昨年末公開の主演作『成れの果て』など演技派として業界内外で注目を集める萩原みのりさん主演の実話を基にした<考察型体験ホラー>、映画『N号棟』が公開になります。萩原さんは、廃団地で起こる怪現象の謎を突き止めようと奮闘する女子大学生を好演しています。本作と出会い、死生観も変化したという萩原さんに話を聞きました。

■公式サイト:https://n-goto.com/ [リンク]

●本作は<何度も観て確かめたくなるような考察型恐怖体験ホラー>ということで、新しいタイプのホラー映画として打ち出しています。

わたしはホラー映画だと思っていなくて、撮影している最中も人を怖がらせている感じはしなかったんです。わたし自身も怖がらせた覚えもなく、人と人との関係を描いていて、加奈子を演じる筒井真理子さん、山谷花純ちゃん、倉悠貴くんとの3人との関係性での出来事などが中心の物語で、わかりやすく幽霊が出るようなこともないんです。

●確かにいわゆるジャパニーズ・ホラーだと思って入ると、違う印象を受けるかも知れませんね。

ジャンルとしてはホラー映画なのかも知れないのですが、わたしには『N号棟』はホラー映画とは思えない感じがしますね。最初に脚本に目を通した時も、新しい感じの印象を受けたので、マネージャーさんに出演の判断を仰ぎました。いつもは自分で決めていたりするのですが、今回は相談しましたね。

●今作では廃団地に行ってしまう死恐怖症(タナトフォビア)を抱える女子大学生の史織役でしたが、演じる上でどのような準備をしましたか?

頭で考えて追いつけるものだとは思えなかったので、廃団地に入る前までは準備をしないようにしていました。なので入る前はタナトフォビアという死恐怖症のことだけをずっと考えて、生きること、死ぬことだけを考え、撮影に挑みましたね。

●初めて知った言葉でしたが、一般論として死は皆怖いものですよね。

わたし自身もそう思っていて、未知のことですし、その後どうなるかはいろいろと言われているけれど、誰にも分からないですよね。なので、そういう言葉があるのかと、びっくりしました。史織は廃団地の中で追いつめられれば追いつめられるほど興奮状態になっていくのですが、でもそれは、生きているという実感の裏返しなんです。実は死の恐怖が目の前に来れば来るほど、わたしは生きている、まだ死んでいないという感覚になるんです。それはわたし自身も現場で疑似体験しました。

●実際に疑似体験して気付いたことはありますか?

死に対する恐怖よりも、生き続けていることのほうが怖いという、それは初めて知る感覚でしたね。この状態が続いたらどうなるのか、初めてN号棟の団地の中に入って自分が肌で感じたことではありますね。

後は、あまりお芝居をしていた感覚がないんです。朝から晩まで廃団地にいて、自分自身が追いつめられていたし、本当に終わらないかも知れないと思っていた節もあるんです。最後の選択のシーンまで長時間ロケをしていると、だんだん錯覚してくるんです。

●あの団地の存在感が凄まじかったですね。なんとも言えない不気味な様相でした。

本物の廃団地なんです。まわりにもいくつかあって、廃墟のようになっている。それがズラッと並んでる景色は人生で見たことがなかったですし、そんなに古くもないのに、どうしてここが廃墟になっているのか、不思議なことがいっぱいありました。とてつもない量の廃棄物があるのですが、それが美術ではなく実際のものであったり、現実と作りものの境目がだんだんわからなくなってくる感覚はありました。

●今回の作品に出会ったことで、何か価値観が変わったことはありますか?

撮影に入る前に死についてたくさん考えたからこそ、終わった時になぜ生きているのかについて考えるようになりました。どうせ死ぬのは変わらないから、どう楽しく生きるかのほうがよい、とか。子どもの頃から死ぬとどうなるかを漠然と考えてきたけれど、死んだらどうなるかよりも、死ぬまでどうするかを考えたほうが充実するなと思うんです。それは、この作品と出会って考え方が変わったことですね。

●ところで、俳優のお仕事を始められて10年ほど経ったと思いますが、今何か思うことはありますか?

友だちに言われて気付いたことがあるのですが、デビューした時から悩みがあまり変わっていないんです。台本読みの日や初日を迎えると、ずっと同じことが怖いですし、同じことがまだ不安ですし、10年経ってしまったという感覚です。10年やってきたというよりは、10年経ってしまったという感覚のほうが強いです。10年という月日を進んできたというよりは、気付いたら流れ着いたみたいな感じです。

ただ、10年やると現場でもいろいろな方との再会が増えて、続けてきた実感がありますね。昔お世話になった方などに「大きくなったね」と言われると、長年このお仕事をしてきたなと思う。それを急に感じる瞬間はあります。

●昨年末公開の主演作『成れの果て』や舞台「裏切りの街」も評判でした。最近の充実ぶりは目を見張るものがありますよね。

不思議なのですが、ありがたく思います。自分の中ではずっとコンプレックスで生きてきた目力や顔面の強さみたいなものを、映画や舞台になるといいものとして使ってくださるから。ほめられるのはだいたいが目なのですが(笑)、それは肯定してもらえるので、自分の嫌な部分を「いいよ」と言ってもらえている感じがするんです。毎回救われているような感覚になります。

●ファンのみなさんの声援も熱いですよね。

伝わってほしいこと――強い部分だけでなく、弱い部分もお客さんはちゃんと受け取ってくれるんですよね。なので役を準備する段階で1個だけではなくて、いろいろな要素を詰め込みたくなるんです。たぶん気づいてくれると思っています。映画や舞台を好きな人たちは本当によく観てくれるので、レビューも毎回楽しく読んでいます(笑)。

●最後になりますが、今回の『N号棟』を待っている方たちへ一言お願いします。

この映画はちょっと元気な時に観たほうがいい気がします。そしてこの映画を観た後は、なぜ自分は生きているのだろうではなく、これからどう生きていこうかとポジティブなほうに受け取っていただければいいなと思っています。

●今日はありがとうございました!

■ストーリー

とある地方都市。かつて霊が出るという噂で有名だった廃団地。女子大生・史織(萩原みのり)が同じ大学に通う啓太(倉悠貴)・真帆(山谷花純)と共に興味本位で訪れると、なぜかそこには数多くの住人たちがいる。3人が調査を進めようとすると、突如激しいが起きる。そして、目の前で住人が飛び降り自殺をしてしまう。驚く3人だが、住人たちは顔色一つ変えない。何が起きているのか理解できないまま、その後も続発する、自殺とラップ現象….住人たちは、恐怖する若者たちを優しく抱きしめ、仲間にしようと巧みに誘惑してくる。超常現象、臨死浮遊、霊の出現…「神秘的体験」に魅せられた啓太や真帆は洗脳されていく。仲間を失い、追い詰められた史織は、自殺者が運び込まれた建物内へ侵入するが、そこで彼女が見たものは、思いもよらぬものだった…!

『N号棟』
(C) 「N号棟」製作委員会
配給:SDP
4月29日(金・祝)新宿ピカデリーほか全国公開

(執筆者: ときたたかし)

情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 廃団地が舞台の映画『N号棟』主演・萩原みのりインタビュー 「死の恐怖が目の前に来れば来るほど、わたしは生きているという感覚に」