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10月2日(金)に公開される映画『フェアウェル』は、ルル・ワン監督がメガホンをとった映画。『オーシャンズ8』『ジュマンジ/ネクスト・レベル』への出演で知られる女優/ラッパーのオークワフィナが主演した作品だ。2019年のサンダンス映画祭でプレミア上映された本作は、『ムーンライト』や『ミッドサマー』などで知られるA24が破格の金額で配給権を購入。その後、全米4館から始まった興行は拡大し、米国内で約1,770万ドル(約18億6,642万円)の興収を記録するスマッシュヒットとなった。また、第77回ゴールデングローブ賞でオークワフィナがアジア系女優初の主演女優賞を獲得するなど、批評面でも高い評価を受けている。
そんな本作で描かれるのは、中国系アメリカ人であるワン監督が実生活で経験した出来事をもとにした物語。物書きを目指してニューヨークで奮闘するビリー・ワン(オークワフィナ)は、中国・長春で暮らす祖母・ナイナイが余命いくばくもないことを知って帰郷。病状をナイナイ本人に隠し、静かに見送ろうとする家族にビリーは反発しながら、東洋と西洋というふたつの価値観の間で揺らぐ姿を描く。
『クレイジー・リッチ!』などアジア系キャストをメインとした映画が躍進する昨今のアメリカで、それらの作品とは似て非なる形で評価される本作。ルル・ワン監督は自身と家族のきわめて私的な経験を物語にすることで、何を表現しようとしたのか?
――ご自身とご家族を題材にした、とても私的で繊細な作品だと思いました。なぜ、映画にしようと思われたのでしょうか?
もともと、自分の家族について綴りたいと長い間考えていました。よく、映画作家は「自分のよく知っているものを題材にしなさい」と言われますが、やはり私にとって家族ほど知っているものはないと思ったんです。それと、すごくユニークな視点を持ったものになるんじゃないか、とも。特にアメリカでは、『フェアウェル』のようなお話は多くはないんですよ。それはつまり、移民の家族について、あるいは二つの文化・二つの世界の間で葛藤する物語ということです。ただ、「家族の物語を撮ろう」と思っても、プロットも、設定も、目的もきちんと持たせたものにしたかったので、この出来事が起きたときには「完璧だ!」と思いました。家族のキャラクターも含め、とても悲しいことではありますが、笑えるところもありますし、結婚式もの、お葬式ものといったリユニオン(再会)の話でもあります。そういった古典的な要素や型もありながら、決してありがちなものにはならない。この題材であれば、家族を映画にしても、喜びやユーモア、悲哀やパトスを描けると思いました。
――主演のオークワフィナさんが素晴らしかったです。オーディションで出演が決まったそうですが、どこに惹かれたのでしょうか? ラッパーあるいは女優としての彼女はご存じだった?
オークワフィナさんに初めて会ったのは、カフェで一緒にコーヒーを飲んだときです。彼女は脚本を読んでくれていて、「この役を本当に演じたいんです」と言ってくれました。ただ、その時は、彼女の音楽の仕事、つまりラッパーとしては知っていたんですが、女優としてはよくわかっていなかったんです。『オーシャンズ8』や『クレイジー・リッチ!』以外で、それほど多くの作品に出演していたわけではなかったので。だから、正直に言うと、「この役にあうかな?」と思いながら会いに行きました。そこで彼女は、中国人のおばあちゃんに育てられたことなど、自分の生い立ちについて話をしてくれました。その後、出演シーンの一つを演じて、その映像を自分で撮って送ってくれたんです。それを観て、「彼女、完璧!」と思ったんです。
――具体的にはどういう部分が?
彼女のむき出しの部分、つまり人間的にリアルなところが素晴らしいと思いました。それと、自然と備えているユーモアのセンス。ある意味で、暗いテーマところもある作品なので、そのユーモアが役に立つんじゃないかと思ったんです。わかりやすく喜劇的なシーンがあるわけではないんですが、例えばナイナイと関係の中で生まれる化学反応というか、二人のやりとりの中で彼女の持つユーモアのセンスが活かされると思いました。
――最初のプロットの段階で、主人公の名前がオークワフィナさんの本名と同じ「ノーラ」だったそうですが、それは単なる偶然ですか?
そうなんです。面白いでしょう(笑)。
――登場する家族のみなさんも魅力的でした。なかでも、おばあさまの妹さん=リトル・ナイナイが個性的だったのですが、彼女だけは俳優さんではなく“ご本人”だそうですね。
それは、キャスティングを進めていく段階で、彼女のような人がほかにいない、唯一無二だと思ったからです(笑)。彼女は、それくらいすごく特別なんですよ。すごくユーモアのある人なんですが、同時に悲哀や痛みも秘めている。もし、彼女の役に俳優をキャスティングしても、演じることで行き過ぎたユーモアになりかねないと思いました。実は、彼女の衣装も本人のものなんですよ。
――へえ。
最初は衣装デザイナーに「エキセントリックなものを」と注文したんですが、持ってきてもらったものがちょっと映画っぽ過ぎたというか、ちょっとかわいすぎる、ちょっとエキセントリックすぎるものだったんです。本人のものが一番良かったので、本人の服を着てもらって、本人が有機的に演じてもらったら、とてもバランスが良かった。チャーミングで、ユーモアがあって、同時に笑いながら、みんなに「大丈夫。何とかなるよ」と“良いウソ”を言っていても、瞳の奥には悲しみや痛みをたたえている。そういう特別な人なんです。
――アメリカ映画として製作されていますが、セリフのほとんどが中国語(北京語)ですね。チャレンジグなことだと思いますが、やはり拘られた部分なのでしょうか?
こだわったところですし、必要なことでした。ハリウッドではなく、自分のやり方でやることが大切だったんです。確かにチャレンジグではありましたが、だからこそ、ハリウッドのスタジオ製作の映画であれば、もっと幅広く、わかりやすいコメディにするであろうものを、低予算のインディペンデント映画として作る道を選んだんです。
――なぜ、“幅広く、わかりやすいコメディ”にしなかったのでしょう?
重要なのは、この作品が自分にとって非常に私的なものだということです。言ってしまえば、家族というものは、最も私的な題材ですよね。そんなものをハリウッド作品として映画化して、もし受け入れられなければどうなるか。わたしは中国人ではないので、中国に行って映画を作っていくことはできません。もし、アメリカの映画作家として作ったものとして観てもらえないのであれば、この先もアメリカで、ハリウッドで映画を作ることができなくなってしまかもしれない。あるいは、もしかしたら、別の業界に移ることを考えなければならないかもしれない。だから、映画作家としての自分について、わりと実存主義的に考えた結果でもあるんです。この作品は、「映画作家としての道が自分の前に拓けているのか?」ということを確認するためにも、作らなくてはならないものだったんです。
映画映画『フェアウェル』10月2日(金)公開/30秒予告(YouTube)https://youtu.be/2hZZaGMrlZY
『フェアウェル』は10月2日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
インタビュー・文=藤本 洋輔
映画『フェアウェル』
(2019/カラー/5.1ch/アメリカ/スコープ/100分)
原題:THE FAREWELL
監督・脚本:ルル・ワン
出演:オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、チャオ・シュウチェン 水原碧衣
字幕翻訳:稲田嵯裕里
配給:ショウゲート
公式サイト:http://farewell-movie.com/
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(執筆者: 藤本 洋輔)