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どうもライターの丸野裕行です。
いやぁ今回の山登りの取材は、ヤクザ事務所で住み込むよりも、チャイニーズマフィアにインタビュー取材するよりも、怪奇現象が起こるという開かずの間があるラブホテルで室内清掃のバイト体験をするよりも、とある格闘技業界の裏側の記事を書いて政治結社から脅迫電話かかかってくるよりも、一番の苦行でした。
普通の人なら「いや、そっちの方がイヤやろがい!」とツッコむかもしれませんが、筆者にはその比にならないくらい辛いことだったのです。
それはなぜか……筆者は《極度の高所恐怖症》なのです!
脚立に登ったことがない、ジャングルジムの一番上に生まれてこのかた登ったことがないという高所恐怖症の筆者が、様々な著名人が厄落としのために幾度も挑戦したパワースポットと呼ばれる険しい山を登るとどうなるのか。
実際に登ってみてわかった注意点とこれからこの山に登ってみたいという読者のために役に立つ情報を踏まえて、お送りしたいと思います。
むかいましたよ、大阪から!
<写真:既に緊張した面持ちの筆者>
鳥取県東伯郡三朝町にある山・三徳山。山の標高は、正しくは899.6メートルになります。
706年(慶雲3年)、役行者たちによって、修業道の開祖として“修験の霊地”と定められ、それは今まで脈々と伝わっています。三徳山全域エリアが、天台宗修験道三徳山法流の三徳山三佛寺の境内という扱いになっているそうです。
山の名前の由来としては、《蔵王》《子守》《勝手》の三所の権現を、山の中に祀って、「福徳」「智徳」「寿徳」という3徳を授かることができるというこの山の由来、「法身=美しい」「般若=濁りない」「解脱=心が悟りを開く」という意味の3徳に由来しているとのこと。
頂上付近の麓に、国宝である投入堂(なげいれどう)は、日本一危険な国宝として広く知られています。この奥院にある建物・投入堂ですが、三徳山中腹の断崖絶壁に浮かぶかのように建てられているために、他に類を見ない建築物として有名です。
簡単には登れない霊山として、著名人たちや観光客はそのありがたさに厄落としにやってきて、その後成功をおさめるといわれています。実際に俳優やタレント、モデル、お笑い芸人などの芸能人もテレビ番組収録で命がけで登っています。
最近では『世界の果てまでイッテQ!』でいとうあさこさんが登ったり、『ウソかホントかわからない やりすぎ都市伝説』であばれる君がチャレンジしたり、『予約殺到!スゴ腕の専門外来SP!!』ではマテンロウのアントニーさんが投げ入れ道まで到着したそう。芸人さんも大変です。
この話を、コロナ禍での緊急事態宣言で、全館を閉めざるえない選択を強いられた山陰の有名温泉地・三朝温泉『旬彩の宿いわゆ』代表の知久馬先輩に、以前からお聞きしていたのです。
「手塚治虫賞を受賞したタロウちゃん(矢部太郎さん)は、この山に登って、あんな立派な賞を獲ったと思うよ。それほど、すごいパワーを持った霊山やから」
「ホ、ホンマですか! じゃあ僕も!」
一応、ハイキング的な山や標高900メートル程度ある山であれば、石段を駆け上がるくらいの体力はあるので、できるものと筆者は確信していました。
しかし、現実はそんなに甘くはなかったのです……。
参道への階段をあがり、すぐに納経所がありました。
入山料を納めてお札を受け取り、投入堂への参拝登山の受付所へ。気のよさそうなお父さんが、靴や服装に関してのチェックを行います。
入峰修行受付所では服装や靴をチェックされます。足元の岩場にコケなどが生えているので、靴底が滑るサンダル、革靴などは全面的にNG。さらに、足場やつたう木の根をを傷つける登山靴やスパイクも使用禁止です。
ですから、ここで人生で二度目に履くわらでできた草履(購入価格:700円※当時)に履き替えることに……。そんなに大変なの? 山道を登っていくだけでしょ?
そう思っていると、ニコニコとした初老の夫婦が山道から帰ってきて、「帰りました~、ああ、今からですか? 行ってらっしゃい」と夫婦で軽くスカッシュでもやった感じの爽やかな汗を輝かせながら、挨拶してくれます。ほぅら、このご夫婦が登れるんだよ! 大そうに、草鞋ってさ……。
何人で登るのかのパーティー人数を記帳し(1人での登山は不可)、わげさ(輪袈裟)という法衣を手渡されます。首から《六根清浄(ろっこんしょうじょう)=六根は、眼と耳、鼻、舌、身、意の意味で、その五感と心のこと》のたすきをかけます。
なんだか、山登りくらいで重々しいなぁ……。
そろそろ、と歩きはじめた一行。まずは、行者道入口のゆるいアーチがここちよい宿入橋(しゅくいりばし)。ここからが、下界と霊山との結界になるそうで、ここから参拝登山がはじまります。
山道というよりは獣道に近い道を、知久馬先輩のあとに続きながら、ひょいひょいと登っていきます。このくらいなら楽勝だぜ!
と、10分ほど駆け上がっていくと、目の前に『トトロ』か『もののけ姫』か、というような木の根っこが……!
「な、な、なんなんですか、これ!」
「ああ、これ? 樹齢何年くらいになるんやろうな?」
「あの先を急ぎましょう!」
「なに言うてるんや、これによじ登るねん。《かずら坂》っていうんやけど」
「ええっ!!」
先輩が4~5メートルもある木の根を、ひょいひょいとよじ登っていきます。ええい、ままよ!
一旗揚げるために、筆者、木の根っこに飛びつきました。中ほどあたりで振り返ると、ジャングルジムより高い……。しかも上から見ると、周囲はすでに崖だらけ。もちろん命綱など皆無。
<写真:ずっと続くよ、かづら坂>
手を離せば落ちる……、落ちれば崖に真っ逆さま……そんな恐怖ばかりが支配する中で懸命によじ登ることしかできません。なんやこれ、こんなん登山やないやん! 参拝ロッククライミングやん!
「この岩がえぐれているのは、修行者の足跡がここまでくぼみをつくったわけ。永年踏みしめたから、こんな足跡みたいな形になってるわけよ。どう進みやすいやろ?」
先輩、その話はいい……。後ろは全部、断崖絶壁じゃないですか……。怖いんです、怖すぎるんです……。
「ああマルちゃん、この石が積まれた石段って《開眼二十段》って呼ばれてて、昔盲目の修行者が願かけしながら麓の方からひとつずつ運んできて、二十段目を積んだときに見えなかった眼に視力が戻ったんやて」
先輩、もう怖いよ……。なんだかその話も怖いし、後ろから石積みにきている人がいそうだから、後ろも振り向けないよ~。
目の前に立ちはだかるのは、巨岩にぶらりと垂れ下がった金属製の鎖。え、ウソでしょ?
「これ登っていくんやけど、そのあとに10メートルくらいの文殊堂に続く鎖も登っていかないといかんから、そのつもりで(笑)」
とりあえず、両手に全力を集中し、足を踏ん張って登る。高さとしては、3メートルほど。これでも十分怖い。
「せ、先輩、やっぱり高さがムリです! 体力云々というよりも高さが! ちょっと休憩しましょう! 休憩させてください!」
少し平らになった場所で、通りがかったコンビニで買った麦茶を流し込みます。周囲を見渡せば、崖、崖、崖、陸の孤島のようになっているこの場所の真ん中に俺はいる。高さに気分が悪くなった筆者は仏様にお断りして、思わず吐いてしまいました。すいません、仏様。
国の重要文化財・文殊堂が見えてきましたが、ゴツゴツとした10メートルほどの傾斜65度ほどの岩肌に長い鎖が垂らしてあるだけ。
泣きながら、ちょっとチビリながら数ミリずつ登ります。
「絶対に後ろ見たらアカンで! 見たら、足が動かへんようになるから!」
なんで、俺入場料と参拝料払ってこんなことしてるんやろう……。とりあえずなんとか上がりましたが、手と足が震え、腰が抜けてしまい、文殊堂までのひと踏ん張りができません。
ここでもう8合目ほど。しかし筆者は燃え尽きました。
室町時代に建立されたと推定される文殊堂は、縁をめぐらせるということで360度周囲を歩きまわることができる舞台づくりになっているとのこと。
標高約500メートル~600メートルほどの岩場にせり出す御堂は、手摺りのない幅60cmほどの舞台。ここから楽しむことができるというパノラマの大絶景はひと目見る価値があるといわれています。
<写真:一緒に登った『大川商事株式会社』大川貴仁代表。余裕でくろいでます>
断崖絶壁の開放感の中、四季折々の風に吹かれながら、美しい景観を味わうことができるそうです。ここら一帯は、史跡名勝指定も受けているということ。高いところが好きな方にはいいのではないのでしょうか。
「早くあがっておいで。いい景色やで! 気持ちのいい風が吹いているよ!」
上の文殊堂から声が降ってくる。でも、怖くて体が動かないんですよ、ホントに。周り全部、崖じゃないですか!
でも、これでは、収拾がつかない。覚悟を決め、立ちふさがった巨岩に鎖が刺さった90度の鎖坂をのぼり、やっとの思いで文殊堂へ……。
「この舞台を一周しないと、御利益ないし、厄落としにならんで」
「いや、先輩ムリです! 手すりひとつないじゃないですか!」
「壁づたいに這って進めばええよ」
「こ、怖い……せりだした部分から吹く風が怖い。小鳥の声が怖い……」
もし、せり出した部分を這っているときに地震があって、この建物が崩れたらどうするのか、激しい突風が吹いて飛ばされたらどうするのか、そんなことばかりが頭をよぎります。
結局、15分ほどそこら押し問答をして、この時点でリタイヤ。あとで投入堂へむかった先輩たちの後姿をみていると、すぐそばが崖で、歩幅20センチもない道をひょいひょいと歩いていきました。どうかしている。落ちたらどうするのか。
先輩たちが投入堂から帰還してきて、話を聞くと、投入堂はすぐそこにあるといいます。
しかし、最後の難関として、滑落事故が起こりやすい《馬の背・牛の背》という。両側が切り立つ岩場の尾根道があるということでした。そこでよく足を滑らせて、人が亡くなるととのこと。おい、そんなところ、俺が行けるかい! 死んでたかもしれんがな!
・「ライトな登山」レベルではないことを肝に銘じること
・極度の高所恐怖症の方は絶対に行かないように
・下山してから水分を摂ろうと思っている方は命取りになるので、水かお茶を必ず持参
・草履は、難関があらわれたときに逐一結び直す
・一緒に登る人のペースに合わせない(休憩したいときには恥ずかしがらずに申し出る)
・危険なところで写真を撮らないこと(プロカメラマンが滑落死することもしばしば)
・危険を感じたら、仲間に促されてもそれ以上は進まない(死ぬことを恐れてください、これが勇気)
<写真:今回ご協力いただいた鳥取三朝温泉『旬彩の宿いわゆ』の知久馬宏平代表>
帰りに、この三徳山のマスコットキャラクター・みとちゃんがいましたが、筆者はこっそりと舌打ちしました。
今、これだけは言えます。「もう二度と、山に登るぜ!」なんて絶対カッコつけません……。
https://www.youtube.com/watch?v=dEwlPD7ejds
【ガジェット通信『極度の高所恐怖症の丸野裕行、三徳山文殊堂・投入堂登山でヒドいめに遭う】
『三徳山三佛寺』
住所:鳥取県東伯郡三朝町三徳1010
TEL:0858-43-2666
入山受付:8:00~15:00 ※本堂自体は17:00まで
定休日:無休で期間内のみ ※参拝登山時は、雨天時積雪時は不可(例年、12月~4月1日頃まで入山禁止)
入山料:投入堂参拝登山料+入山志納金/1,200円(大人)600円(小中学生)、本堂まで/400円(大人)200円(小中学生)
(C)写真AC
(執筆者: 丸野裕行)