- 週間ランキング
どうも、ライターの丸野裕行です。
売り手市場の現在、実力を持て余した優秀な人材をできるだけ多く確保したいとせめぎ合っている求人市場。
それを担うのが、通称・引き抜き屋と呼ばれるプロのヘッドハンターである。
ヘッドハンターとは経営の主力になっている幹部や特定のスキルを持った人材を、外部の企業からスカウトするという仕事のことを指す。エグゼクティブサーチともいわれる。
あなたは自分にヘッドハントの声がかかったらどうしますか? もしあなたが“ヘッドハンティングされたときのこと”をポジティブに捉えているとしたら少々ご注意を。ヘッドハンターというこの知られざるビジネスの予備知識を身につけておくことをおすすめします。
今回、話を聞いたのはヘッドハンティング会社に勤務して16年になる杉田成美さん(仮名、45歳)。現在、彼女はヘッドハンティング会社のナンバー3として活躍している。杉田さんの手にかかれば80%以上のハンティング成功率になるそうだ。
「今は優秀な人材確保がメインになっていますが、人員整理が多かった時期には、ダメ人材をヘッドカッターする方が多かったですね」
彼女が話してくれたのは、交渉や口説き落とし、人の人生まで転落させる恐ろしいまでのハンティングの手法だった。
丸野(以下、丸)「どういうキッカケでヘッドハンターになったんですか?」
杉野さん「外資系ということもあり、勤めていた大手人材派遣会社を辞め、ヘッドハンティングを行っている『レイズコーポレーション(仮名)』のリクルーティング部に入社しました。配属になったのがヘッドハンティングの中枢部署で、突撃部隊ですね、いわば。使命としては、コストカットするための問題を“仕事ができる人材”の確保で、解決するというものでした」
丸「入社時は、大不況のころですよね?」
杉野さん「そのころのビジネスシーンでは、スピードが最重要。新人を大量に採用して、数年かけて教育するヒマなどなく、早く業績回復を目指す。リーマンショックがあった頃に、本社前でヘッドハンターがハゲタカみたいに群がっていた光景って覚えてませんか? あんな感じで業務を進めていました。さらに、ヘッドハンターというのは、スカウトだけではありません。取引する企業の内情を知り、業績改善にはどんな人材が必要なのかを分析し、スカウトと採用プランを作成します」
丸「今って、ヘッドハンティング業界もオープンになってますよね? 会社員がヘッドハントのオファーを受けるのを待つスカウト機能が確立されたサイトなんかもありますしね」
杉野さん「まず先輩から教えられたのは、クライアントと常にコミュニケーションを取ること。企業の問題を会話から読み取って、どんな人材が求められているのかを決めるんです。キャンディデイト(ハンティング候補者)との信頼関係というのも大切になります。私の担当は、サーチ型のヘッドハンティングでした。企業側から依頼を受け、初めて動きます。優秀な人材を探す最も簡単な方法は、企業の求人サイトにある“先輩の声”でインタビュー掲載されている社員を狙うんです」
丸「ほほう」
杉野さん「企業に直に電話をしたり、SNSなどでアポを取り、料亭やレストラン、バーなどで口説き落とします。それが高級店であればあるほど、人は自尊心を刺激されます。最近は日本でもヘッドハンティング特集があったりと、クローズアップされていますから、ホイホイと」
丸「まぁそうですよね」
杉野さん「そこで、相手が何を求めているのか、どこで心を動かすかを見極めます。給与面や人間関係、仕事観、移る会社の規模などなど、質問は計6つほどですね。それからは、食事しながら相手の仕事への向き合い方を2時間ほど熱く語らせます。しかし、ここまでがうまくいったとしても、初めて会ってから実際に転職させるまでに、半年~1年以上の時間を要することになりますね。それだけ仕事ができるのなら、今籍を置いている企業が手放すわけがありませんし」
丸「飼い馴らすんですか? かかった飲食費用や工作費用は依頼会社持ちなんですか?」
杉野さん「はい。依頼会社にそれほどの負担をさせているのですから、ビジネス用語で相手と対等に会話できるほどの知識を毎日学ばなければいけません。これには苦労させられますね。でも、年俸1,000(万円)であれば、良しとしないといけませんね」
杉野さん「昔需要が高まっていたのは、ヘッドハンティングを装うリストラ工作でした。私たちが“ヘッドカッティング”と呼ぶその手口というのは、相手を破滅に誘うものです。引っかかる人間は能力もなく、お金ばかりを追っている連中です。オイシイ話に惹かれ、さっさと今の会社を辞めるのですが、結局はヘッドハンティングの話は全部ウソ」
丸「ええっ!」
杉野さん「一応、試用期間で採用するカムフラージュというかポーズをとるのですが、試用期間は試用期間ですから……。相手は、行き場所を失って、はい終わり。個人的には、こんなリストラにヘッドハンターを利用してほしくないんですが、時代が求めていたので仕方ありません」
丸「ということは、目立った活躍があるわけではないのに、ヘッドハンティングのお声がかかったら、“リストラかもしれない……”と疑った方がいいのかもしれませんね」
杉野さん「そうかもしれませんね。その頃は、それが私の収入の5割を占めていました。僕が入れば業績が上がる、なんて言っている勘違いちゃんばかりなので、そのときにはあまり罪悪感はありませんでした。企業の重役、管理職者、弁護士、医師、会計士、プログラマー、SE、デザイナーなど、様々な職種の役に立たない人材をヘッドカッティングしました」
丸「恨みを買ったりはしないんですか?」
杉野さん「そりゃ、買いますよ」
丸「でしょうね(笑)」
杉野さん「母親と一緒に会社にクレームをつけにきたマザコン工業技師やクビの理由が顔のせいだと思って整形を繰り返したウエディングプランナー、うちの会社のフロアで脱糞する弁護士など、ヘッドカッティングのダメージは人を狂わすようです。一番ひどかったのは、借金まみれの証券マンでした。会社帰りにつけ狙われることになって、暴走車で突っ込んできて……。あのときは、生きた心地がしませんでしたね」
■
話しひとつで、相手の人生を左右させるヘッドハンターという職業。読者の皆さんも、うまい話にはお気をつけいただきたい。
その“ヘッドハント”は本当に引き抜き? それとも……?
(C)写真AC
―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 丸野裕行) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか