今回は『市立しものせき水族館 海響館』より魚類展示課 荻本啓介さんの記事からご寄稿いただきました。


解説パネルの裏側「長~い名前の、深~いヒミツ」(市立しものせき水族館 海響館)


飼育スタッフの密かな悩み。それは伝えたい情報の全てを館内の解説パネルに書ききれないことです。そこで、私のお魚探検隊では数回にわたって、そんな情報を補足していきます!今回は、海響館初搬入の「ビアデッドレザージャケット」のお話です(図1)。



いろいろ「長~い」


 この魚は、あたたかい海にすむ、細長い体が特徴のカワハギの仲間です。さらに、和名(日本語の名前)「ウケグチノホソミオナガノオキナハギ」は、魚類の和名の中で最長!暗号みたいな名前ですが、実はこの魚の特徴をよく表しています。「ウケグチノ ホソミ オナガノ オキナハギ」・・・「受け口の(口が上を向いている) 細身(体が細長い) 尾長の(尾ビレが長い) 翁(下アゴにヒゲがある=おきな) ハギ(カワハギ)」(図2)。ね、わかりやすいでしょう!?



命名秘話


 それにしてもこの和名、長すぎな気が・・・。そこで、名付け親である北海道大学名誉教授の尼岡邦夫先生にお聞きしました。


(1)こんなに和名が長い理由

 先生曰く、「命名当時、和名が日本一長かったミツクリエナガチョウチンアンコウ(深海にすむアンコウの仲間)の16文字より、長い和名を付けたかったから」とのこと。思ったよりもストレート!ウケグチノホソミオナガノオキナハギは、1字だけ上回る17文字ですが、ここにもこだわりがありました。実はこの和名、5、7、5の俳句になっているのです。テレビ番組などで紹介された際も、日本人には覚えやすい名前として好評だったそうです。長いだけではなく、使う人のことも考えた粋な命名だったんですね!

ちなみに、最初は簡単に記録を破られないように下の句「オマエソレデモカワハギカ」を用意していたそうですが、流石に長すぎると諦められたとのこと・・・先生、確かにこれは長すぎです!!( ´艸`)


(2)和名に秘められたストーリー

 実は、ウケグチノホソミオナガノオキナハギは日本にはすんでいません。そのような魚たちの多くは和名がつけられていないのですが、どうして日本にいないこの魚にこんなに長~い和名が付けられたのでしょうか。先生にお聞きしたところ、ずばり「混乱を防ぐため」とのことでした。


 今から40年ほど前、先生の研究チームは新しい漁場にどんな魚がいるかを調査していました。そこで記録された魚たちには、既に学名や英名(図3)がついているものもありましたが、日本人が情報を整理し、将来の混乱を防ぐために、日本語の統一された名前=和名が必要でした。さらに、もしその魚が食用などになれば、統一された和名は尚更重要となります。例えば、高級感を出すためにタイの仲間とは関係ない魚に、勝手に「~タイ」という名前を付けて売る人がいたら、消費者を欺くことにもなります。


 このような理由で命名された魚の中に、この魚もいたわけです。生き物に和名をつけるということは、私たちがその種を正しく認識するために、すごく重要なことなんですね^^。



名前の他は…


 とはいえこの魚、食用にならないマイナーな種だけあり、その生態は謎に包まれています。このヒゲ、長い尾ビレはどんな働きをしているの?なぜこんなに細長い体になってしまったの?疑問は尽きません。ここを観察できるのが水族館。泳ぎ方、エサの食べ方、楽しい発見がいっぱいです。次はこの発見を解説しようかな。皆さんも、是非この魚の秘密を探りに、会いに来てください(図4)!



魚類展示課 荻本啓介

2019年07月12日


 

執筆: この記事は『市立しものせき水族館 海響館』より()魚類展示課 荻本啓介さんの記事からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2019年10月23日時点のものです。


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 解説パネルの裏側「長~い名前の、深~いヒミツ」(市立しものせき水族館 海響館)