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『マグネット島通信』(バンチコミックス)『片隅乙女ワンスモア』(バーズコミックス)『明日の恋と空模様』(ヒーローズコミックス)などの伊藤正臣先生(@itoomi)が、2017年のコミティアで頒布された『サパロット』を電子書籍化。第1話の『ナムプラーの台所』がTwitterで公開されています。
不登校のひきこもり高校生の家にプリントを届けにくるクラスメイト女子の驚きの正体(1/5) pic.twitter.com/H2kHYiqJD2—伊藤正臣 (@itoomi) February 12, 2021
不登校のひきこもり高校生の家にプリントを届けにくるクラスメイト女子の驚きの正体(3/5) pic.twitter.com/weOMjJUmPd—伊藤正臣 (@itoomi) February 12, 2021
不登校のひきこもり高校生の家にプリントを届けにくるクラスメイト女子の驚きの正体(5/5) pic.twitter.com/zzPmV5ccMZ—伊藤正臣 (@itoomi) February 12, 2021
「じいちゃんの方も大変かもしれないけど、そろそろ帰ってきてもらわないと俺の方が先に詰みそう。昨日でカップ麺切れたし」と冷蔵庫を見ながら電話する男子。「は? 料理とか無理に決まってんでしょ。外食!? 引きこもりナメてんの? 棚? 何漬けてあるって? アン、チョビ?」と瓶を見つけますが、蓋を開けてみてその匂いに悶絶。
「なっちゅーモンを開封させてくれたんだ。死ねる臭さまで腐敗してんじゃねーかコレ」と悪態をつきながら、「早く…破棄を…」と玄関を開けたところで女子と出くわし、「うげっ!ウチの制服!」と思いますが、相手から「あっ、…みっ、南…氏?」と呼びかけられます。
「は…はじめまして? 私…えっと、クラスメイトの…知ってますか?」とポニテ女子から聞かれて、「いえ? まったく。入学式以来不登校ですし」と警戒しつつ答える南。「ですよね。あの私、いつもポストにプリント届けに来てるんですけど」「あ、ども。ぶっちゃけプリントとか要らないんだけどね」「だとは思いますが…一応」と話して無言になったところで、「? 何か」と聞くと、「や、南氏って引きこもりだって聞いていたんですが、一応外にも出るんだな、と」と言われて「すいませんね、ヒキコモレベル低くって」とカチンときて、「では籠もりますのでコレは」と家に戻ろうとしたところで「あっ、待って」と言われ、「それっ! その匂い! ナンプラーですよね!」「はっ? コレはアンチョビという謎の腐敗物で」「ほらやっぱり! アンチョビはイワシの塩漬け! 発酵食品で腐ってるワケじゃありません! アンチョビを作る際出る水分がナンプラー! …調味料なんです」と食いつかれた上に、「あの! ソレ少し譲ってくれませんか」「え?」「あるクラスメイトにプレゼントしたいんです」とお願いされます。
「そういや名前って」と聞かれて「あ、えっと、三菱と申します」と答える女子。「南です」「ひきこもりでお馴染みの」「!?」となかなかに毒舌。そんな三菱さんは「南氏はご存知ないでしょうが、今クラスに交換留学生が来てるんです。タイ人の」と語り、「名前はルタイチャノック・ゲットチャット。名前じゃ判別付かないでしょうけど女の子です。でもまぁタイ人には名前が2つ、本名と愛称があるんです。愛称の『ブック』が一般的な呼び名です」と話し、南から「ややこしいね」と言われるのに構わず、「そのブックなんですけど、なんかクラスに馴染めてないんです。それどころか、クラスの面倒な係とか押し付けられてるんですよ」と話します。南が「日本語で意思疎通が出来ないからでは?」と聞くと、「残念。彼女上手です」と否定。それに首に手を当てて「ま…日本人て排他的なトコあるからね」と答えて……。
「馴染める馴染めないは、タイ人に限らずなわけだし」という南に、「あー。でね、そうなるきっかけ的なことはあったんですよ」とスルーして続ける三菱さん。「ブックが来てすぐ、調理実習があったんですね。班で自由課題だったんですけど、ブックは食材を他に用意してて、献立とは別にタイ料理を作ったんです。でも、それがすっごいマズかったんです」と語ります。「私もタイ料理食べた事あるから分かります。アレは完璧調味料足りてなかったですね。だからまずかったんだと気づいたわけですよ私は!」と盆栽を折りつつ話して……。
「はら、この町田舎だし、そーゆー外国の食材売ってるお店ってないじゃないですか」という三菱さん。「でね! 実は来週また調理実習があるんです。ちゃんとした調味料が揃えば、今度はブックもおいしいタイ料理を振る舞えるかも」「で、ナンプラー」「交換留学は1学期だけ。もうすぐ帰国しちゃうんです」と袋入りの瓶を上げてみせ、南に「リベンジさせていい思い出を作って貰おうって感じ?」と聞かれて「はいっ!」と答えます。
「ホントにタダでいいんですか」と言われて「別に。むしろ処分してもらいたい側だし」と南。「ありがとうございました! ブックもきっと喜びます」とお礼して駆け出すのを見つめて、「あ、やっぱ待って。ルタイチャノック・ゲットチャットさん」と呼び止めます。
目を見開いて、そのまま踵を返そうとするのに「いやいや、ちょっと待って! ルタイ…ブック! ブックさん?」と言われ、「いいえ。私はしがない日本人、田中三菱」と言い出すブックに、「三菱って名前なの!」と突っ込みつつ、「いやいや確かに言葉と外見じゃ気付かないけど、なんか…主観的な表現があったってゆうか」と推理を語る南。「調理実習の話さ、班で決まってる中、勝手にタイ料理作ったって聞いてフツーに俺は、協調性ないなと思ったワケ。ハブられる原因なら味よりまずソコかなーって。なのに善意の第三者がリベンジの為に同じ事させようってのは不自然かな…と。とっさに考えた偽名はウチの車からでしょ」といい、「あと、ホラ。クラスの不登校児にプリント届ける『クラスの面倒な係』」と付け加えます。
バッグを持ち替えた時にゴムが取れてまとめていた長い髪がバサっと広がったブック。「えー。日本語と外見では絶対バレない自信があったのにー。もっと惨めになっちゃったじゃないですかー」とうつむきつつ文句。無言な南に「…ここで慰めや励ましの言葉をですね」と促し、「や、上辺の言葉とか逆に要らないでしょ。俺もさっきスルーされたし」「南氏って意外に根に持つタイプですね」「じゃあ…そんな事」「もう結構です」と言い合いに。
「あ、呼び止めたのは、やめた方がいいと思うよって言おうと思って。来週タイ料理作るの」という南に「それは、もう既にそのツモリです」と答えるブック。「あと…悪いけど、タイ料理て日本人の口に合わないのでは。ソレ…めっちゃ臭いし」との言葉に「はぁぁぁぁーー!? 失礼な!!」とキレて、「タイ料理は多くの日本人に好きられている料理なんですーーーっ!」「ブックさん! ここにきて日本語にエラーが!」となったところで腹の虫が鳴った南。「失礼。今日はまだ食事してなくて。しかしカップ麺切れてて。というのも親が田舎帰っててそもそもロクにご飯食べてなく」との言い訳を聞いたブックは……。
家に上がって台所に立ったブック。「熱したフライパンに油。みじん切りしたタマネギが炒まったらとき卵入れまーす。卵が固まらないうちにすかさず温めたご飯投入しまーす」と話しつつ、「調理実習でね、私がナンプラーだと思って買って用意した物何だと思います?」と聞いて、「んー、生活排水?」「なワケないでしょ」と怒りつつ、「なんと胡麻油! 調理室で臭い嗅いで気付いた時には手遅れでしたよ。私、こんなに日本語ペラペラなのに漢字だけは全く苦手なんです」と明かします。
「カニタマ入れて炒めまーす」と器用にフライパンを振る姿に、南が「てかホントにタイ人?」「ホントです」「何かタイ語で喋ってみて?」と言うと、少し考えてから何やらひと言。「もしかして『バカ』とかそーゆー?」と聞かれて「!」「ギクって…ブックさん?」と心暖まるやり取りをしつつ、「塩コショウした後にナンプラー少々…もうちょっと炒めて…。タイ風カニタマチャーハン、完成でーす」と皿に盛り付けて出します。
「しれっと臭い汁入れおったな…」「臭い汁言わない」といい、「さぁ食べて! とってもアローイです。アローイはタイ語で『美味しい』ですよ!」と促すブックに、くんくんしながら「あの汁のせいでアロくない予感がしますが」と言ってぱくっと口に運んだ南は……。
「あ、コレ、フツーのおいしいわ」との言葉に頬を染めたブック。「…でっ、でしょう! だから言ったじゃないですか」「ん! アロい! 新しいわ。なんというかアジアな味?がする」と言われて、「……日本も一応アジアなんですけどね」と返しつつ、タイでお母さんと「料理…教えて」「えぇ! どうしたの急に!!」「…来年、私、日本に留学行くでしょ。日本の友達にタイ料理作ってあげたいと思って」とお願いしたことを思い出してました。
「ごちそーさまでしたー。という事で、盆栽折った件はチャラにしてあげましょう」という南に、「げっ! 気づいてたんですかアレ!」と驚き、「気づいてないとでも?」「思ってました。ボーっとしてそうだし」というブック。微笑を浮かべて「そういえば南氏は、どうして不登校なんですか?」と聞かれて、今度は南が「えっ! それ今聞くの…?」となるのでした。
もともと2013年5月の関西コミティアで持ち込みをして、『月刊バーズ』(幻冬舎コミックス)に掲載された『ナムプラーの台所』。伊藤先生は「好きなものを詰め込んだマンガを描こうと思って、ボーイミーツガール・日常ミステリー・タイ料理の縛りで考えたマンガです」と語ります。「タイ料理が好き」といい、とりわけ「ラープムーという料理が好きです。豚のひき肉のサラダで、作中でプックが調理実習で作ろうとした料理です。レモン・ナンプラー・ミントと意外な組み合わせの味付けで、サッパリとおいしくてオススメです」と話してくれました。
ストーリーについて「面白い」という声が上がっていたほか、ブックのことが「健気でかわいい」という反応が寄せられていたことに、「とにかくたくさんの方に読んでもらえて嬉しい限りです。ずっと前に描いたマンガなのですが、Twitterにアップしなければ、反応も何もなかったんですよね。登場人物の幸せを喜んでもらえる反応を頂いて、僕も幸せな気持ちです」という伊藤先生。「これは読み切りで描いたマンガですが、2人の続きやその後を追加で描いた『サパロット』を、先日電子書籍で自費出版しました。よろしければ読んでみて下さい!」とのことなので、気になる人はぜひチェックを!
※画像はTwitterより
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