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ロシア軍が2022年2月24日に開始した軍事侵攻により、ウクライナの首都キーウ(キエフ)は欧米情報筋に「48時間以内に陥落する可能性がある」と見られていましたが、結果として2022年3月末には攻略を断念。ロシア軍は「ウクライナ東部へ戦力を集中する」としています。
イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)』は、2022年4月10日の記事で「キーウはウクライナの創意工夫とロシアの過ちによって救われた」として、キーウ北部の森林地帯が防空システムを含めた要塞化されていたことや、重要な橋やドニエプル川の水門を破壊し侵攻ルートを限定したことに加えて、夜間時の対策やアプリ・SNSの活用など、あらゆる手段を用いて撤退に追い込んだことを報じています。
森林地帯に強固な陣地が構築されていたことで、当然ロシア軍の攻撃対象になったのですが、ウクライナ軍の兵士たちは西側各国が供給した対戦車ミサイルで反撃。とりわけ、夜間に「カレマットを頭上にかざしてドローンによる探知を防いだ」とあるのは注目に値します。
おそらく赤外線を遮断するために、発泡ポリエステル製で遮光性の高いマットを用意したものと思われますが、FT紙によるとかかった費用は1.50ポンド(約246円)。これで無人機のセンサーをかいくぐり、少数チームによる奇襲をかけ、対戦車ミサイルを発射。離脱にも成功したといいます。損害が続出したロシア軍は森林地帯を南下を断念して、大きく西に巡回してキーウを目指しますが、防空システムが生き残ったことにより、航空支援のないままの進軍がウクライナ軍に阻まれる結果となりました。
また、同記事ではSNSアプリ『Telegram(テレグラム)』を開戦初期より活用していたことにも触れています。多くの民間人がチャットボット「STOPRussian War」にロシア軍を見かけた場所を入力し、軍の攻撃を助けたといいます。
さらに、ウクライナ政府は身分証明証・運転免許証・COVID-19のワクチン証明書などをデジタルに集約したポータルアプリ『Diia』に、市民がロシア軍の所在地を簡単にアップロードできる機能を実装。デジタル変革省の担当者は「市民の報告が本当に大きな役割を果たした」「これが戦争の新しい現実です。彼らは21世紀版のパルチザンです」と述べたといいます。『Diia』のチームはロシア側の撹乱を防ぐためにレポートをフィルタリングしてから軍隊に報告していたため、ある意味ではスマートフォンを持った人の皆が索敵を担っていたと言っても差し支えないでしょう。
この通報システムに気づいたロシア軍はスマホの没収、PCやタブレットを壊して回ったといいます。また、通信の遮断を試みて4G移動伝送ユニットを破壊しますが、同時にロシア軍の暗号化システムも使用不可に陥りました。このため、極めてアナログな傍受されやすい通信に頼らざるをえなかったことは、さまざまな通信内容が流出したことからも覗えます。
FT紙は、他にもロシア軍の硬直的な計画や2014年のクリミア併合以降にウクライナ軍が経験を積んでいたことなどをキーウ侵攻を阻んだ要因に挙げています。しかし、兵士による創意工夫や、政府公式アプリの運用などウクライナ側の創意工夫も見逃せないポイントといえるでしょう。『Diia』は軍への寄付の調達や被災補償金の申請なども可能で、ワンストップのポータルアプリが戦時にも活用されていることについては多くの示唆に富んでいるのではないでしょうか。
参考:How Kyiv was saved by Ukrainian ingenuity as well as Russian blunders(The Financial Times)
https://www.ft.com/content/e87fdc60-0d5e-4d39-93c6-7cfd22f770e8 [リンク]