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2018年にシアターコクーンで上演され、各所から絶賛を浴びたオリジナルの舞台を、脚本・監督・三浦大輔×主演・藤ヶ谷太輔が再タッグを組み映画化が実現した『そして僕は途方に暮れる』が、1月13日(金)より公開となります。
本作は、藤ヶ谷太輔演じる主人公の平凡なフリーター・菅原裕一(すがわら・ゆういち)がほんの些細なことから、恋人、親友、先輩や後輩、家族…と、あらゆる人間関係を断ち切っていく、人生を賭けた逃避劇。脚本・監督を務めるのは、『愛の渦』『娼年』などを世に送り出してきた三浦大輔さん。本作へのこだわりについて、お話を伺いました。
――本作楽しく拝見させていただきました。ご自身が手がけた舞台の映画化ということで、映画だからこそ描けた部分などを教えてください。
背景というか、街が描けることが大きいですね。舞台では抽象的に想像して描いたんですけど、今回は街の雰囲気も深めてリアリティを持って描けました。舞台で、藤ヶ谷くんの振り返る表情とか、何かを見上げる表情が良くて印象に残っていたのですが、劇場だと細部まで見れなかった方が多いと思います。映画だと、アップで表情を映すことが出来るので。
――舞台は4年前の公演となりますが、この時間の経過も映画作りに影響がありましたか?
4年前と時代も大きく変わったので、この物語が、果たして今の時代に相応しいのかどうか。古臭く思われないかっていう心配はありました。今、人間関係においても、そんなに密に関わらなくても成立する、それでも良いとされているので。少し前は、主人公の孤独感だったり行き詰まった感じが出ると思ったんですけど、今はそんなにないのかな、とか。舞台では、携帯電話の連絡先全部に連絡できなくなって自分ひとりになったら、どうなんだろう?という恐怖感を描いたんですけど。今は、それはそれで良いって価値観に変わっている感じもしました。
――舞台の公演があった2018年の方が、「自分ひとりになる」という事のどん詰まり感があったんですね。
そうですね。だから映画の方はコメディに寄ったんです。コメディ的に捉えた演出を入れないと、リアリティだけじゃ乗りきれないなぁと思ったんですよね。コメディとして見ていたただきたいと思っています。
――主人公の菅原裕一にとにかくイライラしてしまいました(笑)。
良かったです。逃げる方の人間は菅原にすごく共感してくれるんです(笑)。「これは自分だ!」って。一方で、里美の方はたまったもんじゃないっていう(笑)。共感と反感にはすごくこだわっていて、「なんだこいつ」と感じる人と、「こいつの気持ちわかるよ」という人、二分するところが、この話の面白いところだなと思います。
逃げる方は逃げる方で、色々と葛藤があって逃げているんですよね。しかも逃げている理由がどうでも良いことですからね。謝れば済むことなんでしょうけど(笑)ただ、謝れないっていう。逃避劇を、こういう形で描いている作品は映画としてはなかったのかなと。
――監督ご自身は、逃げる側と逃げない側、どちらに共感出来ますか?
逃げることもありましたし、逃げ癖がついちゃっている所があるんですけど、僕は気が小さいので、途中で謝っちゃいますね。菅原みたいに「もう謝るの嫌だな」とか、「どうせ怒られるんだろうな」とか思いますが、完全に逃げちゃう人と違って、僕は最後までいけないので引き返しちゃいます。僕みたいなタイプの人が、一番多いのかな、とも思いつつ。
――おっしゃるとおり、裕一の様に完全に逃げてしまうというのはすごいです。藤ヶ谷さんと再びご一緒して、数年前の舞台からの成長は感じられましたか?
舞台で(演出を)みっちりやったので、3年経ってご一緒しても、菅原という役にすぐ馴染んでくれて。「舞台の時より菅原になってるな、藤ヶ谷くん」と思いながら。舞台の時は稽古場での演技になりますが、映画では実際に北海道に行ったので、心情が乗り移りやすかったというか、そこから演技も乗れたのかなという感じはしました。段々と肌で体感していくというか。演劇は「稽古で」って感じですけど、映画は外的要因で役に入っていくことができるので。その辺は舞台と違うなと思いました。
――そもそもの話になってしまいますが、舞台が公演されている当時、菅原というキャラクターを藤ヶ谷さんが演じるというのは意外性を感じて。本作で改めて、意外なのにハマっているのがすごいなと思いました。
こういう役を藤ヶ谷くんがやっているのは無いですよね。バラエティ番組などで、藤ヶ谷くんの佇まいを見ていて。かっこいいんですけど、どっか可愛げがあるし、何やってもちょっとだけ間抜けなところが、こぼれ落ちるというか。そういう所が菅原にハマるかなって。これまでやってこなかった藤ヶ谷くんの役柄を、演出家としては、一番最初に見出したいという気持ちも強かったので。結構、思い切ったキャスティングだったんですけど見事にハマったので、本当に良い出逢いだったと思います。
――とても素敵です。
最初に台本をもらった時、藤ヶ谷くんは、やっぱり分からなかったそうなんです。藤ヶ谷くんは逃げる体質でもないし、どうやって演じばいいのか迷っていましたけど、途中で僕とコミュニケーションとって、僕を観察しだしてから、体に入っていったっていう感じがします。そこのヒントが僕しかなかったってことだと思うんですけど。
――そうですよね。若い時から、ずっと真面目にお仕事やってきているので、なかなか菅原の気持ちを察しづらいというか。
こんな、どうでもいいことで逃げるなんてしないから、今の藤ヶ谷くんがあるのだと思うので(笑)。だから、そこを実感として体感することは難しいんだろうなと。その上で演じ切ってくれた藤ヶ谷くんの功績は大きいなと思います。
――舞台版から引き続き同じ役を演じている俳優さんいる中で、映画から登場となったキャラクターもいます。
錚々たる面々が集まって、よく皆さん、受けてくださったなと。役どころをしっかり理解してくださって、共感して、演じきってくださったと思います。作品の面白さを理解してくださらないと、演じるのは難しいと思うので、そこら辺を原田さんも豊川さんも理解してくださったことが嬉しかったです。
――監督は原作もの監督や脚本も、本作の様なオリジナル作品も手掛けられています。それぞれの難しさや楽しさということはどんな所に感じていますか?
オリジナルは自分の考えた話ですので、言い訳出来ないですね。原作は原作のファンの方に何を言われるかという怖さがありますが、オリジナルは別の怖さというか。なんにも言い訳が効かない自分だけの責任という怖さがあります。
オリジナル作品というのは、ゼロからイチを生み出さないといけないので。普段、何気なく思ったことから発想を広げて書くことが多くて、本作も、実生活でふと感じた想像から物語を紡いでいって。本作については、「中途半端な人間の終着点」は何かという展開は結構悩んで苦労しました。
――本作はもちろん、監督の作品は人物描写が良い部分も悪い部分もとてもリアルで。普段から人間観察をよくされていたりするのでしょうか?
ちょっとはしますけど、全部自分の投影だったりしますね。自分にある要素を役に振り分けているっていう感じです。登場人物みんなに、どこか僕と共通している部分があると思いますね。変に悪者もいないし、すごい善人もいないし。自分の中にあるものでやっているから自ずとそうなっていくのかなと思いますけど。色々な取材をして、たくさん人の話を聞いてインスピレーションが沸く人もいると思いますが、僕は自分の体験の中でしかリアリティを持った話が描けないので。
――どのキャラクターにもご自身が投影されているというのはすごく面白いですね。映画を観た後に「こういう人いるよね」と会話が盛り上がる作品でもあると思います。
一番の議論は菅原の逃げるという行為についてですよね。「全然あるでしょ」っていう人と「逃げないでしょ」っていう人がいるでしょうし。菅原が逃げた行動に対する皆さんの価値観というか、意見は聞きたいなと思っています。
僕の映画は映画っぽくないというか…。俗っぽい話だから、大の映画好きには刺さりづらいところは正直、あるのかなと考えたりもします。そんなに高尚なものは望まないで(笑)、エンタテイメントとして2時間、楽しんでいただけたら嬉しいですけどね。
――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
撮影:オサダコウジ
【ストーリー】
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人・里美(前田敦子)と、些細なことで言い合いになり、話し合うことから逃げ、家を飛び出してしまう。その夜から、親友・伸二(中尾明慶)、バイト先の先輩・田村(毎熊克哉)や大学の後輩・加藤(野村周平)、姉・香(香里奈)のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母・智子(原田美枝子)が1人で暮らす北海道・苫小牧の実家へ辿り着く。だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけず、かつて家族から逃げていった父・浩二(豊川悦司)と 10 年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが――。
【クレジット】
藤ヶ谷太輔
前田敦子 中尾明慶 毎熊克哉 野村周平 / 香里奈
原田美枝子 / 豊川悦司
脚本・監督:三浦大輔
原作:シアターコクーン「そして僕は途方に暮れる」(作・演出 三浦大輔)
音楽:内橋和久
エンディング曲:大澤誉志幸「そして僕は途方に暮れる」
製作:映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会 制作プロダクション:アミューズ 映像企画製作部 デジタル・フロンティア
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会