていく。例えば、予算が1億あったとしても、それより1億5千万が良いのは当たり前だし、撮影は10日よりも20日のほうが良い…それを言い訳にしないで、制限があったからこそできたものとか。色々な状況をポジティブに受け入れて、必然性を見出していくというのを、クランクインまでに行うことが僕の大きな仕事だなと思いました。「本当はこうしたかったけど、できていなかったよね」ではなくて、この映画だからこそ、これを選んだんだ!って思える選択をしたかった。プリプロダクションがすごく重要だなと思うので、大切にしました。
――監督の他の作品に比べても時間をかけましたか?
プリプロダクションは、いつもすごく時間をかけますし、いつも大事にしていると思います。今までの経験で積み上がってきたものを今回、試した感じです。
――宮沢さんと鈴木さんは、撮影を重ねる中で、どんどん親密になっていく雰囲気はありましたか?
そうですね、物語の中と一緒でした。映画の中で出会って、映画の中で別れていくから。その距離感を自然と作っていたと思います。出逢ってキスをしてセックスをして、2人で素敵な時間があって…っていうのを役として距離や空気を作ってくれたと思います。
――どんどん引き込まれました。阿川佐和子さんも素敵な演技をされていいました。阿川さんは女優さんだけをされている方ではないですが、今回ご一緒していかがでしたか?
役者専門でやってる人じゃないからこそ魅力的で。亮平と氷魚が役者としてタイプが違う中で、さらに阿川さんみたいな存在が入ることで3人の化学反応が面白かったんですよね。阿川さんは人間的な魅力がすごくあるので、「そのまま妙子に投影してください」と言って。阿川さんが生きてきた時間が妙子を作ってくれていました。
――会ってすぐに好きになってしまうような、お母さんですよね。アパートの中で流れる時間がとても優しかったです。
生活や環境が苦しい中、一人で息子を育てている状況ではあるけど。「辛いんですよ」と描くよりは、そんなのは大前提で元気に楽しく生きている人の方が魅力的だなって思っています。当然、心の中では色々と考えていたとしても、妙子には楽しく過ごしてほしいと。浩輔を招いて出す料理も、身の丈にあったメニューなのだけど美味しそうでおもてなしになっていて。
――プレスの中の監督のインタビューの、「当事者じゃない人がとやかく言って、結論を出そうとすることへの疑問」という言葉は、私も常日頃、そう思っているのでとても響きました。
プロデューサーの明石さんから原作を渡された時に、僕もそういうふうに日々思っていることがあったからこそ撮りたいと思いました。直接的に見た人が感じるかどうかわからないですけど、自分の中では、描けたと思っています。
――浩輔が、お母さんにお金の話をするときの表情はすごくハラハラしました。監督から「こうしてほしい」というリクエストをされたのですか?
阿川さんには、「受け取りたくなかったら受け取らなくて良いです」と伝えました。そして、亮平には「絶対に受け取らせて」と言って。台本では、もちろん「受け取る」と書いてあるのですが、阿川さんには、「台本に書いてあるけど、台本に書いてあるからって、その通りにしなくても良いですから。どうしても受け取らないと、という気持ちを浩輔から感じられたら受け取ってください」って、それだけ言いました。
――では、あのシーンが何分になるのか分からないくらいだったのでしょうか。
そうです!台本では1、2回やりとりをして受け取るのですが、本番では、行ったり来たり。まだ受け取らないかって。でもそれは、阿川さんがしっかり妙子になっているから。本当に「すいません、すいません、ごめんなさい…」って言って、阿川さんが受け取る時の顔は、もうなんとも言えないっていうか。すごく良いシーンが撮れたと思います。あのシーンを撮れたことが、この映画にとって本当に大きいと思います。あれが「エゴイスト」の一つのテーマなので。
――同じシーンでも俳優さんごとに違うことを伝えるという演出は他のシーンでもされていますか?
あります、ほとんどです。台本があるから決着はついているんですけど、基本的にはその人なりのテーマっていうか、向かう方向を紙で渡しています。リハーサルの時から、やっているんですよね。居酒屋のシーンでも、それぞれのテーマを渡して。「今こういう話をしたいと思っている」とか。で、それぞれの思惑がぶつかるところにリアリティが出てくるというか。台本だと順番が決まっているので、誰かのセリフを待っちゃうじゃないですか。
――ダイエット中なのに「ピザが口の中に飛び込んできちゃう」といったセリフがとてもイキイキしていて楽しいシーンでした。
あれ、台本にはないです。書けないです、あんなセリフ(笑)。あれは、その場で生まれました。
――すごく素敵ですね。監督は、いつもそういう演出方法ですか?
『トイレのピエタ』(2015年公開、松永監督初の長編映画)の時から、台本はもちろんありますけど、シーンを立ち上げるために紙を渡して、それぞれの役割を持ってもらうというリハーサルを必ずします。驚いた顔や反応って、相手の行動がわからないことで生まれるので、それを作りたいなと。
――本作の中で浩輔が眉毛を描くことで気持ちを切り替えていますが、監督にとってもスイッチが入る瞬間ってありますか?
音楽ですかね。その時々でテーマ曲があって。朝起きて好きな曲を家出る前まで聞いて、気持ちを持って行ったりしています。この映画の時は、C&Kが和田アキ子さんの楽曲をカバーしている『愛の光』。LGBTQ+inclusive directorのミヤタさんが教えてくれてずっと聴いていました。
――ありがとうございます、聴いてみます! 改めて、タイトルの「エゴイスト」についてですが、ネガティブな意味で使われることが多い言葉ですが、この作品を見ると色んな考えができますね。
そう思います。時に、ネガティブなだけじゃない意味があるのかなと。この映画って人によって見方や感想も変わると思うんですけど。観た後に、その人たちなりの色んなご意見が出るだろうなと思っていて。それを、他の人と、キャッチボールできるようなものになれば良いなと思っています。まずは観てもらって、何を感じたのか知りたいし。で、ある人は「こう感じた」、別の人は「こう感じた」って感じ方が違うと思うんですね。それが価値観の違いであり、良いと思っていて。それを話してみたりする所まで行くといいなと思っています。お茶をしながら、ご飯を食べながら「エゴイスト」ってなんなんだろうっていうこととか「愛ってなんだろう」ということも含めて、考えてくれたらいいなと。
――私も心からそう思います。今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!
<ストーリー>
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分の姿を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔(鈴木亮平)。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし2人でドライブに出かける約束をしていたある日、何故か龍太は姿を現さなかった。
<作品情報>
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚
中村優子 和田庵 ドリアン・ロロブリジーダ/柄本明
阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子 音楽:世武裕子 企画・プロデューサー:明石直弓 プロデューサー:横山蘭平 紀嘉久 ラインプロデューサー:和氣俊之 撮影:池田直矢 照明:舘野秀樹 サウンドデザイン:石坂紘行
録音:弥栄裕樹 小牧将人 美術・装飾:佐藤希 編集:早野亮 LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉 スタイリスト:篠塚奈美 ヘアメイクデザイン:宮田靖士 ヘアメイク:山田みずき 久慈拓路 助監
督:松下洋平 制作担当:阿部史嗣 制作プロダクション:ROBOT 製作幹事・配給:東京テアトル 製作:「エゴイスト」製作委員会(東京テアトル/日活/ライツキューブ/ROBOT)
< R15+> (C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
公式ウェブサイト:egoist-movie.com 公式 Twitter/公式 Instagram:@egoist_movie
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