『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』の刊行を記念した対談の後編では、同書の表紙ビジュアル決定の経緯やスタッフ各氏の取材が実現するまでの苦労、そして多くの必殺ファンから寄せられた反響に対する思いなど、エキサイティングな話題がいくつも飛び出した。

高鳥都(『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』著者)
秋田英夫(ライター/必殺党)

電子書籍では味わえない紙ならではの魅力

秋田:  『必殺シリーズ秘史』の表紙についてですが、これは『新 必殺仕置人』の第8話「裏切無用」のスチールなんですね。中村主水(藤田まこと)が悪党の金見庄兵ヱ(伊達三郎)を袈裟がけに斬る最高の「仕置」シーンですが、表紙をこの“シルエット”写真一枚にした決め手は何だったのですか。

高鳥:  最初からシルエットで行こうとは思っていませんでした。立東舎の編集・山口一光さんと大阪の朝日放送で写真データを選んでいたとき、たまたま「裏切無用」のこの写真を見つけました。本書にも登場するスチールマンの牧野譲さんの仕事ですが、本編とは違ったアングルかつ動きの「ブレ」という躍動感もある見事な一枚です。最初は「必殺50年だから、表紙は藤枝梅安(緒形拳)かな、それとも中村主水かな」と漠然と思いながら、表紙の上下に人気の高いキャラクターを何人か配置するようなアイデアも考えていたんです。でもこのシルエットの写真を見たとたん「これだ!」と惚れ込みまして、僕の大好きな高坂光幸監督回でもありますし、これで行きたいと推したんです。版元の会議では意見が割れたそうですが、同じくシルエットに惚れ込んだ山口さんが押し通してくれました。

秋田:  斬っているのは中村主水ですけれど、殺すほうも殺されるほうもはっきり顔が見えない。見えないからこそ、いろんな思いをそこに投影できる。

高鳥:  まさに「必殺の概念」をビジュアル化したものがこの一枚、という感じでした。光と影という言葉がありますけれど、この本は必殺シリーズを作りあげた裏方、スタッフのみなさんの言葉で出来ているわけなので「影」を活かした表紙がいいんじゃないかなと思いました。本ができたあと、高坂さんにお電話で表紙のことをお伝えしたら「ありがとう」と何度も言ってくださって、嬉しかったです。

秋田:  いいお話! 表紙のタイトル文字についてはどうですか。

高鳥:  従来の「必殺シリーズ」関連の書籍では使っていないような、細身でクセのある明朝体ですよね。これはデザイナーの木村由紀さんのアイデアで、黒が主体の表紙に、白い明朝体が映えて相乗効果を生んでいます。素人目には最初そのシンプルさが不安で、白と黒しかないから文字を赤にしたらどうだろうと提案したんですが、木村さん的には「ありえない」ということでした(笑)。ごもっとも。でも帯をデザインされる際にその赤を活かしてくださり、これがワンポイントとなって売り場で際立つよう、印象を強めたと思います。

秋田:  最初にページをめくると、真っ黒で何もない。続いてめくると、『必殺仕掛人』のオープニングナレーション(作:早坂暁)、そして次のページには、仕掛針を手にする藤枝梅安があるという、まるで劇場映画の導入部分を観るようなワクワク感がある構成でしたね。

高鳥: 物理的にページをめくる「紙の本」の醍醐味を、読者の方たちに感じていただきたいという狙いです。電子版は今回出していないのですが、電子書籍では味わえない紙ならではの魅力って、大切にしていきたいです。カバーを外した本体表紙が赤なのも、梅安や念仏の鉄(山﨑努)の赤い襦袢を連想された読者の方が何人もいて「なるほど!」と思いました。

秋田:  扉を開くとポップアップ(飛び出す本)になっていて、念仏の鉄の指が読者の喉を「ボキッ、ボキリッ」と砕くギミックなんてアイデアはどうでしょう。最初のページって読者がいちばん油断するところですから、そこを狙うんです(笑)。

高鳥:  読者の命を狙うんですか!(笑)

キーマンだった都築一興監督

秋田:  今回取材された方たちのほとんどが京都、あるいは近畿圏にお住まいですから、インタビューの随所に京都弁、関西弁が出てきていますよね。方言の中でも関西弁は全国的に広く知られているほうだと思うんですけど、それでも独特な言い回しを文章で表現するのは、難しかったと思います。読み進めていくと、まるでみなさんの声が聞こえてくるかのような、活き活きとした言葉が飛び交っているのが印象的でした。

高鳥:  口調の再現などは、ある程度はそのまま文字に起こしただけではありますけれど、関西出身の秋田さんからそう言ってもらえるのはありがたいです。

秋田:  撮影所ならではの専門用語もバンバン出てきますけど、そのつど高鳥さんが簡潔かつ的確な説明をされているので、思った以上にすんなり頭に入りますね。一方で、記録(スクリプター)の野口多喜子さんのインタビューで印象に残るのは、ほかのスタッフは「さん」や「くん」付けなのに、松竹プロデューサーの櫻井洋三さんだけ呼び捨てで「わたしは洋三なんかアレやし」みたいに言われていたところ。アレとは何か、あえて高鳥さんがそれ以上つつかないのも、すごく良かったです。

高鳥:  アレがどういう意味なのかは未だに謎ですが、現場のボスへの親しみを込めた敬称略なんでしょうかね。御年89歳の櫻井さんには序文を寄せていただき、献本が届くや「ほんで、売れてますんかいな!」と聞かれて、さすがはプロデューサーだと思いました(笑)。宣伝せなあきまへんで、と。おタキさん(野口さんの愛称)のお話はとても興味深かったですね。けっこう際どい話もあったので、ご本人チェックで切られるかな? と思ったところも全部OK。大きな修整はなかったのですが、細かい直しはいくつかありました。語尾を整えてくださって、「しはった」を「してはった」みたいな、言い回しの部分です。

秋田:  それは野口さんのお気持ち、すごくわかります。一文字変わったら他人に与える印象がぜんぜん違ってくるし。大阪で知らない人から「おっちゃん」と言われても平気で、何なら親しみやすさすら感じますが、「おっさん」だと誰がおっさんやねん! みたいに険悪な空気になりますから(笑)。

高鳥:  そんなに違うんですか(笑)。ある程度文章にするため、中身は整理していますが、どなたに対してもお話されている方のキャラクター性がなんとなく伝わるよう、言葉遣い、言い回しはできるだけ自然な形で残すようにしました。

秋田:  それにしても、30名ものスタッフ、キャスト諸氏にロングインタビューを行い、一冊の本にまとめるというのはとんでもない労力がかかったと思います。何事にもはじめの一歩があったと思いますが、お1人目から2人目と、コツコツ取材を重ねていかれた根性と熱意には、まったく頭が下がります。

高鳥:  「必殺シリーズのスタッフ証言本」という企画を定めた最初の構想では、この本の中の15人くらいの人選だったのですが、それだと既存の書籍と同じになりかねないなと思いました。「やるなら徹底的にやれ!」という工藤栄一イズムです。最初に雑誌『昭和39年の俺たち』でインタビューをお願いしたのが、すでに京都映画(現・松竹撮影所)を離れて長かった都築一興監督でした。『必殺仕事人』の「登城する大名駕籠はなぜ走るのか?」で監督デビューされた方で、早朝の大名行列を襲撃する異色作であり、僕は『十三人の刺客』など大名行列フェチな性癖があるので、ぜひお話を聞きかかった……。考えてみれば、まだ単行本のお話をいただく以前、雑誌取材のアポ取りをするのもけっこうハードルが高かったんです。都築さんには電話で取材のOKをいただいたのですが「もしもし、昭和39年の俺たちですが」って、口頭でこちらの意図をお伝えできるのか心配でしたし。

秋田:  昭和39年の俺たち……団体さんでっか、みたいに誤解されたら大変(笑)。

高鳥:  『週刊プレイボーイ』の編集者が「プレイボーイの◯◯ですが」と電話するのと同じパターンですね(笑)。いきなりの取材依頼を受けてくださった都築さんは、本当にすごいなと思いました。もしも都築さんに取材を断られていたら……。

秋田:  本書の存在はなかった……は言い過ぎですが、もしかしたら必殺50周年の今年には出なかったかもしれないですね。

高鳥:  都築さんのお話がすごく面白く、興味深い内容だった上に、奥様が元スクリプターの杉山栄理子さんだとうかがって、そのまま「必殺シリーズ深掘りインタビュー」と題された連載に発展しました。これは評判になるなという確信がありましたし、途中からは単行本化も視野に入れるようになりました。都築さんは撮影所の取材にも同行してくださり、ほんとうにお世話になりました。昔の仲間との再会を喜ばれると共に、インタビューの合間にさりげなく絶妙なタイミングで助け船を出してくれて、とてもありがたかったです。都築さんが取材に立ち会われたおかげで、当時の撮影に関わっていた人にしか知り得ない出来事がポンポンと飛び出して、内容が非常に充実しました。まず初対面のライターでは引き出せないようなエピソードもあったと思います。都築さんや録音技師の中路豊隆さんの交渉なしでは取材ごと実現できなかった方もいるので、ほんとに陰に日向に支えていただきました。

秋田:  何人かの方が「せっかく本にしてもらうんやから、これだけは言うとかなあかん」とおっしゃっていたのは、ファンとして感動するしかないですよ。「まさか俺のところに話を聞きに来てくれたのか」という驚きと喜び、長年映画の世界でやってきた自分の経験を記録に残しておきたい職人の意地のような気持ちまで感じられ、素敵でした。

高鳥:  念を押していた方、多かったですね。「ここだけは書いてや、残してや」って。原稿チェックの戻しでエピソードを足してくる、うれしい悲鳴もありました。「あと3行削ったら写真が入れられる!」みたいな作業をやっていた最中でめっちゃ追い詰められてましたが(笑)。

秋田:  あとは「いろいろ話したけど、うまいことまとめておいてください」なんて言われる方も(笑)。ああいった一種の照れ隠しみたいな言い方には、独特のダンディズムを感じます。

高鳥:  みなさん京都の職人だから偏屈だったり、シャイな方もいますよね。だいたい初期のシリーズから参加されていたメンバーですが、それこそ『必殺仕掛人』の立ち上げから今も現役の石原興さんや照明の林利夫さん、編集の園井弘一さんがいらっしゃる一方で、撮影所を離れた方々も出てきます。正直なところ現役組を取材するだけでも書籍になると思うのですが、それでは広がりに欠けます。照明の南所登さんなんて別の作品の思い出が多くて、「必殺はぼくにとって敵ですわ(笑)」とぶっちゃけたり。しかもそれがインタビューの「キャッチ」になっていて、やたらと目立つ。あのキャッチをつけたのは山口さんですから(笑)。あんなこと言うインタビュイーも、あんなキャッチをつける編集者もすげえなと思いました。

秋田:  南所さんのお話もすごく面白かったです。同じ京都映画スタッフの方が「必殺」のことを、少し離れたポジションから語られていて、読者の視点を拡げる役割を担っていますね。

高鳥:  会社と一緒でいろんな派閥や人間関係がありますよね。南所さんは電話取材だったのですが、それはなかなかお話を聞きに行くスケジュールがハマらなかったからなんです。リスケのあと「俺は電話では話さへんぞ」と言われるのを、なんとか食い下がって「じゃあ10分だけやぞ」と了承してもらい、結局1時間以上お話してくださいました。

秋田:  最高ですね! 本書に登場された方たちがそれぞれ、50年前の『必殺仕掛人』第1話「仕掛けて仕損じなし」(監督:深作欣二)から始まり、『必殺仕置人』『助け人走る』『暗闇仕留人』……とシリーズ各作品のエピソードを作り上げていく中で体験された出来事を、細かな部分まで詳細にご記憶されているのがすばらしかったです。

▲南所登氏インタビュー記事より

粘った末に実現した美術セット図面の掲載

高鳥:  『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』というタイトルは編集サイドのアイデアですが、あのタイトルを企画書に載せて取材を申し込んでいますから、みなさん「告白せなあかんのかな」と思ってしまったところがあるかもしれません。今だから話せる赤裸々な裏話というのはそんなに聞けなくてもいいかなという気持ちでしたが、想像以上にいろいろなお話をしてくださったなと、ありがたく思いました。松竹撮影所が個室を用意してくださって、そこでじっくり長時間、ときに映像を観ながら取材できたのも大きかったですね。

秋田:  東京から、京都の撮影所を中心にした関西方面へ取材に行かれるのは、今のご時世たいへんだったと思います。

高鳥:  合計3回、京都に行きました。意外と少ないんです。『昭和39年の俺たち』の連載で都築さんご夫妻や、撮影の藤井哲矢さん、演出部の皆元洋之助さんの原稿がすでに出来ていましたが、本書を作るにあたって、2022年の3月下旬から7月下旬までの3回京都入りし、取材をしました。1度目はプロデューサーの櫻井洋三さんと都築さんにご挨拶して、殺陣師の布目真爾さんのお話をうかがいました。撮影所でスタッフの方々にガッツリと取材をしたのは6月下旬と、7月下旬の2回……だから実質の取材・執筆期間は2ヶ月くらいでした。「必殺シリーズ」の撮影現場ばりの強行スケジュールでしたね。

秋田:  本書には撮影、照明、録音、演出部、製作部、編集、効果……とさまざまなスタッフの方たちの貴重なお話が収められていますが、特に高鳥さんが本書で聞いておきたかったのは、どのパートですか。

高鳥:  美術パートの仕事ぶりを残せたのがよかったと思いました。石原さんのインタビューなどでも何度か出てくる必殺名物の「光と影の映像美」と呼ばれる撮影・照明のテクニックは、美術セットの粗を隠すために編み出されたと言われていますが、実際はそれだけでなく表現のためでもあります。しかし予算やスケジュールの問題で、必殺シリーズにおいて美術が割りを食ってきたのも事実です。さかのぼりますと映画の全盛期、大映や東映に比べて松竹の時代劇は存在感が薄くヒット作にも恵まれなかった。1965年に太秦の松竹京都撮影所は閉鎖となって、その後で京都映画(現・松竹撮影所)が移転します。

秋田:  そのあたりの変遷、松竹京都と京都映画のスタッフの関係性なども語られていましたね。「必殺シリーズ」に企画成立までの“誕生前夜”があるのと同様、スタッフ各氏がいかにして『必殺仕掛人』の現場に集まってきたか、その経緯が各証言によって明かされたのはすばらしきことです。美術の方々にお話をうかがったときのエピソードを教えてください。

高鳥:  これまで注目されることが少なかった「必殺シリーズ」の美術ですが、もちろん美術は映画を作る上で重要なセクションです。単行本化に際しては、絶対に取材しようと決めていたのですが、初期から長らく美術デザイナーを務めていた倉橋利韶さんは、ご高齢で取材が難しく、他の方々もすでに故人で一度「美術」パートが消滅しそうになりました。でも他のスタッフさんたちの取材が進んでいく中、やはり美術がないのはバランスが悪いと思い、何度か交渉したところ、ご家族の方のご厚意で倉橋さんが丁寧に保管されていた「必殺」の美術セット図面や仕事用のノートを見せていただき、これらを掲載することができました。倉橋さんの助手を務めた原田哲男さんからもお話をうかがえたのですが、これは装飾の中込秀志さんに撮影所の小道具倉庫を案内していただいたあと美術ルームに足を運んだら、たまたま原田さんがいて実現しました(笑)。

秋田:  中村主水の住む八丁堀・同心組屋敷の外観や家の内部図面、小伝馬町牢屋敷の処刑場、映画『必殺! THE HISSATSU』に出てきた潜水艇のイメージ画など、ものすごく貴重な資料を拝ませていただきました。

高鳥:  美術デザイナーはセットを建てるまでが仕事で、建ててしまったあとは撮影現場に立ち会うことが少なかったそうです。当時の京都映画には美術助手がおらず、「セット付」と呼ばれる特機を兼ねたスタッフが現場を担当していました。現場で壁を壊すとか、移動させる際などでどうしてもデザイナーの出番が必要なときは、監督から「美術呼んでこい!」と言われた助監督の都築さんが、大映通り商店街にあるパチンコ屋まで走って倉橋さんを見つけると(笑)。倉橋さんはよく、緒形拳さんと並んでパチンコをしていたそうです。

秋田:  パチンコや麻雀、競馬、花札などギャンブル関係の話がポロッと出てくるのも『必殺シリーズ秘史』の楽しさですね。ギャンブラーを主役にした『必殺必中仕事屋稼業』が作られたのもある意味必然といえます。

高鳥:  じつは倉橋さんは9月9月に亡くなられ、本書を目にすることは叶いませんでした。ちょうどご家族の手元に本が届いて、持っていこうとした翌日だったそうです。セット図面が掲載されることはよろこんでいただけたそうで、本書に登場する方で唯一お会いすることはできませんでしたが、あらためて感謝を申し上げます。

▲中村家のセットイメージ画や小伝馬町牢屋敷の処刑場など、貴重な美術資料も掲載

秋田:  スタッフの方々の近影は、高鳥さんが撮影されたのですか。

高鳥:  そうです。撮影所内のあちこちをバックに、ときには光と影のライティングまで真似して、楽しく遊ばせていただきました。最初から文字だけの本にするのではなく、倉橋さんのセット図面や撮影現場のスナップ写真など、ビジュアル面を大事にしたいと思っていたんです。バストアップの写真だけにせず、高坂光幸さんだけ大八車に腰掛けた「引き」の写真を使ったりして、偏屈っぽい雰囲気が出ているんじゃないかと(笑)。みなさん、何枚か載せるつもりだったんですが、ページ数の関係もあって、泣く泣くお一人1枚ずつになりました。もっとも緊張したのは、山﨑努さんに「念仏の鉄のポーズ」をお願いしたとき。厳密には「あの〜、ひとつだけお願いしたいポーズがありまして……」「これ?(右手をひょいと上げる)」「それです!!!」という流れで、撮りながら感激していました。

秋田:  おおっ、すばらしいお話ですね! 本書のしめくくりとして、『必殺仕置人』『新 必殺仕置人』で念仏の鉄を演じられた山﨑努さんのインタビューが載っていると、発売前の告知を見た必殺ファンからの食いつきが凄かったですし、山﨑さんご自身もTwitterで「楽しかった。聞き手がよかった」とつぶやかれていて、購入前から期待値がとんでもなく高まりましたよ。

高鳥:  完成した本を持って山﨑さんのところへご挨拶に行ったのですが、そこでも非常に喜んでいただけて、こちらも嬉しかったですね。読者の方の反響もかなり大きくて、胸をなでおろしました。

2023年は『必殺仕置人』の50周年

秋田:  『昭和39年の俺たち』連載の段階で、「一冊にまとめた本にしてほしい」というリクエストがけっこうありましたし、必殺ファン的にはまさに待望の書でした。ひさしぶりの「必殺」本ですし、初日即重版というのも底力を見せた気がします。

高鳥:  評判がいいのは嬉しいんですけど、ちょっと予想以上ですね……。必殺が50周年を迎えたにも関わらず、他に目立った動きが何もないので、その分この本がお祭り騒ぎのような存在になっているのかもしれません。基本は褒めてほしいんですが(笑)、そろそろ賛否両論で批判的な声が出るころだと覚悟はしています。

秋田:  『必殺仕掛人』『必殺仕置人』など初期シリーズの思い出に比べて、『必殺仕事人』以降の作品についての証言が少ないとかの意見は、もしかしたら出てくるかもしれませんね。

高鳥:  スタッフのみなさん、深作欣二監督や工藤栄一監督の思い出話は鮮明に記憶されている一方で、80年代のシリーズについての裏話がなかなか出てこなかったですね。やはり人気が安定してきた時期のことよりも、試行錯誤の連続で苦労した初期シリーズのほうが記憶に残っている。本のコンセプトも初期「必殺」に偏っているので、80年代から現場に参加した方々に取材すると、また違った意見が出てくるでしょうね。もし第2弾がやれたら、そのあたりも探求してみたいです。

秋田:  第2弾! いいですね。ぜひ! ネットの感想を読みますと、シリーズ全作のDVDを買っていたり、各地でやっている再放送を楽しんでいたりする必殺ファンだけでなく、昔そんなのやってたなあくらいの印象しかないライト層にも、面白く読まれているみたいですね。

高鳥:  この本の内容は多少「マニアック」ではありますが、決して「マイナー」ではないと思っています。極端な話、必殺シリーズを観たことのない方、知らない方でも楽しめる本にしようという狙いがありました。言ってみれば、映画作りの職人さんたちの「すべらない話」みたいな(笑)。細かい内容はよくわからなくても、その道を全うした職人さんの談話って、面白いじゃないですか。まったく必殺を知らない人が読むというケースは少なそうですが、幅広い方々にお楽しみいただける本になっていると自負しています。

秋田:  これだけボリュームがあり、濃密な内容の本ですから、読む人にもかなりのエネルギーが必要になりますね。幸い、今は地上波、BS、CSでいろいろな「必殺シリーズ」が繰り返し放送されている上に、サブスク配信で好きなエピソードを選んで観ることもできます。高鳥さんがTwitter上で「#思い出の必殺シリーズ3本」を募集した際にも、たくさんの人が好きな作品、好きなエピソードを挙げて盛り上がりましたし、必殺シリーズの根強い人気を実感できました。

▲ハッシュタグ「#思い出の必殺シリーズ3本」ではさまざまなエピソードが投稿され盛り上がった

高鳥:  本の発売日が迫る中、宣伝するのに疲れてしまい、一度ああいうハッシュタグをやってみようと思ったんです。予想外にいろいろな方からのツイートがあって、チェックしていて楽しかったですね。結果的に本の宣伝にもなりました。今後も必殺関連の本が出るのなら、ああいうインタビュー形式のムックなんていいんじゃないでしょうか。かつて『映画秘宝』がやっていたように、映画関係者やライター、作家のみなさんに、必殺シリーズ全作から「殺し屋」「作品」「エピソード」「音楽」などのマイベストを挙げてもらう、みたいな感じで……。あとは、以前に辰巳出版の『時代劇マガジン』に掲載されていた「必殺シリーズ出演者インタビュー」を一冊にまとめた書籍を出してほしいなと、切望しています。亡くなられた緒形拳さんや藤田まことさんほか、貴重なインタビューが目白押しなので、新規取材も行なえば、相当すごい本になるのではないでしょうか。

秋田:  『必殺仕掛人』放送開始50周年となる2022年はまもなく終わりますが、来年(2023年)には『必殺仕置人』の50周年がやってきますから、記念書籍をいろいろなところからどんどん出していただきたいですね。……と言っている間に終わりの時間が迫ってきたようです。このたびは『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』にまつわる興味深いお話をたくさんおうかがいできてよかったです。正直、話し足りない気もしますので、また「必殺」についてのお話をされるときは、いつでも声をかけてください(笑)。

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6時間の対談を終え、「じゃあご飯でも行きますか?」と夜の街に消えた必殺マニアのお二人。そこではどんなお話が繰り広げられたのか、知る由もありません。しかしぜひまた、「必殺シリーズ」への熱い思いを披露していただけたらと思います(立東舎編集部)。

タイトル: 必殺シリーズ秘史 50年目の告白録
著者: 高鳥 都
定価: 2,750円 (本体2,500円+税10%)
発行: 立東舎

(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 「必殺シリーズ秘史 50年目の告白録」刊行記念対談 高鳥都+秋田英夫 「問答無用の必殺トーク 掟破りの後編!」 <後編>