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今回はespimasさんのブログ『病院で働く事務職員のブログ』からご寄稿いただきました。
※元記事のタイトルは「病院における急変対策(1):院内における急変予防のシステム」です。
現在、私は救急外来・集中治療室の分野に関わる委員会の事務局を担当しています。
月に一度、院内で急変した患者の振り返りを委員のメンバーと行っているのですが、特に急性期病院ではとても大事な取り組みや課題がいくつかあるので、その点について書いていきたいと思います。
テーマがやや大きいので、「急変予防」「急変対応」の二つに分けて書きます。第1回は、「急変予防」について。
大切なのは集中治療室の外での急変予防!
救命外来や集中治療室のエリア以外の医師や看護師は、「医療」の専門家であっても「集中治療」の専門家ではありません。定期的な蘇生訓練などは受けていても、日常的に重篤な状態にある患者の評価やモニタリングを行っていたり、訓練をするわけではありません。
一方で、一般床に入院する患者でも、急変して集中治療室に入室するような患者は一定数存在しています。このような患者が「急変」となる前に、その兆候(バイタルサインの悪化や神経状態の微妙な変化など)を把握し、院内の急変対応チームに応援を仰げるシステムにつなぐことこそが、「医療の質」と言えると思います。
急変予防システムの仕組み
急変予防は、英語だと「Early Warning」とかに訳されます。
「Early Warning」って言葉で聞くとなんだかカッコいいですが、要は前段でも述べたように、現場のスタッフが「ちょっとこれはヤバそう!」と感じた時に、素早く急変対応チームにアセスメントしてもらい、必要であればICUなどに早期に移動させる体制のことを指します。
院内におけるセカンドオピニオン的な役割を担っているといえるかもしれません。
当院の場合ですと、ICUの看護師に24時間体制で相談用のPHSを携帯してもらい、受け持ちの患者に何か不安があれば、職種を問わずそこにかけてICU入室の適用になるかの相談をしてもらっています。
相談するための基準は、
・呼吸器系の問題(呼吸回数の変化、SpO2の低下など)
・循環器系の問題(血圧や脈拍数の急激な変化、異常など)
・神経系の問題(意識レベルの急激な低下など)
・その他、医師・看護師が一般病棟での管理が困難と思った状態
など、複数の基準を設けてどこかに合致すればよいとして、「結果的にオーバートリアージとなるのは問題ないので、気軽に連絡してください!」というメッセージのもとに、運用がなされています。
現在の最も大きな課題は、「急変予防のための制度はあるが、使われない」という一点かなと思います。
「使われない」という部分が改善しないと急変予防の制度を確立した意味はありませんので、今年度からは急変対応の振り返り結果を、スライド2~3枚で院内の各会議体で報告するようにしています。
「早めに急変予防の相談をしてくれてありがとう!」というような成功事例を中心に共有するようにしていますが、それだけのフィードバックではなかなか件数が増えてこないのが現状です。
その他ちょっと根が深い問題が、「看護師が医師に気を使って、急変予防の相談が遅れる」というものです。
患者さんに一番近くで治療をしている看護師の方でも、急変の兆候を見出した時は「まず担当の医師をコールする」という意識が強く、担当の医師を飛ばして急変予防の相談をするということには躊躇するようです。(院長や救急部の部長は、「急変予防の相談をするスタッフを絶対に責めないように!」とはお達しをしてくれていますが。)
ただ、担当の医師がすぐ捕まりやすい平日日中の時間帯ならまだよいのですが、夜間帯や土日祝日だと
・そもそも担当科の医師につながらない
・普段その患者さんを診ていない別の診療科の当直医師が診に来ても経過観察の指示
…などで、現場としてはもやもやする場面も多いようです。
会議でもよくこの話になるのですが、「やっぱりまずは主治医に話をした方がいいよねぇ。」なんて話になることもあって、やはり医療の世界の根底には「患者ファースト」の陰に「医師の世界」がまだまだ存在するのだなぁと痛感させられます。
自分の家族が入院したとしたら、助けてくれるのは主治医の医師でなくても、病院にいるどこかの医師でいいと思うのですけどね。
「看護師が医師に気を使って急変予防の相談が遅れる」という問題は、委員会でも重大な課題と認識しており、これから院内に様々な働きかけをしていく予定です。
私自身が患者の「急変予測・急変対応」をすることはできませんが、医師と看護師の間に入って話し合いの場を設けたり、よりよいメッセージを打ち出すための支援をすることは事務職の腕の見せ所であり、病院内でも問われる役割だと考えています。真の意味での「急変予防のシステム」を確立できるよう、この課題解決に力を入れてやっていきたいと思います。
執筆: この記事はespimasさんのブログ『病院で働く事務職員のブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年10月12日時点のものです。